連続講座「飯沢耕太郎と写真集を読む」 植田正治、「写真する」喜び

20回目となる今回は、前回に続き植田正治さんを取りあげました。(前回のレポートはこちら

写真集食堂めぐたまの写真集の持ち主、飯沢さんのお話を聞きながら、植田正治の写真集をじっくりと見ていきます。

今回も、植田正治事務所の増谷寛さんをゲストにお迎えしました。

植田正治の写真集で注目したいのが、本につけられた題名です。植田がつけた題名はどれも、心にすっと入ってくるような飾り気のない美しさがあります。

山陰地方の子ども達を写した『童暦(わらべごよみ)』(1971年)、雑誌『カメラ毎日』で1974年から1985年の12年間にわたり連載された「小さい伝記」は、地域に根付く風土と、そこに住まう人々の“何てことのない姿”に目を向けていく植田正治の姿勢が、その題名によく表されています。

また、シリーズ作「風景の光景」(1970〜80年)やヨーロッパを訪れて撮った写真をまとめた『音のない記憶』(1974年)といった題名からは写真を撮ることを「写真する」と表現した植田の哲学的な一面も感じさせます。

そしてその題名の元にまとめられた写真たちは、これもまた“何てことのない姿”のように見えて、植田ならではの、間のとり方、シルエットのあり方、瞬間の捉え方、が存在しています。それは、人や物の配置にこだわった演出と構図、現像時のさまざまな技法を駆使した写真加工によるものであり、飯沢さんが「1冊に1つのドラマがある」と言ったのもうなずけます。

2000年に亡くなる直前まで、意欲的に写真を撮り続けた植田正治。写真集の数々から、小さくてさりげない物にも目を凝らし、「写真する」喜びが伝わってきました。

次回は、1人の写真家を取りあげるのではなく、「肖像写真集」をテーマにさまざまな写真集を紹介していきます。

(2016年3月5日開催・写真/文 館野 帆乃花)



「飯沢耕太郎と写真集を読む」はほぼ毎月、写真集食堂めぐたまで開催されています。

2017年1月開催分からは解説のたっぷり入ったロングバージョンをお届けします。

次回開催予定の講座:飯沢耕太郎と写真集を読む Vol.28 「ラテンアメリカ写真を語りて、世界を震撼せしめよ!」(2017年1月29日)

著者フォローとタグ「飯沢耕太郎と写真集を読む」のフォローをお願いします。