BDアニメ New Frontier 第14回『装甲騎兵ボトムズ 孤影再び』

※2011年7月発売号の原稿です。

【惹句】リアルロボットアニメの極北が描き出す、不死身の戦士の孤高さ。

 ボトムズは30年近い超長期シリーズとなったリアルロボットアニメのブランドだ。しかし、同じサンライズ制作・大河原邦男デザインのガンダムと比べると、その魅力は大きく異なっていて、非常にクールなものである。

 まずボトムズとはロボットの固有名詞ではない。アストラギウス銀河の百年戦争に投じられた使い捨ての二足歩行兵器AT(アーマードトルーパー)の総称であり、それに乗り込むしかない底辺の人びとのことだ。そしていくつかの外伝を除外すれば、1983年のテレビシリーズ以来、主人公キリコ・キュービィーの異常な戦闘力と生存能力の謎を連綿と追い続けている。

 物語の時間軸も、テレビ版以前、途中描かれなかった部分、はるか30年後と自由自在に行き来し、さまざまな戦場におけるドラマを描いてきた。キリコ自身はいつも寡黙に戦って、襲いかかる敵を排除するが、ときおり真逆の人間くささや優しさを垣間みせる。それは3人の仲間、そして同類の恋人フィアナと、戦いの中で見つけたかけがえのない絆がいるためなのだ……。

 ハードなメカ戦闘とソフトな人の感情。この激しいコントラストが観る者の胸を打つユニークな作品である。

 オリジナルの高橋良輔が原作・監督をつとめたこの最新OVA「孤影再び」も、49分の短い尺でボトムズのエッセンスを濃密に描きぬいている。近作ではATなどのメカ描写にはCGが適用され、HDのデジタル制作となったが、それによってキリコが示す卓越したAT操縦とバトルテクニックは、さらに輝きを増した。砂漠の交易都市で懐かしい仲間たちと再会したのもつかの間、包囲する「黒い稲妻旅団」の凶悪なAT250機と戦い、突破しようと試みるキリコ。

 冷凍睡眠によって彼の年齢は保たれ、その強さと優しさも前と変わっていない。しかし、仲間には着実に30年という時間が刻みこまれ、加齢して子どもも生まれている。それは現実世界にいるわれわれ観客の時間経過ともシンクロしているため、不思議な気分になってくる。「いま」観ることにこそ価値のある作品なのである。

【2011年7月3日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)