女王様のご生還 VOL.19 中村うさぎ

何ヶ月かに一回、死体の夢を見る。

こないだ見た夢は、こんな内容だった。



薄暗いトンネルに入り口にいる。

目の前を茶色いコートの男が歩いていて、どうやら私の知り合いらしい。

トンネルに入ると、男が立ち止まり、「この先で殺人事件が起きた」と告げる。

「現場を見たいか?」

もちろん、見たい!

本当は関係者しか入れないのだが、茶色いコートの男は刑事らしく、私を中に通してくれる。

トンネルの黒いコンクリートの地面に、女の死体が転がっている。

全身の骨を折られたのか、頭と足がくっつきそうなほど背中を反らした不自然なポーズだ。

足もどこか奇妙な形に曲がっている。

服は着ていないようだが、顔は鮮やかな色のメイクで彩られている。

なんだかシュールな絵を見ているような感じがした。

それから男に案内されて、奥の検死室に行く。

台の上に銀色のアルミのトレイが置かれていて、中に血まみれの内臓が入っている。

先ほどの死体を解剖したようだ。

台のそばには背の高い女が立っていて、顔の半分だけ派手な化粧をしている。

よくよく見ると、それは、さっきの鮮やかなメイクをした死体の顔だった。

台のそばに立つその女は、死体の女から剥ぎ取った皮を半分だけ被っているのだった。

こうやって死体を復元するのか、と感心したところで目が醒めた。



こうやって書くとめちゃくちゃ不気味な夢だが、夢の中の私は特に怖いとも気持ち悪いとも思っていない。

ただ淡々と死体を見て、死体の皮を被った女にも驚かない。

不思議である。

なんだか映画でも観ているような感覚だ。

まぁ、映画でも、死体の皮を被った女なんか出てきたら少しはギョッとすると思うけど。

でも映画ならそういう場面で効果音などがあるものだが、夢の中ではまったく無音だ。

だから、よけいに淡々とした気分なのかもしれない。



数ヶ月前に見た夢は、もう少し「怖い」という感情があった。

それは、こんな夢だ。

道を歩いていると、たくさんの人間の皮が散乱しているのが見える。

だれかが殺して皮を剥ぎ、そこに捨てているらしい。

この時点では、私はあまり恐怖を感じていない。

しぼんだ風船のように人間の形をしたままペッチャンコになっている皮を眺めながら、そのまま歩いて行く。

しばらく歩くと、一軒の家の前を通りかかる。

庭で男たちがバケツのようなものを囲んで何か作業をしている。

見ると、死体から皮を剥いでいるらしい。

そうか、さっきの死体の皮は、こいつらの仕業か。

そう思った瞬間に、怖くなった。

自分も襲われて皮を剥がれるんじゃないかと感じたからだ。

彼らと目を合わせないよう、急ぎ足で通り過ぎた。

道端には、点々と死体の皮が落ちている。

こんなに堂々と人殺しが行われているのに、警察は何をしてるんだと思った。

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