質屋の業態は存続できるのか?大黒屋に学ぶ新結合のビジネスモデル=理央周

質屋ビジネスは将来も続くのか?

【質屋というビジネスモデル】

あなたは「質屋」というビジネスモデルを、知っているだろうか?

その定義は、「何らかの物品を質(質草、担保)に取り、流質期限までに弁済を受けないときは、当該質物をもってその弁済に充てる条件で、金銭を貸し付ける(融資)事業を行う事業者あるいは店舗を指す」(Wikipediaより)

とある。

質屋営業法に基づいて商売をする、いわゆる物を担保に、金を貸してくれる業態のビジネス・モデルだ。

しかし、質屋というビジネス形態の認知度は、20歳代以上で6割、質屋自体も、その数を右肩下がりで減らしている、というデータもある。

さらに、消費者金融の多様化などで、金を借りられる「選択肢」も増え、他業態と比較され、「暗くて入りにくい」「古い」というイメージがついているとのことだ。(ダイヤモンドオンライン:消えゆく質屋、4割が商売自体を「知らない」を参考)

【大黒屋のビジネスの定義】

では、すべての質屋が苦境に追い込まれているのだろうか?大黒屋を事例の考えてみたい。

1947年に千葉で「質屋」として創業した大黒屋は、千葉の総本店を中心に、関東、中部、関西、九州、全国22店舗。今もホームページなどに大きく「質」の文字を掲げているが、そのイメージは「古物商」それも、ブランド買取りの大黒屋、というイメージが強い。

大黒屋の直近の業績を見ると、対前年比での売り上げに関して、2017年3月期の予測売り上げを下方修正してはいるものの、ここ数年売り上げを伸ばしている。

もともと「売りたい」と「買いたい」という、2種類のユーザーのニーズを満たすのが、リサイクルショップだ。

一方で、質屋のビジネスモデルを、生活者からの目線で考えてみると、質屋の潜在的な顧客は、短期的に「お金」が必要で、かつ、担保になる流動的な物を持っている人、ということになる。

「似たニーズを持っている人たち」をターゲットにしている業態に、「古物商」いわゆるリサイクルショップがあるといえる。

質屋とは、持っている不要な物を、短期的に預け金を借りるのではなく、「売る」点が違う。

「なんだ、違うビジネスモデルじゃないか」と思うかもしれないが、自社目線でなく、ユーザーがもっている“ニーズ”、「不要な物をもっていて、換金したい」という意味においては、かぶる部分がある。

大黒屋では、「不要なものがある生活者」に、売って現金を得るか、預けて現金を借りるか、という選択肢を与える。ユーザーからすると、どちらかを選べるのが、あるようで他にない。

質屋または古物商のどちらかだけでは、類似点(=Point of Parity)の真っただ中、いわゆるレッド・オーシャンだし、しかも質屋ビジネスは市場規模も減退傾向だ。

しかし、2つを合体させると、質屋のニーズ、古物商のニーズどちらも満たせる。言い方を変えれば、どちらの客も来ることで、新規顧客も開拓できるという、新結合的なブルー・オーシャンになるのだ。

もう一点、ホームページトップにあるように、「中古ブランド品」というカテゴリーを、集中してコミュニケーションしている。

消費者向けのビジネスにおいて、あるカテゴリーで自社または商品を、「最初に思い出してもらう」、すなわち、想起してもらえることは重要になる。

そのためには、ある程度の市場規模がある、特定のカテゴリーで1位になることが必要である。大黒屋の事例でいうと、数多い中古ショップのなかで、「ブランド売るなら大黒屋」となることが重要になる。

【中小企業は大黒屋に何を学ぶべきか?】

自社が戦っている市場は、いずれ衰退していくものである。多くは、黒船がその業界を破壊しにくる。したがって我々は、その脅威に備えなければならない。

質屋の業界の衰退も、買取店の台頭で、顧客ニーズを拾いきれなかったのが一因であろう。

大黒屋の事例から学べることは、顧客ニーズをとらえ、先手を打つこと。特に、ターゲット層が、今は気づいていないが、心のどこかで価値を感じていること、すなわち、潜在的なニーズをいち早く発見し、自社が提供できることを素早く実践することだ。

もう1点は、狭い分野でもよいので、1位になること。

最低限の市場規模があり、かつ、自社が勝てる狭い分野で1位になることで、思い出してもらえる「想起度」を上げること。そして、直後に周辺需要に対応できるように、横展開の仕組みを入れておくことが重要だ。

■目次

… 1. 特集  「質屋の業態は存続できるのか?」

… 2. コラム 「気分転換でクリエイティブに」

… 3. 書評  「イシューからはじめよ」

… 4. ワンポイント時間術「To Do List よりDon’t Do List」

… 5. 著書・イベントのお知らせ

… 6. 編集後記

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