(緊急寄稿)アルマーニ服問題釈明会見に感じる「怒り」の理由

高級ブランド・アルマーニ社製標準服導入を決めた、東京都中央区立泰明小学校の和田校長が釈明記者会見を開きました。公開されている全会見映像(1時間20分)を見て、この事件に感じる違和感と、それが引き起こす怒りに近い反発心の原因が見えてきました。





舛添元都知事批判と同根

「泰明小らしさ」を実現する上で、「泰明ビジュアルアイデンティティ(VI) 」の導入が欠かせない(2/9和田校長会見)とのことが、標準服導入を決めた理由だそうです。この理由に誰もが納得どころか、違和感しか感じないことが炎上騒動となった理由でしょう。

校長の言うように、小学校の教育方針を決めるのは校長であって、それに沿った施策として標準服導入が欠かせないのであれば、それを阻止する手立てはないようです。しかし泰明小は区立です。自らがオーナーである私立小学校であれば、この決断は何の批判も呼ばないというか、既にそのような学校はきっとあるのだろうと思います。公立小という税金を使った学校で、自らのやりたいことを強行した手法が反発の原因です。そうです、舛添元都知事が大批判から辞任に追い込まれた時と状況はそっくりです。

ブランド服がダメなのではありません。都知事がファーストクラスで移動し、高級ホテルスイートに泊まることが良い悪いではなく、テレビなどで活躍した裕福と思われる舛添氏が、ポケットマネーで泊まっているならむしろ「さすが舛添」という評価すらあり得たでしょう。都民が誰も望んでいない自らの権威付けを、すべて税金で賄った姿勢が反発を呼んだのです。

泰明小問題では、アルマーニが悪いのではなく、公立小学校長という立場にもかかわらず、法外な価格の標準服を導入し、一方的にそれが教育方針だからでねじ伏せようとした態度が反発を呼んでいるのです。





お粗末なブランド認識

2/9の会見で校長は、同小学校の「服育」やビジュアルアイデンティティを確立するために欠かせないものだと訴えました。しかし記者からそのビジュアルアイデンティティの実体が何かについて聞かれても、明確な説明はできていません。

かつて民間企業では大金をかけて取り組んだCI(コーポレートアイデンティティ)作りが流行しました。筆者もブランド構築に長年携わってきたので、CIやプロダクト、サービスのブランドコンセプト作りプロセスは認識しています。

民間であれば、分厚いCIマニュアルのような、コンセプト作り、すべてのビジュアルイメージやらコミュニケーション活動はすべてそのコンセプトに基づいて進めることが欠かせません。しかしながら「ブランドには詳しくない」「(ファッションブランドに)専門的知識がない」(2/9校長会見)とのことで、そのビジュアルアイデンティティで実現したいコンセプトの説明もできず、実際に服を製作したメーカー選定も、適当に知っているブランドに電話をかけただけで進めたとしか考えられません。





公務員としてのプロセスの欠落

自らオーナーを務める私立校ではない区立小の校長が、こうした大きな金銭に関わる決定をしたにもかかわらず、その決定・推進プロセスに大きな問題があります。その発注プロセスをすべて水面下で、しかも契約書も見積書も一切書面やメールといった証拠も残さず進め、保護者には9月に新標準服導入を発表したと言いつつ、それがこれまでの何倍にもなるという価格については11月になってから通告したという、あまりにもずさんな進め方でした。

経緯を中央区に口頭で報告していた(2/8中央区会見)のであれば、中央区もともに責任は免れないでしょう。おカネ抜きに物事を決めて動かす組織などあり得ません。民間はもちろん、公務員の世界はなおさら適正な発注プロセスが定められているはずです。発注に際して国立大学などはその事業担当者ではなく、専任部署が進め、同時に恣意的な発注を防ぐために相見積もりや、金額によっては入札を行うような公正透明なプロセスがあります。

しかし本件では「ブランドには詳しくない(2/9校長会見)」校長一人が電話のみで、どんどんと進めてしまいました。発注プロセスの透明化どころか、「発注契約書もない」(2/9校長会見)ままでです。結果、昨年11月に初めて価格提示を受け、「アルマーニだからこのくらいする」(2/9校長会見)と、そのまま言い値を飲んでしまい、総額小学生一人あたり8万とも9万ともされる今回のアルマーニ導入が「決定」してしまったのです。





癒着はあったのか?

ファッションブランドの知識も発注知識もない人間が、相見積りも無く、選考検討委員会も設けず、業者の提示価格を言い値で飲んということを、「癒着が無い」と思う方に無理があるといえるでしょう。ただ私は、2/9の会見を見た個人的印象として、今回の事件に恐らく癒着はなかったのではないかと感じています。

時として摘発される恣意的発注事件など、もっと上手に偽装をします。今回の手口はあまりにずさんすぎて、そのような工作の跡を感じません。そうではなく、マーケティングもブランドもアパレル製作にも無知であるにも関わらず、自らの思いと愚かな業務推進で突出しただけのことなのではないでしょうか。

非常に不適切なプロセスだし、全く同意できない決定ではありますが、少なくとも会見を通じて、私腹を肥やすような目的ではないという印象は出ていたと思います。ある意味学校業界以外の世界を知らないまじめな方が、やらかした印象です。もっともこの2/9会見は謝罪会見ではありませんので、現時点で校長は方針を変えるつもりはないとのことです。





教育上の懸念

2/9会見では、「泰明小らしさ」は高級ブランドでないと実現できないのか?という記者の質問に対し、「高級な服なので大切に扱うだろう(2/9校長会見)」との回答でした。これは裏返せば「高級でなければ大切にしなくて良い」という思考とも取れ、きわめて危険な側面があります。

学校教育の現場では、自殺者が絶えないほど深刻ないじめ問題が依然としてあります。そんな環境において、明確な貧富の差を、正にビジュアルで決定付ける行為が区立小の施策でしょうか。そうした差については、「相談」や「ご理解いただく」(2/9校長会見)ことで済むと考える感覚は、あまりにも現実感と当事者意識がないといえます。

記者からもアルマーニを着せないと、そのビジュアルアイデンティティは実現できないのか?と質問され、それは内面の問題であり絶対ではないとの回答でした。そうした差をトラブルにしないよう、担任など通して指導をしていくとのことですが、そんなことが本当に実現できるでしょうか。「校長自らが全校に徹底する」のではなく、担任経由、担任まかせともとれる言い方に、信頼を置くことはできません。

会見を見て、私はこの事件が癒着などではなく、校長の考えに基づく行動の結果だという印象を強くしました。ビジュアルアイデンティティについて全否定をするつもりはありません。ただ、それを実現するだけの説得力があまりに欠けており、また公立小学校という税金で成り立つ小学校で、そうした無理のある理念実現をしようとしていることに、私自身は強く反発と怒りを感じているのだと思います。