BDアニメ 厳選!俺流アニメ 第8回『魔女の宅急便』『機動戦士ガンダムUC』

※2013年5月発売号の原稿です。当時公開の劇場映画レビューつきです。

【惹句】大空を飛翔する爽快感。心理の揺れを反映した濃密な美術世界が、鮮やかな再現度で胸に迫る!

●ジブリブランドの運命を変えた転機の意欲作

 今でこそ盤石のブランドとなったスタジオジブリ作品――だが、国民的なヒット作となった最初の映画は、1989年公開の宮崎駿監督作品『魔女の宅急便』であった。魔法使いの少女がホウキに乗って空を飛ぶファンタジーであるが、主人公のキキが親元を離れて一人暮らしを始め、魔法を「仕事」として社会に居場所を見つけるという点にフォーカスした物語となっている。

 彼女の懸命な姿が、それぞれの職場で奮戦している若き女性たちの心をゆさぶり、これがヒットの軸となった。このムーブメントが90年代にビデオグラム化されたジブリ作品の再評価で拡大する。

 今回のブルーレイ化で驚いたのは、透明感あふれる発色の深みだ。大空のコバルトブルーに代表される清涼さ、草花の色合いの豊かさ、そして欧州風煉瓦づくりの町並みが持つ「人の生活」の厚みが、ひときわ印象に残る。手に持った地図に描いてある文字の細部やビッシリ描きこまれた遠景の家々など、ディテールが向上することで気持ちがよりビビッドに伝わってくる。

 背景をまとめた美術監督は、後に『おおかみこどもの雨と雪』など名作を多く担当する大野広司。爽快な飛行シーンなど動きの見せ場は森本晃司や井上俊之、金田伊功ら名アニメーターが担当してリッチな気分にさせてくれる。

 女性の自立という難しいテーマに沿って、心情の絶妙なゆらぎが描かれている映画だが、その成功要因はこうした背景の美しさや動きの緩急など映像表現が心に刻んだ印象なのである。高画質の威力で一気に映像世界に引きずり込まれ、心がシンクロする感覚を、ぜひ堪能していただきたい。

●クライマックスを目指し

 キャラの心情が錯綜する

 宇宙世紀のガンダムシリーズを福井晴敏のストーリーで総括する『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』。3月2日からイベント上映される第6章「宇宙と地球と」は、次の最終章に向けて圧力を高める回だと思った。敵と味方の協調と対立が複雑に入れ替わる中、各登場人物が寄せる想いと立場と過去への執着の相互作用でダイナミックに絡み合う様相が最大のみどころ。

 すべての中心に位置する主人公バナージは、混沌の人間模様から何をつかむのか? 宿敵フロンタルが盛んに強調する「器」など大いなるクライマックスの布石が満載で、最後まで目が離せない緊張感にあふれた章である。

【2013年1月27日脱稿】初出:「月刊HiVi(ハイヴィ)」(ステレオサウンド刊)