あなたは大丈夫?――① なぜ、働く若者は「死」を選ぶのか?

【あなたは大丈夫?――① なぜ、働く若者は「死」を選ぶのか?】

「1日20時間とか会社にいるともはや何のために生きてるのか分からなくなって笑けてくるな」――。

電通社員だった高橋まつりさん。残業時間が100時間を超え(持ち帰り残業含む)、肉体的にも精神的にも限界をとっくに超え、苦しくて苦しくて仕方がないのに、健気にがんばりつづけた末の自殺だった。



まつりさんの死から2年。

広告代理店最大手・電通の石井直社長は1月に辞任。

国会でも「長時間労働是正」にむけた議論が続いている。



だが、実は問題は「長時間労働」だけじゃない。まず、「過労死」と「過労自殺」を分けて考えないことには、過労自殺は後を絶たない。



そもそも「過労死等」とは……、

1.業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡

2.業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死

(これら脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害も、死に至らなくとも「過労死等」に含まれる)

過労死等防止対策推進法で、こう定義されている。



そう。過労死“等”。



1の「過労死」と2の「過労自殺」は明確に区分されているのだ。

以前、ある大学教授が「自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」とコメントし、炎上したことがあったが、もし氏が「1」の過労死を意味していたとしたら、自己の肉体への過信である。

国内外を含め多くの研究で長時間労働および深夜勤務と、脳血管疾患若しくは心臓疾患とは強く関連していることが認められている。

また、人の前頭葉には「疲れの見張り番」のような機能があり、アラームが鳴ると「疲れてますよ。休んでください。寝てください」と指示が出る。ところが、指示を無視して働き続けると、見張り番自体が疲弊し機能しなくなる。

その結果、実際は疲労が蓄積し体は悲鳴をあげているのに、それが自覚できず「忙しいのに馴れた。睡眠時間が短いのにも馴れちゃった」という状態に陥り、心筋梗塞や脳溢血などの病気を発症し、死にいたってしまうのだ。

つまり、ここでのポイントは「長時間労働」と「脳血管疾患・心臓疾患」が、直接的に関係している点だ。

フィリピンから来ていた技能実習生の男性が、2014年4月に従業員寮で心疾患のため27歳で亡くなったのが「過労死」と認定されたが、男性のひと月の残業時間は、78時間半~122時間半。「リサイクルショップに娘のお土産を買いにいくんだ」と同僚にうれしそうに話していた翌日、長時間労働が命を奪った。

「本人のやる気ややりがいに関係なく、長時間働き続けるだけで過労死する危険性」が誰にでも存在するのだ。



一方、「過労自殺」という言葉は、過労死問題に長年取り組んできた川人博弁護士によるもので、1998年に、自著「過労自殺」(岩波新書)の中で使われたのが始まりだった。

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