女王様のご生還 VOL.205 中村うさぎ

私は「ドラゴンクエストX」というオンラインゲームをやっていて、そのゲーム内で某チームに属している。

ある時、そのチーム内で、チームチャットでの下ネタ禁止令が出た。

私を含む数人のメンバーがちょいちょい下ネタジョークに興じているのが耐えられない、という女性メンバーからの苦情があったからだ。

彼女の主張によると、以前下ネタで男性たちにからかわれた経験があり、それがトラウマになっているのだということだった。



念のために言っておくが、私たち下ネタ好きメンバーたちは誰か特定の個人を名指ししてその人にまつわる下ネタを言っていたわけではない。

ごくごく一般的な下ネタの応酬をしていただけで、参加したくないメンバーは無視していればいいと思っていた。

だから誰も彼女を下ネタ会話に巻き込むつもりはなかったのだが、たとえ自分とは関係ない下ネタでも彼女は性的な話題に傷つくのだという。

うーん「傷つく」って言われちゃうとなぁ……。

まぁ、下ネタ言わないと死ぬわけじゃないんだから、おまえらが下ネタ我慢すればいいだろ、という話なんだけど、私はどうにも釈然としないものを感じたのだった。



だってさ、これが日本のゲームだからいいけど、たとえばアメリカのオンラインゲームで「以前黒人に絡まれたトラウマがあるので、黒人特有のスラングを聞くと心が傷つく。だからチームチャットでの黒人スラングを禁止して欲しい」なんて訴えがあると、これって本人に差別意識はないとしても傍から見ると完全に人種差別案件だよね(苦笑)。

そういう場合、「黒人メンバーが黒人スラングを自粛する」か、あるいは「黒人スラング嫌いのメンバーが我慢する」かの二択を迫られるわけだけど、たぶん「黒人スラングが不快でも我慢してね」の流れになると思う。

何故なら、黒人スラング禁止は黒人文化の否定であり、言論の自由の侵害になるからだ。



誰か特定の個人を名指しして、その人にまつわる下ネタでからかうのは「セクハラ」であり「イジメ」であるから、それは禁止しても当然だと思う。

でも、ごく一般的な下ネタや、下ネタOKのメンバー同士がお互いを下ネタジョークでからかい合うのは、誰かを傷つける行為とは思えない。

誰も彼女のことを言っているわけではないのに、それでも「傷つくからやめて」と訴えるのは、申し訳ないけど「被害者面して他者の発言の自由を制限する行為」と解釈されても仕方なかろう。

私は彼女のこともチームリーダーのことも人間的に好きなので、もちろん彼女を傷つけたくはないし、チームリーダーも困らせたくない。

だから反論することなくおとなしく「下ネタ禁止令」に従ったのだが、個人の「快/不快」をチーム全体の規則にまで発展させる必要があるのか、と心の底で疑問に思った。



たとえば私が障害者であることをチームメンバーは誰も知らない。

まぁ、さすがに露骨に障害者差別的なジョークを言う人はいないとしても、何の悪気もなく会話の中で障害者の心を傷つけかねない会話が交わされることは多々ある。

たとえば「お漏らししてんじゃねーの?」とか「オムツ穿けよ」とかね(笑)。

世の中にはいい年して本当にお漏らししたりオムツ穿いてる人がいるのだが(←私)、そんなことは誰も考えないし、下ネタに傷つく彼女だってそのジョークには平気で笑ってたりする。

そういったオムツジョークはじつはことごとく私に当てはまってるわけだが、それらが私に対する攻撃ではないとわかっているので、私は抗議する気もないし禁止するつもりもない。

自分が障害者でオムツ穿いてますとカミングアウトしないのは、みんながそれを知って私を気遣い、発言を制御するようになるのが嫌だからだ。

「その発言は私を傷つけるし不快なので禁止して欲しい」という要求は、他者へのプレッシャーだと私は感じるのである。

そして私は、他者を抑圧する存在にはなりたくない。

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