特に無理をしているわけでもないのに、二週間に一度くらいの割合で全機能がダウンし、丸々二日間ほど寝込んでしまう。
身体がだるく頭がグルグルして起きていられず、眠り姫のように昏々と眠り続けるのである。
もちろん王子様など来やしないので、自然に回復するまでひとりで眠り続けるしかない。
年のせいなのか病気のせいなのか薬の副作用なのか、原因は全然わからない。
二日間寝込んで目覚めたら、しばらくはフラフラしているものの、じきに元気になってくる。
そしてまた二週間、いつものように生活する。
べつに「そういうものだ」と思ってしまえば何の問題もないのだけれど、心配なのは、こうやって眠り続けるたびに脳が劣化していくのではないか、ということだ。
古くなったパソコンは、時々再起動しないと処理速度が遅くなる。
私の脳も、そんな状態なのかもしれない。
だとしたら、再起動を繰り返して騙し騙し使っている間にも機能はどんどん劣化して、ついには動かなくなってしまうのだろう。
まったく動かなくなってしまえば諦めもつくが、現在のようにじわじわと劣化していく己を薄々自覚しながら生きている状態が一番つらい。
日常生活に差し支えるほどではないが、仕事には大いに差し支えるからだ。
ものを考えることも、それを言語化することもできなくなったら、私はこの仕事を続けてはいけない。
いや、もう既にそうなっているのかもしれない。
周りが遠慮して何も言わないだけで、本当は「ああ、中村はもう駄目だな」と内心で思っているのではないか。
それを考えると、ぞっとする。
自分ではわかってないけど、傍から見ると私は、壊れたテープレコーダーのように同じ話を繰り返しているだけの「中村うさぎBOT」と成り果ててるのかもしれないのだ。
ある意味、これは最悪の「思考停止」状態である。
そこで思い起こすのは、「オズの魔法使い」と、それを下敷きにしたアニメ「攻殻機動隊ARISE4」に登場するスケアクロウというハッカーだ。
「オズの魔法使い」のスケアクロウ(カカシ)は「脳」を貰うために魔法使いに会いに行く。
「攻殻機動隊ARISE4」のスケアクロウは、自我が消失していく障害を持ち、他人の自我をコピーして生き延びようとする。
「ぼくはカカシ。脳がなくなっていく」
「わたしはブリキ。心がなくなっていく」
(↑ともに「攻殻機動隊ARISE4」の台詞)。
これはSFでありフィクションであるが、私は現実世界で文字どおり「脳がなくなっていく」恐怖に怯えている。
それは「自我の消失」ではなく「メモリーと処理能力」の消失だ。
いっそ自我までなくなってくれれば楽になる気がするけど、そこはどっこい明瞭なのである。
本当に、私の神はどこまでも底意地が悪い。
絶対に私に楽をさせない心づもりなのだ。
私から歩行を奪い、次に思考を奪い、この先には何を奪うつもりなのだろう?
歩行と思考を奪われた私は、カカシのように呆然と突っ立っているしかない。
そのくせ感情はあるから、カラスに突つかれると一人前に心が傷つく。
でも、「心」って何?