つや姫に学ぶブランドの資産形成=理央周

山形つや姫に見るブランドの構築手法

【ゆめぴりかを脅かすつや姫】

ブランド米、と聞いて思い浮かべるのが、秋田県のあきたこまち、富山のコシヒカリ、最近では、北海道の「ゆめぴりか」が有名だ。

ここ最近、話題になっているのが、山形県産の「つや姫」だ。お取り寄せランキングサイトでは、トップ3に入る人気だし、通販サイトの楽天でも、米ランキングの上位を独占している。

私は料理が趣味なのだが、料理初心者の時には、こと「米」に関してすべて同じだと思い込んでいた。

我々日本人にとって主食である米をほぼ毎日食べるし、色や形もほぼ同じ、と、くどいようだが「思い込んで」いた。

ところが、料理も手馴れてくると、自分でスーパーに行き米を買うと時に、銘柄がいろいろあり、もちろん価格も様々だということに気づいた。そして、なによりも「味」がまるで違うのだ。

しかし、味は食べてみなければわからない。見た目の勝負ではないのだ。

【コメはブランド化できるのか?】

なぜ、毎日食べる同じコメなのに価格が違うのか?しかし今では、牛肉でも神辺牛や松坂牛というブランドもあれば、豚肉も鶏肉もブランドがある。

肉でいえば、銘柄の無い通常の牛肉を100g400円とすると、神辺牛などのブランド米は、同じ部位を同じ重量でも、倍以上の1000円くらいの価格で販売されている。人はこの差額の500円の「何に」お金を支払うのか?

もちろん、多くの要素があるが、この差額は「付加価値」である。この付加価値を我々はブランド力、と呼ぶ。

【つや姫のブランド資産】

ブランド論の第一人者、アーカー氏はその著作の中で、よいブランドは、認知度、知覚価値、ブランド連想、忠誠心、周辺のブランド資産の、エクイティと呼ばれる、5つの資産を持つ、という。

まず、プロダクト名が正しく「認知」されていて、「想起」されるかどうか。見た目の価値があるかどうか。人は知らないものを買わないので、認知度は重要な資産である。また、そのカテゴリーで思い出してもらえれば、購買につながる確率は高まる。

また、ブランドの品質が高い、とひと目でわかることで、ブランドの価値が高まるのは言うまでもない。ここでの近く価値とは、自社からの視点ではなく、生活者から見た視点での「見た目の価値」になる。

ブランド連想とは、「ああ、このブランドは他のブランドと比べて、私の好みに近い」と連想をしてもらえるかどうか。ブランドと想定ターゲットとの間の距離感のようなもので、近ければ近いほど、「選ばれる」ということになる。

つや姫は、ブランド認知を上げるために、2007年から、デビューに向けて、3ヵ年戦略を策定し、ブランド化戦略を実践するために、「つや姫ブランド化戦略実施本部」を設置し、山形県を上げての活動を開始した。

つや姫、というわかりやすいネーミングも、認知度向上に、一役かっていることも見逃せない。

現在でも、TVCMでは、阿川佐和子さんと、料亭菊乃井の御主人村田吉弘氏を起用し、話題性を創り、継続しての認知度をキープする努力を怠っていない。

つや姫クラブというコミュニティを立ち上げ、試食会の様子などをブログ的にアップしているし、その中でマイスターと呼ばれる人たちへのインタビュー記事を、多く掲載することで、第三者からの評価、すなわちカスタマーレビュー的な、ニュートラルな意見によって、ブランド連想を強化している。

日本穀物検定協会におけるランキングでも、参考銘柄とはいえ、上位入賞し、知覚品質の見える化もされている。

最近では弟分と称する「雪若丸」をだし、話題を醸成することで、ロイヤルティ高いユーザーへの、ブランド再活性化も怠らない。

【中小企業は何を参考にすべきか?】

つや姫から学ぶことは多いが、まず、ブランドは一朝一夕ではできない、ということを認識すべきだ。

カッコいい広告や、質の高いロゴだけがブランドではなく、小さな努力の積み重ねが、実るものであることを、我々はまず、認識したい。

神は細部に宿る、のだ。

そして、5つの資産を意識し、認知度は十分か、知覚的品質は足りているのか、想定ターゲット層に、正しくポジティブに連想されているか、そしてなにより、ファン層が忠誠心持って、浮気しないでいてくれるか、を、認識し、良ければ伸ばす、悪ければ改善する、を繰り返せばよい。

その意味で、つや姫のブランドは、良いベンチマークになる。

■目次

… 1. 特集 「つや姫に学ぶブランドの資産形成」

… 2. コラム 「海外に行くときの情報収集」

… 3. 書評  「スティーブジョブズ」

… 4. ワンポイント時間術「戦略は捨てること」

… 5. 著書・イベントのお知らせ

… 6. 編集後記

2.コラム:「海外に行くときの情報収集」

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