【無料公開中】進行する「夢の格差」社会 『熱血!中村修二ゼミナール』(第1回)





進行する「夢の格差」社会

講義をはじめる前に

みなさん、こんにちは

カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授の中村修二です。

これから「夢のみつけ方」というテーマで連続講義をして行きたいと思います。

特に、若い世代のみなさんには、希望に満ち充実した日々を送っていただきたいので、この講義がそのお役に立てればと思います。

昨年の7月に10年ぶりに『夢と壁』という新刊を出版しました。次代を担う若者に対して、夢をかなえるために必要な本当の力について、全8講の講義形式で述べたものです。 

中高生3000人あまりのみなさんから読んだ感想や意見を寄せていただき、おまけに安倍首相からも次のようなコメントをいただきました。

「夢は日本のどこでも実現できる」――中村教授に伺った言葉です。若者よ、固定観念の壁を打ち破り、夢に邁進せよ。教授の熱いエールに溢れた一冊です。

安倍首相とは同い年でもあり、適度に自己中(笑)だということも合わせて、なんとなく相通じるところがあると感じています。どんな主張も100%賛成されることがないのは当たり前ですが、反対を恐れて言いたいことを言わないというのは性に合いません。

文句がある人は代案を述べ、それが多くの人の支持を得られるように説得するべきでしょう。非難ばかりで解決策を言おうとしない人も、匿名で足を引っ張るようなことしかしない人も卑怯者ですよ。

『夢と壁』のまえがきでも言いましたが、アベノミクスの「3本の矢」のうち長期的に見て力がある戦略は3番目の成長戦略だけです。そのうち、私のテリトリーは技術革新だと心得ています。私は人類が抱える課題を解決できるのは科学しかないと思っています。

これから何百年、何千年先まで見越して、人口問題や食糧・エネルギー問題を解決するには科学技術を進歩発展させるしかないと思っています。地球規模でLEDを普及させ、節電で温暖化に歯止めをかけたり、途上国でも安価に夜間の照明が得られるようにするのが私の夢です。そのために今は変換効率100%で、太陽光に近い演色性を併せ持つレーザー照明の開発に取り組んでいるところです。

さて、安倍改造内閣が打ち出した「一億総活躍社会」については、焦点がずれていると言わざるをえません。「一億総活躍社会」という言葉を聞くと、かつての「一億総中流社会」と言われた時代を思い出します。ちょうど私たちが生まれ育った高度経済成長の時代です。時の政権は、10年間で所得を2倍にするという公約をみごとに果たしました。当然、一方では格差も生じたのですが、みんな豊かになっていたので気にならなかったのだと思います。「一億人がみんな中流だ」と言われてまんまと騙されていました。

ところが今は違います。若者の間で所得の格差がどんどん進行しています。それも同世代間の自由競争の結果による所得の水平格差より、親の代からの資産の相続による格差が著しく、代を追って固定化する傾向にあります。かつて共産主義が支持された時代の「階級社会」ができつつあると思っています。

でも、この程度のことはなにも政治家でも社会学者でもない私がわざわざ言うほどのことでもありません。奇人変人はもう少し違ったことを言わないと(笑)。私はそんなことよりももっと深刻な問題が目に見えない形で進行していると思っているのです。

私は、若者にとって一番つらいのは、「夢の格差」だと思うのです。これから長い人生を生きようとする世代にとって、夢が描けないほどつらいことはないのではないでしょうか。

ノーベル賞を受賞したおかげで、あちこちの高校から講演の依頼があり、直に現代の中高生と話し合う機会が増えました。そこで感じるのは、考え方がどんどん保守化していることです。一方で、「人の役に立つ人になりたい、そういう仕事をしたい」という生徒が実に多いのです。自分のやりたいことばかりをやって来た人間からすると、恥じ入るばかりですよ。(笑)

ところが、具体的にどうすることが人の役に立つことなのかを問いただすと、「よく分からない」と言う。本当に人の役に立つためには、それ相応の苦労や壁があることを伝えると、「自分には力が足りない」とか「そこまでする気はない」という返事が返って来るのです。

いかにも秀才、育ちのいい上品な中学生がいました。夢は国境なき医師団に参画することだと言う。医学部に合格する力は十分にあるようでした。ところが、チームでアフリカのある国に視察に行って早速にひどい下痢に見舞われてしまいました。人を助けるどころか、たいへんな足でまといを演じてしまったのです。かわいそうに、その生徒は意気消沈して帰国、その後も夢破れて落ち込んでしまったそうです。

かと思うと、高校2年生になる前に、文理の選択を迫られて初めて進路について考え始めた生徒が、自分はどっちに向いているのかさっぱり分からず、将来の職業まで決めている友だちと比較して落ち込むという生徒もいました。

現在の学校教育が難関大学の合格を目標にしていることは、大きな間違いです。いろんな学校に行って、受験生を前にして面と向かって、受験勉強なんて社会に出てから何の役にも立たない。そんな超難問ウルトラクイズに悩んでいるより、アメリカのように「社会で生き抜く力」を身につけなさいと言って来ました。

最初は、「受験生のオレらによく言うよ」と呆れ返っていましたが、感想文を読むと「今までもやもやしていたものが吹っ飛んでスッキリした」と言ってくれたので、内心ほっとしました。

私は、「一億総活躍社会」を実現するには、次代を担う若者が一人残らず将来に夢を抱けるようにしてあげることだと思います。そう考えて、これから半年、「夢のみつけ方」について持論を展開して行くことにしました。

こうしている間にも日々進行している「夢の格差」社会を打破し、若者のみなさんを旧い制度と固定観念から解放して、安倍首相の言われる通りなんとか「日本のどこでも夢が実現できる」社会に変えたいと思います。

ただ『夢と壁』の時と同様、あくまでも私の持論ですから、「自分はそうは思わない」とか「こうした方がもっといいと思う」というように建設的な批判をしながら聴いてほしいと思います。

また、これも『夢と壁』でお願いしたことですが、ただ読み飛ばすのではなく、途中にある回答欄にご自分の意見を書き込みながら読んで行って下さい。そうしなければ、ほとんど一過性で忘れてしまうことになるので、だまされたつもりで是非とも励行していただくようお願いします。

「一億総活躍社会」の実現のカギを握るのは、間違いなく若者のみなさんです。私の経験では、生まれた環境や生まれ持った才能よりも、決定的な要因はまさにこの講義で扱う「夢」だと思います。

それでは、半年後にはみなさんの頭の中がすっきりとするように、次回から全8講で思いっきり持論をぶつけてみたいと思いますので、よろしくお願いします。

(第2回に続く)