楽天とビッグカメラの提携に学ぶ顧客価値の創り方=理央周

今号は、2017年12月19日の日本経済新聞の記事にあった、楽天とビッグカメラの提携に、私たちは何を学ぶべきか、をテーマにして、今回の提携に関する企業側の視点と、顧客視点を比較して考えていきます。

楽天とビッグカメラの提携に学ぶ顧客の課題解決

フレームワークの復習: 顧客価値

今号のフレームワークは「顧客価値」です。(実践マーケティング入門 第4章 85ページです)

市場における競争は、アトリビュートと呼ばれる商品属性などの機能的なレベルではなく、価値のレベルで起きる、と言われています。この違いを理解することから始めましょう。

ロボット型の自走式掃除機の事例で考えてみましょう。自社が売りたいプロダクトは自走式掃除機です。

しかし、顧客が欲しい価値は、「時間をかけずに綺麗に掃除された部屋」です。この背景に、「部屋を綺麗にしたいけれど時間がない」という問題点を抱えています。

最終的に顧客は掃除機を買う、という行動をとりますが、買うという行動の本質は、問題を解決してくれる「何かに価値を感じ」、そのあとに、属性などを調べて購買行動を起こす、というわけです。

顧客価値には、スペックや価格などの「機能的価値」と、心で感じる「情緒的価値」の2種類があります。

顧客は、まず感情で判断し、機能を確認するというステップを踏みます。

成熟期にさしかかっているスマホを例にとれば、「iPhoneなら操作も簡単そうだから親子で使えそう」とか「ピンクゴールドがかわいいからSonyにしよう」と情緒的な側面を考え、その後、縦横のサイズや重量、容量やカメラの画質といった、機能的価値を確認する、といった具合で意思決定をしていきます。

したがって、目に見えにくいが、顧客が感じる情緒的な価値が存在し、意思決定に大きな役割を果たすことを、まずは認識しましょう。

顧客はモノやサービスに価値があると買いたいと感じます。価値とは、顧客が購入を体験する時に得る「利益」と、同時に失う「犠牲」とのギャップと言えます。

ギャップなので、顧客価値イコール利益÷犠牲の割り算と言えます。すなわち、100の利益を提供できても、犠牲が100なら1の顧客価値、一方で70の顧客価値でも、犠牲が10なら7と後者の方が7倍も高く、買ってもらえる可能性が高くなる場合がある、ということですよね。

顧客が得る利益とは、品質が良い、見た目がいいなどになり、犠牲とは、予期していないお金、時間、心理的なストレスを指します。

レストランを事例にすると、美味しいとか、ゆったりと落ち着けることなどが顧客の利益ですが、一方で、メニューが載っていなくて、総額がいくらかかるかわからない、予約の取り方がわからない、いつも混んでいてランチは2時間待ち、などが犠牲です。

ここで重要なことは、顧客への利益にあたる自社の良さや、自社の強みだけを考えるのではなく、顧客が潜在的に感じる犠牲を減らすことが、顧客価値の向上につながるということを認識することです。

機能的な要素での競争は、顕在的なニーズを解消する類似化点である、「POP」での競争になりやすいため、ひいては価格競争に陥りやすくなる要因になりがちです。

私たちは必至に自社プロダクトを売ろうとして、顧客への利益ばかりを考えがちですが、同時に顧客が犠牲にするであろうことを発見し、軽減しなければならない、ということにほかなりません。

私たちが考えている成功要因と、顧客が感じる購買要因にもギャップがあることを認識したいところです。

楽天とビッグカメラの提携

2017年12月19日の日本経済新聞に、「楽天Xビッグカメラで家電通販」という記事が載っていました。

楽天とビッグカメラが提携し、家電専門の通販サイトを、2018年4月に立ち上げる、という内容です。以下、記事からの引用です。

共同会社を設立し、消費者が購入から自宅での据え付けまで一挙に申し込めるサイトを運営する。実物を見たい消費者をビッグカメラの店舗に促す情報も流す。

インターネットで仮想商店街を運営する楽天は量販店と組み、据え付けや商品の実体験など「リアル店舗」の強みを取り込む狙いだ。(引用ここまで)

上記の内容のサイトを立ち上げることにより、自社の収益を好転させていくことと、ネットとリアルの強みを融合させることで、相乗効果を狙う、という戦略です。

楽天とビッグカメラ側の視点

アマゾンの隆盛に押され気味の楽天と、ショールーミングかなど、インターネット通販全般に、苦戦をしている家電量販店ビッグカメラの、問題を解決でき、さらに強みも活かせる、というコンセプトと言えそうです。

具体的には、仮想商店街である楽天は、アマゾンのように大量仕入れによる、スケールメリット(規模の経済)を生かした、コストリーダーシップ戦略をとることが困難であるため、家電商品販売における価格、という側面で太刀打ちしづらいことがあります。

また、ビッグカメラのノウハウや、何より、リアル店舗での実体験を提供できる、というインターネット通販ではできない顧客体験を、提供することが可能になります。

ビッグカメラ側としては、楽天にもショップを出してはいるものの、これによる楽天市場の他店舗からの、新規顧客も獲得できることを期待するでしょうし、これにより、ヨドバシカメラを追い上げる、絶好の機会になることを期待しているでしょう。

両企業はそれぞれ、メリットは大きい、と判断しての戦略的な提携だと踏んだと思われます。

顧客側の視点

では、この提携を顧客からの視点で見たらどうなるか、を考えてみましょう。

ビッグカメラの楽天点で購入する場合は、他のネット通販と比較した場合に、ビッグカメラ全店舗の中から選べるので、現在この中から、カラーやサイズなど含めて、多くの選択肢から選べるという利点があります。

また、取り付けまでを一気通貫で依頼できる、という利点もあります。

これは、顧客の立場からすると、いちいちリアル店舗に行って、探すのが面倒だ、という問題を解決できます。顧客価値の分子になるところの、犠牲を減らせる、ということになります。

さらに、ネット通販では実物を見て触ることができなく、実際に見てから購入したい、という顧客のニーズを満たすことも可能になります。

中小企業はこの提携から何を学ぶべきか?

では、この提携から中小企業は何を学ぶべきでしょうか?ここまで比較してきたように、企業側と顧客側の視点は、似ているようで少し異なる、ということを認識することが重要です。

自社で良かれと思ってやっていたことが、顧客視点で見た場合、面倒だ、時間がかかる、と認識されてしまうと、顧客価値が下がり、ひいては、購買に結びつかなくなります。

自社目線と、顧客目線で自社プロダクトを見つめ直し、新プロダクトを開発していくことが重要ですよね。

あなたも、明日からやってみてください。

■目次

… 1. 特集「楽天とビッグカメラの提携に学ぶ顧客の課題解決」

… 2. コラム 「競争の激しい引越業界での持続的イノベーション」

… 3. 時間術「時間濃縮3つのコツ」

… 4. 著作・イベントのお知らせ

… 5. 編集後記

2.コラム:競争の激しい引越業界での持続的イノベーション

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