女王様のご生還 VOL.116 中村うさぎ

「私は今年で40歳になります。今までたくさんの失敗や傷つく出来事がありました。そのたびに自分を殺して、周りの人に合わせて自分に嘘をついて生きてきました。



家族に対しても遠慮して、友達にも遠慮して、仕事場でも遠慮して、自分を殺し続けてきたら、30歳から気力もやる気も失い、気がつけば10年、時間だけが過ぎてしまいました。



その間、仕事はしていません。

実家暮らしでお金は親や彼が援助してくれてきました。

しかし40歳の誕生日を前に、もう一度自分の内なる声を大切に生きてみたいと思いました。

10年引きこもっているので、正直、世の中に出て働くのがすごく怖いです。

どうすれば世の中に出て働くことができると思いますか。



また、人間嫌いな人間が、他者とどうコミュニケーションを取ればいいのかアドバイスをください。

今までの人間関係はすべて、私が我慢して我慢して、最後私がキレて縁が切れるというパターンでした。

人と接していると、他人のアラばかり探してしまいます。

つくづく自分は人間嫌いなんだと思います。

人間嫌いな人間が、世の中で生きていく方法ありましたら教えてください。



あとうさぎさんなら、10年引きこもっていたらどのように社会復帰していきますか。

うさぎさんだったらどうするかも教えてください」





うーん、正直に言いましょう。

家族や友人に遠慮ばかりして生きてきた……とおっしゃいますが、どんな我慢や遠慮をしてきたのでしょう?

40歳近くなるまで10年も働かずに家族に食わせてもらってるって、そこ遠慮しろよ!

と思いました(笑)。

私なら、いい年して家族に養ってもらってるだけでも申し訳なくて、身の置き所がありません。家族には成人した私を養う義務などないからです。



あなたの「遠慮深くて我慢ばかりしてる」という自己像自体が、あなたの実像とはかけ離れてるのではないかという気がしました。



あなたの実像は、まったく遠慮もなく家族や彼氏に養ってもらって、そういう関係性ですから当然「食わせてやってる側/食わせてもらってる側」という支配関係が生じていることに不満を抱え、「私は我慢ばかりしてる」と文句を言ってる人、という感じを受けます。

要するに、「子ども」です。



子どもは親に養ってもらいながらそれを当然のことと受け止めて特に遠慮もしないし、親からあれこれ指図されて否応なく自分のしたいことを我慢させられている現実に不満を募らせます。

でも、それは子どもだから許されるのであって、40歳の成人には許されません。

子どもは「許される」代わりに、一成人としての権利も与えられません。

未熟だと認識されているので、一人前の扱いも受けられません。

今のあなたが、その状態です。

あなたは未熟だとみなされているので養ってもらえますが、代わりに一人前の成人として扱ってもらえないのです。

そりゃ不平不満も募るでしょうが、タダ飯食いなので仕方ないです。



あなたが10年間働いてこなかった事には、何かしらの事情があるのでしょう。

うつ病で働けないとか、そういうやむない理由があったのかもしれませんね。

「仕事場でも我慢して」と書かれているので、30歳の頃に職場でつらいことがあって引きこもってしまったのでしょうか。

その件に関しては同情しますが、だからといって家族や彼氏に養ってもらってることに引け目を感じなくていいかというと、そんなことはないと思います。

引け目、感じましょうよ。これじゃいかんな、と自分を叱咤しましょうよ。

我慢ばかり強いられているのではなく、我慢を強いられてもやむない状況にあなた自身が身を置いているのです。

そのことに気づきましょうよ。

記事の新規購入は2023/03をもって終了しました