ビックカメラに学ぶ事業コンセプトの創り方=理央周

特集【ビックカメラに学ぶ事業コンセプトの創り方】

家電量販店がかわってきている。私がよく行くヤマダ電機の入り口には、住宅リフォームのブースがあり、その横には生活雑貨の販売スペースがある。

これまで、家電量販店のイメージは、入るとすぐに携帯のコーナーがあり、福引などのイベントを開催している賑やかなイメージだったが、店頭や品揃えなど、様々な変化が感じられる。この変化は、ヤマダ電機に限らない。

これらの家電量販店の変化は、一体「何」で、影響している環境要因と状況な何なのか、各社はどのような戦略をとり、どのような施策をうっているのかを考えていきたい。

家電量販店を取り巻く環境

家電量販店を取り巻く環境は、周知の通り激変している。ネット通販はますます一般社会に浸透し、メルカリのようなP2P(Person to Person 個人間取引)も、台頭してきた。

家電販売業会に限らず、消費者の購買活動が変化してきているのだ。

そんな中で、業界推計によると、大手6社の家電販売シェアは60%前後、ピーク時の2007年と比較すると、約15ポイント低下している。

家電メーカーは、量販店への値下げの原資を、収益重視思考で乗り切ろうとしている。(日経MJ 6月15日の記事より)

2007年といえば、iPhoneが発売された年、モバイルでの通信に加えて、生活者が双方向にコミュニケーションできる、ブログやSNSが浸透し始めた、いわゆるWeb2.0と言われるフェイズの元年なのだ。

生活者の購買行動の変化と、それに伴う業界構造の変化が大きな要因になり、10年経った今、各社が自社内の再編に動き出しているのが、顕著になってきている。

家電量販店各社は、どう動いているのか?

この低成長時代に、大手家電量販店各社も趣向を凝らして、様々な手を打っている。

先述の通り、ヤマダ電機は注文住宅のエス・バイ・エルを買収し、子会社化しているし、エディオンもリフォーム部門に力を入れている。

ノジマは携帯に逆に特化しているし、ケーズホールディングスは、家電中心での販売に特化。

ネット販売で各社を専攻しているのはヨドバシカメラで、業界ナンバーワンの1000億円をネットで売るとのこと。

各社、百花繚乱なんでもありの家電量販店、という業態からの工夫をしているのが見て取れる。

目立つビックカメラの動き

日経MJによると、中でも、ビックカメラの動きが顕著とのこと。業界2位、創業40年のビックカメラは、「脱・量販店」を掲げている。

秋葉原では、最も売上が見込める1階に、売れ筋だった携帯電話のコーナーを撤去、化粧品に食品、日本土産を並べる。

また、京王調布店ではやはり1階に、自転車をずらりと並べているとのこと。

こういった展開には、これまでの家電量販店の常識であるところの、1階は携帯売り場、という固定観念を外し、顧客購買行動の変化を捉えた上での、インバウンド旅行者の多い秋葉原での土産や、住宅地も近い調布での自転車などを陳列している点が新しい。

伴って、店舗のスペースも広くなくても良い、という考え方で出店を進めている。もともと家電そのものが大きいので、陳列のスペースが必要だが、このような品揃えであれば、広大な敷地は必要ないとのこと。

私の地元名古屋の近くにあるセブン&アイホールディングスの、GMSの中には「ビックトイズ」という玩具中心の業態があり、竹下通りには、化粧品や食品を揃える小型店舗の、「ビックカメラセレクト」という店舗があるとのことだ。

日経MJではビックカメラ宮嶋社長にインタビューしている。その中には、「新規事業にチャレンジしていくのは、オムニチャネルコマース最先端企業を目指すから」とのことを言っている。これこそが、消費者の購買行動の多様化に対応する姿勢の表れだ。

さらに、「社内では家電量販店という言葉は使わない。進化し続ける専門店の集合体だ」とも述べている。

競争が激しく、低成長の業界の中で、何をすべきか、という取り組みの方針が明確なのだ。

ビックカメラに何を学ぶべきか?

我々は、このビックカメラの動きに、以下を学ぶべきだろう。

- 自社が置かれている状況を正しく把握すること

- 自社独自の強みを活用すること

- 方針を正しく打ち出すこと

まずは、自社を取り巻く環境を正しく把握する姿勢を持つことだ。どんな業界も激しく変化している。特に2007年以降はそれが顕著だ。

ビックカメラが、インターネット通販の対応に素早く反応し、さらに競合とは異なるポジションを発見し、スピード持ってその位置に動こうとしている。大企業では珍しいスピード感だと言える。

うちの会社は大丈夫、という過信や固定観念を持っていないか、を、常に振り返ることが重要だ。そのために、チェックし社内に浸透させる仕組みが必要になる。

その環境変化に正しく対応することが次にステップだ。まずは、自社の独自価値を明確にすること。ビックカメラは、これまでの知名度と歴史、さらにカメラから始まった専門性をいかし、小回りのきく業態を確立させつつ、ビックカメラという親ブランドを利用している。

さらに、ビックカメラは業界最大と言われる、顧客データベースを有する。日経MJによるとポイントカードの登録者数は、数千万人とのこと。私の誕生日にもバースデークーポンが送られてきたが、これがなかなかの優れもので、オンラインショップで使えるのはもちろん、リアルショップでは期間中何度でも使える10%オフのクーポンがついている。

オフラインとオンラインを相互活用する考え方を、O2Oと呼ぶ。(詳しくは今号の書評を参照ください)

これらの基本になるのが、顧客データベースだ。このデータベースの、実際の稼動率も高いらしい。やはり大福帳は重要だということも、ビクカメラの事例は教えてくれる。

社長インタビューにあった「オムニチャネルコマース」とは、実はどこででも売る、という考え方というよりは、顧客にどこででも買えるという「利便性」を提供する、と捉えるべきだ。

そう考えるときに、社長が掲げる戦略が、このDMを見る限りで、戦術レベルでも実施されている点が素晴らしい。

3点目に学ぶことは、この点で、自社のビジネスの方針を明解にし、社員に伝えることで実施される。

また、方針を明解にしない限り、顧客にも伝わらない。その意味でも、顧客視点の方針が素晴らしいことがあり、社内浸透させた上で、実施している。

状況を正しく把握し、独自価値を明確にする、そして方針を打ち出し、素早く実施する。当たり前のことだけれど、なかなかできない。ということを実践しているビックカメラの事例には、学ぶところが多い。

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