出る杭がいない? 育てればいいんです!(第4回) 【 「出る杭」=「T字型人間」 】

 しかし、単に「出る杭」とは「全体最適を重んじる人間」であるとするだけでは、分かりづらい。

そう思いつつ、コンサルティング業界を見回してみて気が付いた。この業界の一部では、昔から「全体最適を重んじる人間」を「T字型人間(T-shaped person)」とし、「部分最適を重んじる人間」を「I字型人間(I-shaped person)」と呼んできた。日本でだけではない。グローバルに、である。

この考え方によれば、「T字型人間」の「T」の縦棒は「部分最適」を表し、横棒は「全体最適」を表す。「T字型人間」は、企業が生む顧客価値の最大化を狙って、社内の他部門や、社外の顧客、取引先などと連携する。

 一方、「I字型人間」の「I」は「部分最適」を表す。「I字型人間」は、企業が生む、自分や自分の部門にとっての価値の最大化を狙って、社内の他部門との連携もしない。そのため、「I字型人間」だらけの部門は、「縦割り組織」となる。

 ならば、「出る杭」は、グローバルな言い方をすれば「T字型人間」であることになる。そして、なにしろ「T字型人間」も「I字型人間」も、それぞれどのような人間かが視覚的に訴求できて分かりやすい。「T字型人間」」の「T」に「部分最適」を表す縦棒が残っているのも、人間臭くていい。「部分最適」を重んじることは、いわば人間の業(ごう)である。

それで、私は、「I字型人間」との対比の上で、「出る杭」とは「T字型人間」、すなわち「全体最適を重んじる人間」であると言ってきた。コンサルティング業界にも、少しはまともに使えるアイデアがあるのである。

 ただし、「全体最適を重んじる人間」を「T字型人間」、「部分最適を重んじる人間」を「I字型人間」とする考え方は、同じくコンサルティング業界発であろう、スペシャリストでもジェネラリストでもある者を「T字型人間」、スペシャリストのみである者を「I字型人間」とする考え方とは異なるものだ。後者の場合、縦棒が特定分野の深い知識、横棒が幅広い分野の浅い知識を表すが、ジェネラリストであるから「全体最適を重んじる人間」であるとは限らない。スペシャリストであるから「部分最適を重んじる人間」であるとは限らない。

 「出る杭」であるか否かは、知識の広狭・深浅だけで決まるものではまったくない。

 ちなみに、「杭」の形が「I」に似ているため、「出る杭」は「I字型人間」なのではないかとの指摘を受けることがある。しかし、そもそもアルファベットの「I」は「杭」を意味しない。「杭」が「I」に形的に似ていることは、「出る杭」の意味とは無関係とすべきだろう。

 それに、「出る杭は叩かれる」に相当する英語の諺にA tall tree catches much wind.(「高い木は多くの風を受ける」)があるように、「出る杭」の意味を誰もが「杭」で表すわけではない。まずは「出る杭」が何を意味するかを大切にしたいものである。

横田宏信

1958年 埼玉県川口市生まれ、久喜市育ち。

慶應義塾大学経済学部卒業後、ソニー株式会社に勤務。
「出る杭」歓迎であった成長期のソニーの中でもひときわ「出る杭」ぶりを発揮、英国ソニー赴任期間中には、多国籍有志連合を結成して自らの企画を勝手に推進、世界に先駆けて、ソニーでも初の本格SCM(Supply Chain Management)革新を 成功させた。

ソニー退職直後の起業に失敗するも、その後は、外資系大手のIT会社やコンサルティング会社の要職を歴任。
Big-4と呼ばれる世界4大会計事務所系コンサルティング会社の内、PwCコンサルティング(現IBM)ではシニアディレクター、CGE&Y(現、NTTデータ系のクニエ)では、コンサルタントとしての最高職位であるヴァイスプレジデントに就任。
NHKの特番で取り上げられた成功プロジェクトの実績も持つ。

2004年に独立。
企業やコンサルティング会社、学術機関へのコンサルティング活動に加え、執筆・講演活動も活発化させる。

主要著作は、Amazon Kindleで総合1位を獲得した『ソニーをダメにした「普通」という病』。
近著に、日経ものづくり、日経テクノロジーオンラインでの人気連載をまとめた「出る杭を育てる時代」がある。

2006年から、「出る杭を育てる時代」の演題での講演を実施。
2014年から、哲学的に考え抜かせることで知られる「出る杭研修」を実施。