女王様のご生還 VOL.12 中村うさぎ

もうだいぶ前から、ずっと頭の中で何度も繰り返している言葉がある。



「私たちはもう、恋愛では幸せになれないのかもしれない」



愛する人に愛され、結ばれるのが幸せだと思っていた時期があった。

確かに恋愛は、最高の高揚感と陶酔感をもたらしてくれる。

だが、それは本当に「幸せ」なのか?



人生はこんなに長いのに、恋愛の命はあまりにも短い。

あのエクスタシーは何物にも代えられないものだけど、それは綿菓子みたいに口に含んだ瞬間あっという間に溶けて消え、あとはただ夢のような甘い記憶だけが残るだけで、逆にその記憶のために余計に苦しむ羽目にもなる。

あんなに甘い想いがあったはずなのに、時とともに急速にそれは苦味に変わり、優しさや陶酔よりも怒りや憎しみが前面に浮き上がってきて、あとはひたすら苦しい恋が延々と続く。

恋愛は、甘い時間よりも苦しい時間のほうが多いのだ。

だとしたら、これは「幸せ」と言えるのか?



恋愛の初期がうっとりするほど甘く美しい理由は明白である。

まだ相手のことがよくわかってないので、単に脳内で勝手に理想化した相手に恋しているに過ぎないからだ。

幻想だから、いくらでも酔える。

だけど、幻想だから長続きしない。

リアルな相手が見えてきた頃には甘い気持ちは冷めていき、「どうしてわかってくれないの?」「一緒にいるのにどうしてこんなに寂しいの?」と、ディスコミュニケーションの痛みに苦しむ地獄が始まる。



そう、恋愛の苦しみは、ほぼ「ディスコミュニケーション」問題だ。

こんなに会話を重ねても、お互いの痛みをわかりあえない。

いつもそばにいるのに、冷たい隙間風のような孤独が二人の間を吹き抜けていく。

恋してるからこそ相手に期待し、そして失望する日々が続く。

その小さな失望が心に雪のように降り積もっていき、いつしか絶望へと変わっていく。

愛は怒りと憎しみになり、めくるめく陶酔は深い孤独と絶望に変わり、でもあの「甘い記憶」が残っているから諦められない、離れられない。

いつかまた、あの日に戻れるんじゃないか、あの素晴らしい気持ちを二人で取り戻せるんじゃないか、と心に希望の灯をともし続けるのだが、「あの日」はもう二度と戻っては来ないのだ。

永遠に戻らない過去を夢見て余計に苦しみを募らせていくなんて、ねぇ、そんなの本当に「幸せ」なの?



私たち、もう気づいてるんだよね?

恋愛では幸せになんかなれないってこと。

私たちが求めてる幸せは、一瞬の強烈な陶酔ではなく、ずっと続く温かい優しさや居心地の良さや……そう、自分はここにいていいんだと心から自己肯定できる「居場所」なんじゃないかってこと。

強烈な陶酔は確かに感動的だし人生に不可欠なカンフル剤だと思うけど、それは「幸せ」とはまた別のもので、それを「幸せ」と勘違いしちゃうと心がどんどん苦しくなっていくんだってこと。



恋愛の成就こそが幸福のゴールだと言わんばかりのディズニーアニメやハリウッド的恋愛映画に洗脳されて、私たちは何かものすごい勘違いをしてきたような気がする。

白雪姫やシンデレラが王子様と結ばれて、めでたしめでたし。

でも、それからの人生は?

それから何十年も続いたはずの彼女たちの人生は、ほんとに幸せだったのか?

王子様が浮気したり、妻に心無い言葉を投げつけたり、DVしたりしなかったのか?

いや、そこまでではないとしても、二人の間にあったキラキラの愛は、その後どう変化していったのか?

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