女王様のご生還 VOL.5 中村うさぎ

ツイッターでインド在住の日本人のお坊さんと時々やりとりしている。

仏教には何の知識も関心も持たなかった私だが、彼との会話は面白い。



「これは何のお経?」

「これは陀羅尼(ダラニ)といって仏教呪文です。チチンプイプイです。痛いの痛いの飛んでけ~の原形」

「ほほう!癒しの呪文なのね」

「呪文は癒しというより、もっと切実。医学知識や天候の知識がなかった時代に祈りと呪文は命がけの人間の神仏に対する叫びでした」

「ああ、祈りか。人間は祈らずにいられない。神仏への信仰がなくなった現代でも、私たちは無意識に祈ってるよね。大切な人が死にませんように、とか。自分の力の及ばない事がたくさんあるから、理不尽な不幸がたくさんあるから、そのたびに遥かな何者かに祈ってしまう。宛先不明の電報を打ち続けるように」

「宗教は宛先不明ではなく私書箱ありますよと確約提供しますが、配達証明は出しません」



確かに。

宗教は「おまえの祈りは宛先不明ではないよ。ちゃんと届いているよ」と言ってくれるけど、配達証明を出したためしがないのだ。

だから私は神仏を信じきれない。

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