女王様のご生還 VOL.65 中村うさぎ

明後日、大阪の両親が上京する。

母親がどんな状態になっているかが興味深い。



「興味深い」などと書くと、まるで虫の生態でも観察しているかのような冷淡さを感じる人もいるだろうが、本当にそのとおりだ。

私は親に対して非常に冷淡な人間である。

べつに虐待を受けて恨んでいるとか、そういうわかりやすい理由があるわけでもない。

母親はひとり娘の私を溺愛していたと思うし、彼女の献身的な愛情に感謝の念も一応はある。

だが、両親は私にとって、友人よりも距離の遠い存在だ。

何かあればそれなりに心配はするが、でも心のどこかに他人事感がある。



二十代半ばで独り暮らしを始めた頃、母が子宮筋腫の切除で入院した。

子宮筋腫なんて私にもあるし命にかかわる病気でもないと思ったので、私は一度も見舞いに行かなかった。

ところが私の高校時代の友人は見舞いに行ったらしく、退院した母から「あんたは来なかったのに、〇〇さんは来てくれたわ。どっちが娘なのかわかんないわね」と軽く嫌味を言われた。

その時も「たかが子宮筋腫で大袈裟な女だ」と心の底で思った私である。

うん、確かに薄情だ(笑)。



母が認知症になってから、私は初めて母という人間に関心を持った。

彼女が何を考え、どんな気持ちで生きてきたのか、生まれて初めて考えた。

だが、それもまた、世間で言うところの「肉親の情」には程遠い気がする。

というか、世間の「肉親の情」というものが私にはピンと来ないのだ。

長年一緒に暮らして来たのに、いつもどこか他人。

おそらく、その理由のひとつには、長年一緒に暮らしてた割にはお互いをまったく理解してない、という点があるだろう。

母は私の考え方や行動を一切理解していない。

そして私もまた、彼女の価値観や世界観を頭からバカにしている。

我々はひとつ屋根の下に暮らしながらも、まるで何億光年も離れた遠い惑星の住人のようだ。

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