女王様のご生還 VOL.61 中村うさぎ

こないだ夫と夫の彼氏と三人で喫茶店でお茶してたら、近くの席に推定50代後半くらいのオヤジと推定アラサーの女性の二人組が座ってて、そのオヤジのトークに思わず耳をそばだててしまった私である。



会話の内容から察するに、どうやら二人は知り合いではなく、オヤジがナンパして喫茶店に連れてきたらしい。



「俺が声かけた時さ、なんかのセールスだと思った? 思わなかったでしょ? だからついて来たんだよね? うん、俺はあなたに何も売りつけるつもりはない。ただ話をしてみたくてさ」

「はい……」

「俺はまぁ、こういう者でね」



と、オヤジが財布を出したので、てっきり名刺でも出すのかと思いきや、彼はクレジットカードを取り出して、



「これ、わかる? 見たことある? ダイナースのブラックカードね。プラチナカードは見たことあるかもしれないね。でもプラチナはある程度の金持ちなら誰でも持ってる。ところが、このブラックカードは金持ちでも滅多に持ってない。身分審査が厳しくて、誰でも持てるカードじゃないんだ」



クレジットカードで自己紹介……のふりをした自慢話(笑)。

久々に見たぞ、こういうオヤジ!

とっくに絶滅したかと思ってた!



私はすっかりオヤジに夢中になり、夫たちそっちのけで彼の話に集中したね。

さぁ、ブラックカードの次は何だ!

相手はちょっと引き気味だぞ!

オヤジ、その女をどうやって口説く気だ?



「あなたはさ、見かけは女性らしいけど、男っぽいところがあるでしょ。芯が強いよね。うんうん、俺にはわかる」



おお! 分析モードに入ったぞ!

さっきナンパしたばかりのくせして、おまえにこの女の何がわかるってんだ!

それに「芯の強さ」ってのは、べつに「男」の特質じゃねーだろ!

自分が女性差別してることにも無自覚なブラックカードオヤジは、滔々と自説を繰り広げ始める。



「まぁ、芯が強いのはいいことだけどさ。あなたみたいな男っぽさを持つ女性は、いくら女っぽく着飾っても、男にモテないよ。なんでかわかる? 男を立てないからだよ!」



出たぁーーーっ、オヤジのお家芸「説教モード」!!!

しかも、いろいろ間違い過ぎてて、どっからツッコんでいいかわからんわ!

何が「男を立てる」だ!

男を立てたきゃ、女の力なんか借りずに自力で立てろーー!!!

甘えてんじゃねーぞ、ブラックオヤジ!!!!

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