「小さく勝って、大きく負ける」傾向/田渕直也のトレードの科学 Vol.019



利益と損失に対する非対称の反応

プロスペクト理論が導き出すもう一つの大きな帰結があります。

それは、人に備わる「小さく勝って、大きく負ける」という傾向です。そして、これがトレード戦略の立て方に、大きな影響を及ぼすことになります。

プロスペクト理論の効用曲線をもう一度見てみましょう。

効用曲線は、利益のエリアでは上に凸の曲線になっています。追加的な利益に対する限界効用が次第に逓減していくという意味です。簡単にいってしまうと、いったん利益を得ると、さらに利益を積み増すことで得られる満足(1)が次第に小さくなっていくのです。一方で、相場が元に戻って、いったん得た利益が失われたときの満足度の減少(2)はそれよりも大きくなります。

(2)>(1)となるために、人は利益が出ると、追加の利益を狙うよりも、いったん得た利益を失うことを恐れて、すぐに利益を確定したがることになります。

一方、損失のエリアでは、効用曲線は下に凸となっています。いったん損失が生まれると、さらに損失が発生することで生まれる追加的な失望度(3)は次第に小さくなっていく一方で、損失が解消されることで回復する満足度(4)はそれよりも大きくなります。だから、損失が出た場合には、損失を確定させずにポジションを維持したり、場合によってはさらにポジションを積み増したり(いわゆるナンピン)したがることになります。

その結果、「利食いは早く、損切は遅く」ということになるわけです。別の言葉でいえば、勝つときの利益の幅は小幅になり、負けるときの損失の幅は大きくなるということです。

はたして、こうした本能的なトレードパターンは、何か問題をもたらすのでしょうか。

記事の新規購入は2023/03をもって終了しました