「生命保険は結局、入った方が得?損?」(3)
~2017年の保険料改定がもたらすもの~
こんばんは。俣野成敏です。
日本を代表する企業だった東芝が経営難に陥るきっかけとなった、原子力子会社のウエスチングハウス(WH)がアメリカ連邦破産法11条を申請したのは今年(2017年)の3月末。注目されていたWHの行く末が破産法申請という結末を迎えたことによって、現在、東芝再建の焦点はすでに半導体メモリー事業の分社化・売却へと移っています。
名門・東芝の屋台骨を揺るがす事態となった原発事業。しかしWHを買収した当初、東芝は「将来有望な分野に集中投資をしている」成功事例として、世間からもてはやされていました。当時は地球温暖化対策に対する関心が高く、化石燃料に代わるものとして、再生可能エネルギーや原子力に対する期待が高まっていました。
その流れが変わったのは、2011年に発生した東日本大震災以後のことです。これにより、原発事故に対する懸念が表面化し、世界的に審査基準が厳しくなりました。WHの経営難も、もとはといえば原発の基準が上がったことが工期の遅れを招き、費用がかさんだことが要因の一つとなっています。
今回、WHが破産法を申請したからと言って、これで終わったワケではありません。東芝を苦しめているのは、親会社としてその債務を保証していたことです。破産すれば、債務以外にも違約金や将来的な損失なども肩代わりしなければなりません。それでも東芝は、その債務を完全履行することを決め、原発事業から撤退することを選びました。これによる損失は、最終的には1兆円前後になるものと見られています。
元は他人の商売の保証をしたことによって、自社グループの離散を招き、ついには債務超過に陥る事態となってしまったワケです。
【Vol.55『国内生命保険(3)』目次】
〔1〕イントロ: 保険があれば「不可能なことも可能になる」場合がある
〔2〕本文:「生命保険は結局、入った方が得?損?」(3)〜2017年の保険料改定がもたらすもの〜
1、我々の仕事はAIによって奪われてしまうのか?
◎日本がフィンテックで遅れをとっているワケ
◎「機械化された未来」とはどのようなものなのか?
2、今すぐ我々が取り組めることとは何か?
◎支出を減らせば、収入が増えたのと同じ効果がある
◎事例1:貯金がないのは保険のせいだった!保険料を15万円以上削減!
◎事例2:支払いを止め、払った分だけの保障を受ける方法がある!
3、マネーリテラシーが高くなれば、選択肢がその分増える
★本日のワンポイントアドバイス☆★
保険を見直す際に行うべき2つの自問
☆今週の宿題★☆
保険料が家計に占める割合を確認してみよう
〔3〕次回予告(予定):「生命保険は結局、入った方が得?損?」(4)〜2017年の保険料改定がもたらすもの〜
〔4〕今週のQ&Aコーナー:投資をする際のオススメの情報源はありますか?
〔5〕ニュースのビジネス的着眼点:「ドラフト会議」という発想までは良かったけれど・・・
〔6〕編集後記:初ユーロスター!体験記
◆〔1〕イントロ:
保険があれば「不可能なことも可能になる」場合がある
よくよく考えてみれば、東芝が親会社としてWHの債務の保証をしていたというのは、「そうしなければ資金を調達できない=それだけ失敗する可能性の高い事業」だった、ということです。東芝だけにとどまらず、アメリカ政府もWHの債務保証を引き受けていました。ところがWHの買収が行われた当時は、誰も今日の姿を予想できる者はおらず、世間では「日本の一流企業とアメリカ政府からのバックアップを受けている優良企業」で通っていました。
ここからもお分かりのように、事実をありのままの事実として捉えられる人は、実際は多くはありません。たいていの人は、見たいものだけを見て、現実を自分の都合の良いように解釈しています。けれども私たちは投資家として、客観的に事実を見据え、未来を予測していかなくてはいけません。
「投資先としてのWH」は、かなり危うい存在でした。しかし裏を返せば、それは「たとえ危険な事業であっても、保証がつくことによってお金が集まり、実現できる可能性が上がる」ことをも表しています。特に原子力や宇宙開発、遺伝子研究などといった、最先端で未知の領域が多い事業に関しては、基本的には誰かが何かしらの保証をしない限り、「今ないもの」に対してお金を出す人がいなくなってしまいます。
その保証の一つとしての役割を担っているのが「保険」です。保険会社が保険をかけて保険料を徴収することによって、その保険が担保となります。それによって出資者が現れれば、今までできなかったことも可能になります。原子力保険や宇宙保険は損害保険の領域ですが、人にかける生命保険も、リスクを分散・分担させることによって負担を軽くし、将来への不安を少なくする、という役割は同じです。
ただし、人の場合はそこまで大きな金額を必要としません。よって「どこまで自分の“万が一リスク”は高いのか?」「どれくらいのお金が必要なのか?」「本当に保険でなければ賄えないリスクなのか?」といったことを考える必要があります。