【3分で学ぶ】週刊「ちょい足し」マーケティング【経営者にとって「新しい」とは何か?イノベーション発想術】
【そもそもイノベーションとは何か?】
今号は、「なぜ、マーケティングとイノベーションを理解すると、ビジネスがうまくいくのか?」という視点から、ちまたでイノベーションが注目を集め続けているのはなぜか、マーケティングとセリング(=売ること)の違いはなにか、そしてイノベイティブであると、なぜビジネスの成果につながるのか、をひも解いていく。
売ろうとするからなかなか売れない
アマゾン、マスターカード、フィリップモリス、ラッキーストライク、、、、
私がこれらの企業やブランドの〝中の人″として、25年間10社でマーケティング・マネージャーやブランドマネージャーとして仕事をしてきた中で1つ学んだことがある。それは、「売ろうとするとなかなか売れない」ということである。
マーケティングに従事してきたのにおかしいじゃないか?と思われるかもしれない。しかし、自分に当てはめてみるとわかると思う。「売り込まれると嫌ですよね?」
先日、生命保険会社の方が私の勉強会にきてくださった。初めて顔を見る方で、まじめそうな感じの30代前半くらいの男性。帰り際にも、「理央先生、今日はとても勉強になりました。またお話をお聞きしたいのですがいいでしょうか?」「もちろんです。いつでもご連絡くださいね」と名刺交換をした。さっそく翌日に電話がかかってきて、10分くらいで聞かれたことは、家族構成や今は言言っている保険の種類、年収などなど。なんのことはない、「保険を売りたかったのだ」これでは、万が一私にとって必要な生命保険だったとしても、「この人からは買わない」。
人は99%のモノやサービスは「要らない」のだ。
セリングとマーケティングの違い
では、どうしたら売れるようになるのだろうか?それは、あなたが「売ろう!」と思っている気持ちを、「売れるようにしよう」というマインド設定に変えていくことである。
先ほどの例の通り、ひとは売り込まれると、すーっと気持ちが引いていく。この「売ろう=セリング(Selling)」を、「お客様が買ってくれるようにしよう=マーケティング(Marketing)」という風に考え方を転換していくことから始めるべきである。
マーケティングは難しいのか?
あなたはこの「マーケティング」をややこしく、難解なものだと思っていないだろうか?私は根っからの『マーケティングおたく』で、フィリップモリス時代に、アメリカのインディアナ大学(当時のランキング7位の名門校)にMBAを取得しに留学までした。
現在は『コンサルタント』として経営者に、『講師』としてビジネス・パーソンに、“マーケティングは重要だけど同時に楽しくやれるものだよ!”ということを分かりやすく伝えようとしている。
弊社の社員研修やセミナーの受講者は経営者や管理職の方が大半だが、口をそろえて、「マーケティングは大事だと思うけど、専門用語も多くてとっつきにくい」「本を読んでみてもだいたい10ページくらいで嫌になってしまうのです」という。それに対して私は、「複雑なマーケティング理論は、大企業のマーケティング部や大学の先生にまかせておいて、われわれビジネス・パーソンはもっと身近なところから始めていけばいいのです」とお話ししている。
ドラッカー先生が教えてくれた、「2つの重要なこと」
経営の大家である、ピーター・F・ドラッカー氏は著書の中で、「企業の使命は顧客の創造である」と言いい、そのために必要なことは、「マーケティングとイノベーションである」と言っている。
この記事の本題である「イノベーション」の説明の前に、まずはマーケティングについて簡単に説明しておく。
そもそも「マーケティング」をひとことで言うといったいどういう言葉になるのか?たとえば、セールスは営業、アカウンティングは経理といった具合に、あてはまる日本語があるが、マーケティングを一言で表す日本語はない。
「究極のマーケティングはダイレクト・セリングをなくすことだ」というドラッカーの言葉に、大きなヒントがある。
私はこの言葉を、ダイレクトに直接売ることではなく、すなわち「買ってね、買ってね!」と言わなくても、勝手にお客様が買ってくれる状況を創り出すことだと解釈している。自然にお客様が行列になったり、営業員が訪問したらすんなりと契約ができる状況を創り出せたらそれが最高であるということになる。
したがって、マーケティングをひとことで表すと、自然に「売れる仕組み」を創り出すこと である。
マーケティングの中身は3つだけ
では、どうしたら「売れる仕組み」を創り出すことができるのだろうか?マーケティング本を買い漁って、専門用語と理論を習得?基礎を学ぶことは野球にとっては素振りと同じで、必要不可欠なことである。しかし、市場というのは生き物で毎日、どころか毎日変わり続けている。昨日まで正しかったことが、今日は当てはまらない、ということも日常茶飯事なのだ。
まずは、あなたが今いる場所、現状をただしく把握すること。自社だけの強みや弱みはなにか、競合は何をやっているか、誰に響くのか、になる。次に戦略を立てる。「どうやって市場を攻略するのか?」という作戦である。昨今は、「戦略なんていらない」とか、「難しく考えずに楽しくやろうよ」と主張する先生方もいるが、戦略無しでビジネスをすることは、地図やナビ無しで目的地を目指すことと同じである。
ただし難しく考える必要はなく、次の3つだけ「方針」を決めればいい。
□何を=プロダクト(製品やサービス)
□誰に=ターゲット
□どうやって=プロモーション
どうしてもマーケティングを本格的に学ぼうとすると、4P、3C、STPといった専門用語や、難解な理論が多く出てきてしまう。しかし、売れる仕組みを創りだすために必要なことを「因数分解していくと」この3つに行きつく。
この時に、1点だけ注意してほしい。それは、まずは“何を”と“誰に”を最初に徹底的に決めそのあとに“どうやって”買っていただくか、を決めるということである。
なぜなら、最後の「どうやって=コミュニケーション」というのは選択肢が多いので、本当に買ってくださるお客様に届かなかったり、自社の強みを十分に伝えられなかったりするからである。
私がアマゾン時代に担当した初のマスメディア・キャンペーンでは、『アマゾンで買う人ってやっぱりネットのヘビーユーザーだよね』『他社がやってない送料無料キャンペーンが、アマゾンの強みだからここをプッシュしましょうよ』
というような議論を徹底的にして、ターゲットと自社プロダクトの強みをきっちりと決め、『じゃあ、テレビ媒体よりも詳細を伝えることができる新聞での広告がメインだよね』『お客さんは箱を開けるときが一番うれしいから、デザインはいっそロゴと箱だけで表現しようよ』
などと、自社の強みが響くお客様が見ている媒体を選び広告をうつ、すなわち「どうやって、何を伝えるか」を企画立案していくのである。
USPを持つプロダクトとは?:差別化と独自化
その中でも「何を」=自社プロダクト(製品とサービス)は、「ユニークな顧客価値の提案=Unique Selling Proposition」を考える、マーケティング活動の起点になる。
世の中にはさまざまな製品やサービスがあふれている。あなたが戦っている市場にも多くの競合が存在し、激しい競争を繰り広げているのだ。そんな中で、ターゲット層に自社プロダクトを選んでもらうのは至難の業であることを、まずは認識してほしい。
したがって、各企業は競争相手と少しでも違うプロダクトを市場に投入して選んでもらえるようにしようと、苦心する。これを、差別化と言う。少し前の家庭用据え置きゲーム機の例になるが、ゲーム機のスペック=機能をあげ繊細な映像に対応できるようにすることがこれに当たる。
一方で、世の中にはまだ存在しないプロダクトを市場の小さい分野に投入していくことを、独自化と言います。先のゲーム機の例でいえば、本体の機能向上よりも、プレイする人たちに新しい遊び方を提供することがこちらに当たる。
一見、差別化と独自化はあまり違わないように感じるかもしれない。
- 差別化は、競争が激しい市場の中でプロダクトを他社より少しでもよくしようとすること
- 独自化は、まだ他社がやっていない市場を自ら創り先駆者になること
と私は考えています。どちらも競合他社とは違うものを世に出すという意味では同じである。しかし、似て非なるものである。
- 差別化は、プロダクトに焦点を当てるが、
- 独自化は、ターゲット層に焦点を当てる
市場と実際に使うお客様を中心に考える独自化は、市場に「新しい価値を提供する」という意味ではイノベーションということが言える。
マーケティング活動をしていく企業にとって、独自化をすることで新しい市場の先駆者になれば競争相手もないため、価格設定も自社でできるために「先駆者」としての利益を得ることができる。
競争が激しい市場の中で差別化をしようとすると、どうしても価格競争になり値引き合戦になりがちである。こうなると営業利益が減るし、ブランドマネジメント上重要な「見た目の価値」が下がる。
一方で、独自化に成功すると初期の段階では価格競争に陥ることがないため、利益を確保することができるのだ。
差別化を中心にして自社製品の良さを追求していくことは、持続的イノベーション と呼ばれ、独自な市場を創り出すことを、破壊的イノベーション と呼ばれる。
1990年代の家庭用ゲーム機市場でいえば、高性能なマシンを市場に投入しようと製品スペックを上げていったPSやX-Boxが前者に当たり、画質のきれいさなどのスペックでは劣るけれどもコードレスリモコンを使って家族で楽しく遊べる新しい使い方を再提案したWiiは後者にあたると言われている。
イノベーションを起こすのは難しいのか?
どのような企業も、新しいプロダクトを世に出そうと必死になっている。ではゲーム機の開発のように大企業が開発費をかけないと、イノベーションは起こせないのだろうか?
私はそうではないと思っている。
新しい価値をお客様に提供するという広い意味でのイノベーションで考えてみて、画期的な発想を自社のプロダクトに当てはめればいいのだ。
しかし、「理央さん、でも、新しい発想ってなかなかできないじゃないですか」とよく聞かれる。実は私自身も以前はそうだった。
イノベーションにつながる新しく画期的な発想が出てこないのは、「思考が停止」してしまうからである。ではなぜ思考が停止するのか?それは、
- 固定観念 と、
- 過去の成功体験
が、自由な発想を阻むからである。
「そんなの売れるわけないよ」「こうに決まっている」という固定観念と、「うちの会社では以前この商品で成功したんだからそんな新商品、売れるわけないよ」という過去の成功体験で、画期的な発想は製品開発の初期の段階で潰されてしまう。
いちご大福というプロダクトがある。生のいちごが入っている大福で、もちの中に入っているあんこといちごの甘さが不思議にマッチしている、私も大好きな和菓子だ。
初めていちご大福を作った方も、「大福の中に生のいちごなんて入れても美味しいわけがない」という固定観念があったり、「うちの店は創業以来、大福が売れてここまで来たんだから」という過去の成功体験にとらわれていたら、あのいちご大福は生まれなかったに違いない。
いちご大福は、「いちご」と「大福」という、「すでに世にある製品同士を組み合わせた」プロダクトである。なにも、ゼロから創りだしたものではない。このように、既存のプロダクトを組み合わせることで「今までにない新しいもの」に見える。お客様にとって新しい価値を創造することを、経済学者のシュンペーターは「新結合」と呼んでいる。
iPhoneも、「携帯とネットとiPod」を組み合わせたプロダクトだ。アップル社でも、「スマホには数字や文字のボタンがあって当たり前」という固定観念や、「うちはPCと音楽配信で成功してきたんだから」という過去の固定観念への強すぎるこだわりがあったなら、iPhoneは生まれなかったはずである。
ここで重要なことは、
1. イノベーションは設備投資や画期的な技術革新だけを指すのではない
2. 「意外」なものどうしの組み合わせである
ということだ。1に関して言えば、誰にでもチャンスはある。また、2に関して言うと、固定観念にとらわれることなく自由な発想をすることで新結合となり、ヒット商品につながる。
つまり、ヒット商品につながる画期的な発想は私やあなたにもできる ということである。
思考がストップしない自由な発想をするには?
会社員時代の私もそうだったが、「そんなこと言っても、そう簡単に自由な発想なんて簡単に生まれませんよ」と思われるかもしれない
そこで、イノベーションにつながる「発想術」のコツを2点あげておく。
ひとつは、時間があるときにちょっとしたトレーニングをやってみることである。まずは身の周りにあるいちご大福のような「新結合」を探してみてほしい。たとえば、「ひつまぶし」もうな丼とお茶漬けを合体させたものだ。難しく考えずに気楽にやることがコツになる。
もう一つは、固定観念をはずすために自分が気づかないことを教えてくれる「鏡のような人」に聞いてみる。
自分の頭の中にある「考えていること」を自分で見ることはできない。鏡で自分のヘアスタイルを見てみるように、「自分には見えない、その人が気づいたこと」を教えてもらえばいいのだ。
この時のコツは、「同じ価値観を持っている、自分とタイプの違う人」に鏡になってもらうこと。私の場合でいえば、私自身が男性で筋道を立てて考える左納派タイプのコンサルタントなので、「感性豊かな右脳タイプの同じ女性起業家」といった具合になる。
価値観は同じなので、大きく外れることもなく自分の視点とは異なる考え方で、自分では気がつかないことを見つけてくれる場合のアドバイスをもらえることになる。
このように、シンプルな方法を使って自由な発想をすることでヒット商品は生まれるのだ。
【事例でみるイノベーション発想】
スターバックスの独自化ポイント
私はスターバックスが大好きで、仕事の合間にひと休みをしたり気分転換を兼ねてスタバで原稿を書いたりしている。
以前、スターバックスでコーヒーを買ったときにあるキャンペーンをやっていた。購入したレシートに書いてあるスターバックスのインターネットのサイトに行き、アンケートに答えると自分だけの番号をもらえ、その番号を持ってスタバにいけばドリンクが1杯無料になるという企画だった。
アンケートの内容はお客様満足度の調査でした。スターバックスの基本戦略はやはり顧客満足度を上げること、特にバリスタと呼ばれる店員さんの対応や、100%ではなく120%やっているかを中心に質問していましたので、社員の個別対応に満足度アップのカギがあると考えていたようである。
これは、スターバックスにとって値引きやおまけつきのキャンペーンよりも、顧客満足度を上げることを最優先の課題にしているといるために、このような質問をしていたのだと推測できそうである。
そして、この調査に回答したお客様に、無料で1ドリンクさしあげるという、来店プロモーション=クーポンを実施し、お客様に再来店=リピートを促している。これは、スターバックスもお客さまもハッピーになれる企画である。
また私はスタバにはマイカップをもっていくのだが、先日忘れた時に店員さんが、「今日はマイカップではないのですね」と声をかけてくださった。
スターバックスのコーヒーは、ドトールやカフェドクリエよりやや高めだが、落ち着いた雰囲気とコーヒーのおいしさに加えて、このお客様に対する姿勢が他のファストフードのカフェとは別なものなので「選ばれる」カフェになっている。
飲食店のマーケティング活動でも、再来店をしてくれるお客様はとても大事なお客様である。そして、大事なお客様は値引きやおまけよりも、丁寧な対応や落ち着ける店内、そしてなにより食べたり飲んだりするメニューのおいしさを評価してくれるお客様だといえる。
このようなキャンペーンを実施することによって、重要なお客様であるリピーターの来客促進と同時に顧客満足もあげることができるのだ。
あなたもスターバックスのこの企画の考え方を、自社に少しアレンジして取り入れてみると、自然と来店してもらえる“来客の仕組み”が創ることができるだろう。
ミルクかりんとうの美味しさ:三幸製菓の発想力と新結合
先日スーパーで見つけた三幸製菓の「ミルクかりんとう」もともと雪の宿っていうお菓子が美味しいメーカーさんである。
まず、もとになっている「雪の宿」は、そもそも軽い食感の、何枚でも食べられる「おいしい」おせんべいのようなお菓子。ある意味、不思議な舌触りとかみ心地なところも逆にいい。
長く店頭にあるので、ヒット商品なのだろうな、と思いサイトを見たら、1977年から販売しているとのこと。今年でなんと37年のロングセラーなのだ。
どんなプロダクト=製品やサービスでも同じことだが、いくらいい広告やロゴデザインを創っても、プロダクトがよくなければ売れない。食品でいえば「美味しい」ということは、ヒットのための必要で絶対の条件なのだ。
その意味で雪の宿はかなり美味しく、かつ個性的な食感のおせんべいである。
私はスイーツ好きで、和菓子ももちろん大好き。かりんとうも大好物だが、あの黒糖の強い甘みで多くは食べられない。
その点このミルクかりんとうは、雪の宿のよさをちゃんと引き継いでいて、ミルクの味も、かりんとうの味もどちらかと言えば上品な薄目の甘さで、いくつでも食べられそうな美味しさなのだ。
そもそも、ミルクかりんとう、というか三幸製菓のすごさは、雪の宿というヒット商品があるうえで、さらに、ミルクとかりんとうを合体させて新しいスナック菓子を創造したところ。
ミルクとかりんとうという意外なモノ同士を組み合わせるという発想は、なかなかできるものではない。
過去に成功した体験などがあると、企画段階で、「うちの会社は雪の宿がヒットしているのだからそんなものは作れない」「ヒット商品があるのに、新製品なんかだすことないだろ」という呪縛が生まれてしまう。
画期的な発想は、思考の停止から始まる。思考の停止は「過去の成功体験」と「固定観念」から生まれる。
固定観念がとれて、自由な発想が生まれると、良い企画として具体化されて、新規事業や新製品開発につながっていく。
このミルクかりんとうも、自由な発想から生まれたに違いない。
「明日やろう」はバカ野郎。
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