女王様のご生還 VOL.43 中村うさぎ

昔からそうなんだが、対人関係の距離感って本当に苦手だ。

リアルでは距離感の合わない人は自然に遠ざけてきたので、おかげさまでそのようなストレスからはかなり解放されたが、ネットゲームなどではそうもいかない。「みんなで行こうよ!」的な無邪気な全体主義による強要がこの世で一番嫌いなのに、そういう人間がいるから厄介だ。「行きたくない」と何度きっぱり断っても引き下がらず、しまいには強制的にパーティを組まされたりすると心の底からウンザリする。せっかくリアルでそういう人間関係を拒んできたのに、なんで単なる遊びのゲームの世界で、嫌なことを他人から無理強いされる必要があるのだ。しかも本人にはまったく悪気がないから始末に負えない。

もしかして私が思っている以上に、この世には全体主義大好きの人間が多いのだろうか。他人が「嫌だ」と断る権利を無視して平気な人間は、「多様性」などという概念とは無縁であろう。そして私は、多様性を無視する人間とはリアルでもヴァーチャルでも付き合えない。私の目には、こういった全体主義はある種の暴力に見えるからだ。



そういえば、この人は、私が主婦(結婚して誰かの妻である、という意味で)なのに夫の食事を作らないことに大いに驚愕していた。「ご飯くらい作りなよ!」と説教されるのだが、「家事なんか得意な人がやればいいのであって女の義務ではない」などという私の価値観を説明するのも面倒臭いしどうせ理解してはもらえないだろうから「料理苦手なの」とシンプルに答えたら、簡単な料理の作り方などをくどくどと教えてくれて(しかも、そんなこと知ってるよ的な一般知識ばかり)、何としても私に料理を作らせようとする。それもまた、彼女なりの善意なのだろう。「女がご飯を作るべき」という価値観を持っているのは個人の自由だが、それを他人にまで押しつけるのは「善意」の域を超えている。

でも、よくよく考えたら、こういう人ってママ友とかの集まりにはきっと少なくないんだろう。私がこの手の人々と交流がないだけだ。私の周りには「女なのに料理も作らないなんて!」と驚愕する人はいない。「そんなの個人の自由でしょ」と考える人が圧倒的に多いので、これが世間の一般的見解なんだと勝手に思い込んでいた。いかに自分の世界が狭いか、思い知らされた気分である。

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