劇場版『機動戦士ガンダム』Last Shootingの輝くまで 第8回

第8回 どうまとめた? 劇場版『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙(そら)編』(その1)

 第3部は完結編である。第2部公開時、エンディングの後には「めぐりあい宇宙(そら)編」の予告の字幕が現れ、そこで正式サブタイトルが発表されるというサプライズが仕込まれていた。公開は1982年3月13日。第1部からちょうど1年後で、第2部からは8ヵ月後にあたる。1と2に比して間があいているのには特別な事情がある。

 「めぐりあい宇宙編」に使われた物語と映像素材は、TVシリーズ第31話「ザンジバル、追撃」の中盤と第32話「強行突破作戦」を合体させたシークエンスの冒頭から最終回にあたる第43話「脱出」まで。ところが第34話「宿命の出会い」の制作作業中にアニメーションディレクターの安彦良和が急病のために入院し、以後はタッチしていないのである。

 それ以前の話数では安彦良和が作画監督としてクレジットされていない回でも部分的に手が入っているなど、かなりの部分の作画クオリティがTV時点で引きあげられていた。その修正作業のボリュームから準備期間が必要だったということである。安彦良和も特に3作目に思い入れがあるわけではなく、単純に新作比率が多かったということを語っている。

 ポスタービジュアルは大河原邦男による「ラスト・シューティング」。頭部が破損した状態の主役をシンボルにすることも「玩具宣伝のロボットアニメ発」から離脱していくガンダム的な営みの一貫だったと言える。フィルムのほうもそれに呼応するかのように、ハードなSF&ミリタリー描写が増大している。

 その代表的な例は、ホワイトベースの兵器類だ。TV版では本来地上兵器のガンタンクが宇宙を飛行して戦闘に参加していたが、キャタピラのついたものが宇宙を駆けるビジュアルは玩具前提のものだ。結果的にこれはガンキャノンの同型機に変更され、カイの機体が108(イチマルハチ)、ハヤトの機体が109(イチマルキュウ)とマーキングで識別をするようになっている。数字の「0(ゼロ)」を「マル」と呼ぶのは無線通信などの混乱を防ぐためのミリタリー仕様である(英語の場合は「オー」になる)。同時にGメカを置き換えたコア・ブースターも2機となり、スレッガー機が005(マルマルゴ)、セイラ機が006(マルマルロク)と同様に機体識別ナンバーが表記されるようになった。

 当時は大河原邦男のイラストにしたがい、モビルスーツのプラモデルに現用兵器のようなマーキングをデカールで貼りつけることが流行してた時期で、その志向とも合致した変更であった。ついにはア・バオア・クーのシーンで作画でマーキングを入れた旧ザクや量産型ゲルググが登場するなど、ファンサービスも隅々まで行き届いた映画であった。

 編集方針的には、この最終ブロックは難産だったことが、富野総監督の当時のエッセイからうかがい知れる。それは全52話で構築されていたTVシリーズの物語が、放送短縮の結果、もともと圧縮された密度の濃いものとなっていたからだ。割愛すべき部分が少ないうえに、アムロとララァの「めぐりあい」を中心にニュータイプの物語が佳境に入り、ジオン公国軍との戦争も終局に向かって激化していく。その中で起きるさまざまな人の「出逢いと別れ」にも決着が提示される。

 こうした多種多彩な要素を思いきった構成で凝縮し、安彦良和の流麗な作画で描きぬいた「めぐりあい宇宙編」は、ファーストガンダムの「決定版」といえるレベルで見事なピリオドを打ったのである。

 では、例によってTVシリーズとの具体的な差異点について以下に順次述べていこう。

(1)新作中心によるキャメル艦隊戦

 アバンタイトル(題名の前に該当するブロック)は恒例のスペース・コロニーの説明と戦争の背景が描かれる。ホワイトベースがたどってきた苦難の道がランバ・ラルの最期に凝縮され、鮮烈なものに進化している。

 メインタイトル・バックは地球から離れていくホワイトベース。この映画はこの後、地球側へカメラが戻ることはいっさいなく、宇宙空間と宇宙植民地、宇宙要塞のみを舞台としていく。その宣言のような力強さが感じられる。ホワイトベースはジャブローで戦力を補強されているが、それはやがて2機となったガンキャノン、コア・ブースター、そして2連装となったメガ粒子砲で端的に伝わってくる。同時に宇宙での「決戦」が間近いという雰囲気も増強されている。

 第2部ラストと一連につながって見える描写として、シャア大佐の戦艦ザンジバル追撃が第31話ベースで描かれる。物語はすぐ第32話の挟撃作戦に移るが、この2話分ではモビルアーマー“ビグロ”と“ザクレロ”の登場が割愛。ビグロだけは埋め合わせとして後にア・バオア・クーで3機編隊として顔見せしている(戦闘シーンはない)。

 第32話のドレン率いるキャメル艦隊とホワイトベースの交戦は、大幅な新作カットの補強によって見ごたえのある宇宙戦闘となっている。TV版ではガンダムがビーム・サーベルでドレンのいるブリッジを直撃する展開だったが、劇場版では直上からのビーム・ライフル直撃によって内部が大破し、ドレンがガラスに押しつけられヒビが拡大していくなど、リアリティと迫力が格段に向上している。このシークエンスは予告編にも使われて、期待を大きく盛りあげた。

(2)サイド6の出逢いと別れ

 人の縁、その「めぐりあわせ」の不可思議さが本作の大きなポイントである。それは中立地帯サイド6における人間模様に、よく現れている。ミライ・ヤシマとその婚約者カムラン・ブルームの再会、アムロと父テム・レイの再会など、第33話と第34話の映像と「出逢いの物語」を中心にまとめられている。特に湖畔で白鳥をめぐってアムロがララァと対面するシーン、そしてシャアとエレカに乗って再会するシーンは大幅に新作が加えられ、イメージを一新して宿命の雰囲気を強化している。なお、このエレカは大河原邦男の新デザインとなっている。

 ここでは本来2回あったコンスコン艦隊との戦いが1回にまとめられ、カットが増えた分、アムロがニュータイプ能力に本格的に覚醒し、リック・ドム編隊を一瞬にして葬り去るTV中継もパワーアップして見えるようになった。中継を見るララァとシャア。あきらかに気を許した甘えた雰囲気を出している。その目的で、シャアはマスクを外して素顔を見せるよう、大きな変更が加えられている。

 リック・ドムのスカート内のバーニア、チベを破壊するとき逆制動をかけるガンダム脚部からの逆噴射も、大河原邦男による追加設定が起こされ、板野一郎の作画で緻密に描かれた。

 ガンダム活躍の中継を見て興奮したテム・レイは階段から落下し、頭部を強打して生死不明となってしまう。これも「アムロの成長=親離れ」という観点で考えれば、劇場版ならではの重要な増補改訂である。

(3)ジオン公国側の政治的策謀

 サイド6編直後、ジオン公国側でのザビ家各人の動きが完全新作でインサートされる。ギレンを中心にキシリア、ドズルと兄弟同士の会話で最終決戦への軍の動き、宇宙要塞、月面拠点の配備が語られる。一方で、デギン公王はダルシア首相に地球連邦側の仲介を依頼する。中盤以後の政治的・軍事的展開が唐突にならないようにという配慮であろう。

 ここではギレン・ザビの秘書として軍服の麗人セシリア・アイリーンが新キャラクターとして登場する。セシリアとダルシア首相の2人は、富野由悠季著による小説版で先行して登場していた人物である。劇場版の締めくくりとして、安彦良和によって新設定が描きおろされている。(文中:一部敬称略)

(「その2」につづく)

【2006年10月3日脱稿・2017年6月15日加筆】初出:劇場版『機動戦士ガンダム』公式サイト(サンライズ)