女王様のご生還 VOL.270 中村うさぎ
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日俵万智氏の有名な短歌である。「サラダ記念日」が大ヒットした1987年当時、29歳だった私はこの歌があまり好きではなかった。短歌としてどうこうではなく、何でもかんでもやたら「二人の記念日」にしたがる人たちの習性が好きじゃなかったからだ。今でも映画などの中で「今日は何の日か覚えてる?二人の初デート記念日よ!」みたいな台詞が出て来ると「ふふん...
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「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日俵万智氏の有名な短歌である。「サラダ記念日」が大ヒットした1987年当時、29歳だった私はこの歌があまり好きではなかった。短歌としてどうこうではなく、何でもかんでもやたら「二人の記念日」にしたがる人たちの習性が好きじゃなかったからだ。今でも映画などの中で「今日は何の日か覚えてる?二人の初デート記念日よ!」みたいな台詞が出て来ると「ふふん...
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前回、私の腐った性癖……すなわち「レイプ物のエロ漫画には興奮するけど、それが男女間のレイプだと痛々しさや怒りの気持ちが邪魔をしてエロい気分になれないので、自己投影しないで済むBL漫画のレイプ物を楽しんでいる」という趣旨の話をした。まぁ、私の性癖など世界一どうでもいい情報だと思うが、ここで考えたいのは「世の中には日常の社会規範や倫理に反する性癖を持つ人間が少なからず存在する」という事実について...
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心が平安である事を「幸せ」と定義するなら、現在の私は人生で最も幸せであると言えるかもしれない。昔みたいにお金があるわけでもないし、何なら足も手も不自由だったりするのだが、それはあくまで「不便」なのであって「不幸」だとは感じていない。「不便=不幸」では決してないのである。歩けなくなった当初はひどい絶望感と無力感に打ちのめされたものの、10年近く経ったらすっかり慣れて、「ま、しゃーない」と思える...
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施設に入った母の件で、父とド派手な喧嘩をした。母の施設では基本的に衣食住の世話をしてくれるのだが、その他はオプションで別料金というシステムらしい。「施設があれこれ別料金サービスを提案して来て、俺から金を絞り取ろうとするんだよ」電話の向こうの父の声はこのうえなく不機嫌そうだった。「まったく、嫌になるよ!」「たとえばどんなサービスがあるの?」「まぁ、アレだ。月に1回か2回、医者による健康診断とか...
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9月14日に右目の白内障の手術を受けて、両目ともきちんと見えるようになった。世界が、新しい。この世界はこんなにも鮮やかで明るくて美しいものだったのか、と感銘を受けると同時に、もうあのセピアの世界は消えてしまったんだなと軽い喪失感も抱いたりして。人間なんて勝手なものだ。でも目に映る世界って、アイデンティティにも影響するよね?何もかもがセピア色にぼやけていた世界に住んでいた私は、たぶん「見ること...
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この原稿は、「うさぎ図書館」の後に書いているので、テーマが続いていることをお詫びしたい。「うさぎ図書館」では、1969年に女優シャロン・テートを含む複数のセレブたちを殺害したマンソンファミリーのスーザン・アトキンスについて語った。https://bit.ly/2O5N8WPちなみにこの人ですね。どこにでもいる、ちょっとかわいい女の子といった感じ。特に狂気などは感じられないし、もちろんモンスタ...
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私は努力が嫌いだ。小学生の頃から「やればできる!」みたいな激励の言葉が苦手だった。いくら小学生でも、「やってもできない事はある」くらいの現実は理解している。たとえば私は幼い頃から虚弱体質で体力も運動神経も並み以下であるから、かけっこで一等賞を取るなんて芸当はどんなに努力してもできっこない。そういうのはスポーツに向いてる人が努力すればいいのであって、最初から劣っている私が努力する必要なんてどこ...
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9月15日の早朝に母が死んだ。午前6時半頃に電話が鳴って、こんな時間に誰だよと思いながら出たら、介護施設のケアマネの人から「今朝、お母様か亡くなりました」と告げられた。それを聞いて何の感慨も湧かなかったのは、予想していたとおりだ。悲しみも喪失感も衝撃も、一切なかった。実感が湧かないためかとも思ったが、それから10日以上経った今でも何も感じない。愛情込めて育ててくれた母には申し訳ないし、自分が...
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先週のことである。ベッドの中でエロ漫画を読んでいた私はついムラムラして、久々にオナニーをする気になった。んで、さっそく始めたわけだが、イキそうになったその瞬間!脳天に雷でも落ちたような衝撃とともに、いきなり頭が爆発しそうな激痛に襲われたのだった。その痛みときたら何と表現していいのやら、とにかく脳ミソが膨れ上がって今にも頭蓋骨を割って飛び出すんじゃないかと思うほどの圧と、全ニューロンが真っ赤に...
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私がデリヘルをやったきっかけは、最初から「男たちと仲直りしたい」と思ったからではなく、ただ単に美容整形の成果を試したかっただけだ。新しく手に入れた顔と身体に男たちが金を払うかどうかを知りたかった。「自分を商品にするなんて」と眉を顰めた人も少なからずいたが、そもそも自分は「消費されるもの」だと思っている。自分の恥を赤裸々に書いた書物が人々に消費されるというのは、要するにこの私自身が消費されてい...
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