【僕モテ無料サンプル】隠れた名作に出会って惚れる。それが「僕モテ映画」なのだ号【vol.187】



【vol.187】隠れた名作に出会って惚れる。それが「僕モテ映画」なのだ号

2016年08月24日発行



入江悠presents 僕らのモテるための映画聖典



映画監督・入江悠と仲間たちがすべての映画を愛する人へ贈る「映画を観ればモテる!」を追求するメルマガです。

【 I N D E X 】

 【 01 】 … 入江悠の身辺雑記「映画でモテると思ってた」

 【 02 】 … 執筆陣がこの一週間で観た映画を採点「みんなの☆映画レビュー」

 【 03 】 … ボールペン画伯・佐藤圭一朗の1コマ劇場「映画・狂人画報」

 【 04 】… 入江悠がちょっとマジメに考えた。「モテる大人になるための映画術」

 【告知】 … 入江組エキストラ募集のお知らせ。

 【 05 】 … カット職人・林賢一の映画定量観測「終わった恋と、映画を数える」

 【 06 】 … 俳優・駒木根隆介の役者論「俳優麺論」

 【 07 】 … ラッパー・上鈴木伯周の「すべての映画はヒップ・ホップである」

 【 08 】 … メルマガ読者限定ハミダシ放送「僕モテPodcastガチ話」!

 【 09 】 … 名作再見!『僕らのベスト』メルマガ出張版

 【 10 】 … これ観りゃモテる!「デートのための映画データベース」

 【 11 】 … メルマガ編集担当の書評コーナー「これは映画になりますか?」

 【 12 】 … 編集部より



■【 01 】 入江悠の身辺雑記「映画でモテると思ってた」



 映画監督・入江悠が、映画のこと、日常のことをひねもすのたりと綴ります。知られざる映画監督の喜び、悲しみ、苦労話をぜんぶ公開!



 こんにちは、入江悠です。8月も下旬になりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか?台風が来ています。もう今週号を配送している頃には本州を通過しているかもしれません。

 まだまだ映画の撮影中の私には、台風による天気の変化は恐ろしいものがありますが、しかし、台風、という響きにはどこかワクワクするものがあります。御し難いもの、だからでしょうか。

 子供の頃、台風は怖いものであり、楽しみなものでした。いくつになっても甘酸っぱい妄想というのは膨らみます。相米慎二監督の『台風クラブ』ではありませんが、学校に残って台風を待つ間、それまで疎遠だった女子生徒と……、と、この原稿を雨待ちの撮影現場でいま書いていたのですが、台風のせいで本日の撮影が延期になりました。

 うん、これが大人。仕事は甘酸っぱい妄想を許してくれませんね。明日以降の撮影スケジュールが大丈夫か不安でなりません。お仕事中の皆様、ご家庭にいる皆様、台風には気をつけましょうね。

 さて先日、我らが僕モテpodcastが第100回目の収録を迎えました。記念すべき回の収録を祝して、メルマガ読者さん限定の公開収録も行いました。(ご参加下さった皆様ありがとうございました!)僕モテのイベント史上、最小人数の会でしたが、おかげさまでとても有意義な会になりました。個人的にも、撮影中の一服の清涼感的な時間でした。

 継続は力なり。もともとpodcastは本メルマガの告知・宣伝のために始めたのですが、気づけばたくさんの方に聴いていただけるようになりました。僕自身は、撮影中なかなか出席できなかったりして、上鈴木伯周と駒木根隆介に随分任せてしまってますが、やっぱり毎週続けるのはとても大事だと思います。(毎週、収録して編集、アップロードするのは実に大変です。伯周、サンキュー!)。

 そして、継続しているうちにリスナーの方が少しずつ応援してくれるようになりました。また、毎週のリスナーさんからのお便りも楽しみです。そして何よりも、メルマガという媒体の特性上、執筆陣は顔を合わせなくても原稿の執筆ができるけど、やっぱり定期的に顔を合わせるのがとても大事。お互いにいま何をしてるか、何を考えているか、真面目な顔で喋ったりするわけではありませんが、なんとなく顔を合わせるだけで感じられたりします。事務的なことはメールでもやりとりできますが、顔を合わせてただ同じ空間にいるというのは、よりたくさんの情報がお互いに得られます。これは、仕事も交友も一緒ですね。

 そんなこんなで、次の目標はpodcast200回。これからのお題では、どんな新しい映画と出会えるでしょうか。普段なら積極的に観に行かないような映画と出会えるといいなぁと思います。読者の方、リスナーの方に教えていただくこともたくさんあります。podcastにはそんな新たな出会いのワクワクがあります。さらなる新たな出会い、新たな発見へ。ぜひこれからもメルマガ共々応援いただけると幸いです。

 それじゃあ、今週もはじまり、はじまり~。



■【 02 】 執筆陣がこの一週間で観た映画を採点「みんなの☆映画レビュー」

 公開中の映画をしがらみ抜きの本音でレビュー!

 ☆☆☆…観ずに死ねるかっ

 ☆☆……ヒマつぶしに、是非

 ☆………観なくていいかも

 の3段階ガチ評価です。

 ★つきは旧作・特集上映など



【入江悠】

 『シン・ゴジラ』(詳細は連載で)

 今年、日本の実写映画で最大のヒットになるほどの勢いとのこと。深夜の回、自分の作品の撮影の合間にようやく観ることができた。果たして、どうだったか……!?

 『クズとブスとゲス』☆☆

 映画としてトータルで見ると、雑で荒削りなところが目につく。僕の知人の俳優・板橋駿谷の演技も一貫性がなく、場当たり的で弱い。ただ、監督兼主演俳優の奥田庸介のキレた演技は不気味で凄まじい。

 入江悠……いりえ・ゆう。1979年横浜生まれの埼玉育ち。現在新作映画『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』撮影中

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【林賢一】

 『ゴーストバスターズ』☆☆

 なぜ吹き替えで観てしまったんだろう、とずっと自分を責めています。もう一度、字幕版で観直さなくては、とは思っているのですが。台詞回しは最高!! なはずなのでネイティブで聞きたかった……。ああ、愚痴ですねこれじゃ。

 『奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~』※詳細は連載で

 こういった規模の学園モノが好きです。今回はフランスの高校。世界各国の学園カットを観ることは、イコール世界の生活を観ることだと思うのです。連載では、『ラサへの歩き方 祈りの2400km』的な視点にも触れています。

 ★『ブリーダー』☆☆☆

 1999年に製作されたニコラス・ウィンディング・レフンの未公開作品。ほとんどが『プッシャー』出演者なので顔がほころんでしまう。スジはシンプルだが強い。新宿シネマカリテの特集「カリコレ2016」よ、ありがとう。

 ★『特急二十世紀』☆☆

 1934年製作、ハワード・ホークス監督のスクリューボール・コメディ。売れっ子演出家と女優の、仕事と恋と対立を後半は列車の中だけで描き切る。正直、ギャグとしては今みると笑えない部分も多いけれど、やはり後半の畳みかけは凄い。

 林賢一……はやし・けんいち。1979年、五反田生まれ、男子校経由、宇都宮育ち。構成・脚本。雑誌『サイゾー』で、古今東西のトークを分析する連載をやっています。



【駒木根隆介】

 『ラサへの歩き方~祈りの2400km』※詳しくは連載で。

 肉体と精神と風土の美しさに目を見張り、不合理で一見無駄な行為がどれだけ自分たちの生活を支えているかを確かめられる、本当に素晴らしいロードムービー!

 駒木根隆介……こまきね・りゅうすけ。1981年、東京生まれ。通称・名優。現在出演作『ヒメアノ~ル』公開中!



【上鈴木伯周】

 『ゴーストバスターズ』☆☆

 みんな(最低でもテーマ曲とあのロゴは)知ってる『ゴーストバスターズ』のリブート作。女性主人公たちのネタは笑える。クリス・ヘムズワースの筋肉の無駄使いも笑える。笑えるが、なんか「面白く」ない。エンドロールは2016年のベスト級だけど、バイブスが合わなかった?

 『ケンとカズ』※詳しくは連載で

 この映画には「他者」が存在しない。あるのは、クロースアップの連続で切り取られた素晴らしい顔! 顔! 顔!!その良い「顔」たちの世界が好きになれるかどうか?…詳しくは連載で。

 上鈴木伯周……かみすずき・はくしゅう。1979年、栃木生まれ、男子高卒、のラッパー。自身のバンドP.O.P(ピーオーピー)のライブ情報はコチラ

 http://p-o-p.jp/



【編集長】

 『秘密 THE TOP SECRET』☆

 ある事件の真犯人は別の事件の犯人とつながっている可能性があり、その犯人は主人公の過去と関わっていて、主人公の過去には親友との悲しい事件があって、さらにもう一人の主人公も過去に色々あって、さらには……とストーリーがとても複雑。それを説明するための2時間半という印象。



■【 03 】ボールペン画伯・佐藤圭一朗の1コマ劇場「映画・狂人画報」



 映画作りの縁の下の力持ち、それが制作部。そんな制作畑を長く歩み、映画の現場を知り尽くした男・佐藤圭一朗が、特技の超細密ボールペンイラストで新作映画をヒトコマレビュー!



 <今週の一枚> この夏、ステイサムがあなたの仕事の邪魔をする!『SPY/スパイ』

http://norainu-film.heteml.jp/mote/img/kei_20160824.jpg

※2016年8月3日DVD/ブルーレイ発売(日本未公開作品)



■【 04 】入江悠が、ちょっとマジメに考えた。「モテる大人になるための映画術」



 「モテる大人」「カッコいいオトナ」っていったいどんな人? どうやったらなれるの?三十路独身映画監督が、古今東西の映画の中からヒントを探し、モテる大人を目指します。



 【今週のテーマ】 私は、ついに『シン・ゴジラ』を観た!



 アイ、ガッリッ!やった。僕は、やった。やっと観ることができた。いま話題の邦画大作『シン・ゴジラ』。今年の邦画実写作品で最大のヒットになりそうと予想される本作。撮影中のある夜、翌日が撮影休日の深夜回、僕は、かなり出遅れたものの、ついに観た。いま一緒に映画を作っていて多忙なはずの佐藤圭一朗画伯が、ずいぶん前に鑑賞済みなことにいささかの疑問を感じてはいるものの、今週は長くなりそうなので、先を急ごう。

 結論から先に言ってしまうと、僕にとって『シン・ゴジラ』は、【すげえ!】というところと、【ガッカリ】というところ、その両方が混じった、でも【間違いなくエポックメイキング】、そんな作品ということになる。

 先に【ガッカリ】の方を済ませてしまいたい。『シン・ゴジラ』のどこに、僕は【ガッカリ】したか。端的に言うと、「映像」だ。【ガッカリ1】『シン・ゴジラ』のCGクオリティはそれほど高くない海外の大作映画と比べて、というだけではなく、邦画のある程度の作品と比べてみても、それほど質が良いとは思えない。映画が始まって15分くらい経ち、僕はそう思った。最もそれを強く思ったのは、序盤に登場するあの生物を観て、だ。海から上陸して、沿岸部から街を破壊していくあの生物、正直、「んん……これって」と思ってしまった(特に、あの眼)。で、その印象が映画の後半で覆されたかというと、そういうこともない。クライマックスあたりでのゴジラ(と、ゴジラの放つ光線)を観ても、決してCGのクオリティが高いとは思えなかった。

 【ガッカリ2】美しさを放棄した映像表現

 もうひとつ僕が【ガッカリ】したのは、映像表現だ。鑑賞前に僕は心のどこかで初代『ゴジラ』(1954年公開)や、ギャレス・エドワーズ版『GODZILLA ゴジラ』(2014年公開)のような、荘厳で神聖な巨大生物としてのゴジラの登場と、破壊される都市の美しい映像表現を期待していた。だが、本作にはそれはなかった。「映画的」というひどく曖昧な形容詞を使うことを許してもらえるならば、本作には「映画的な美しいカット」というのはない。網膜に焼きつくような峻烈なカットも、甘くとろけるような匂いたつカットも、10年後、20年後も脳裏にこびりついて離れない美しい一瞬も、ない。『平成ガメラシリーズ』にもそれはあったのだが、『シン・ゴジラ』にはない。

 さて、早々に【ガッカリ】ポイントを二つ挙げたが、大事なのはここからだ。では、僕は『シン・ゴジラ』という作品自体に【ガッカリ】したか、というと、そんなことは決してなかった。いや、むしろ、【すげえ!】と思ったである。これからその理由を述べたい。

 【すげえ!1】勇気あるパラダイムの転換

 冒頭から早々に【ガッカリ】を感じた僕だったが、10分経ち、20分経った頃に、映画の見方が変わった。「これは、僕が期待していた映画ではない。むしろ別物だ」と。僕は歴代の『ゴジラ』シリーズを「怪獣もの」あるいは「ディザスターもの」、ざっくりとそう捉えていたが、本作は「お仕事もの」だったのである。(あくまでも僕の見立てです)。

 様々な人が指摘しているが、『シン・ゴジラ』はとにかく情報量が多い。登場人物も、その肩書きも、登場する場所も、めちゃくちゃ多い。物量だけでなく、人物のしゃべる台詞のテンポもとにかく速い。ゴジラそのものの描写に比べて、人間側の描写の方が情報量が圧倒的に多い。これが何を意味するか。ゴジラという生物が現れた時に、社会は、組織は、どう対処するか。それを主眼として描く、と制作者が決めた、ということだ。明らかに制作者は、ゴジラそのものを崇高(または畏怖的)に描くことを放棄し、むしろそれに対応する人間たちの右往左往ぶりに主眼を置いている。ちなみに、世間的にはこのパラダイムの転換を、総監督である庵野秀明氏の功績と評している向きがあるが、僕は制作者の内幕を知らないので、ここでは「制作者」とぼんやり表記したい。余談だが、僕が撮影現場に見学へ行った時、俳優やカメラマンに対して細かく演出していたのは、監督の樋口真嗣氏だった。

 【すげえ!2】さらに狭義な「事務方もの」への集中

 さて、僕は『シン・ゴジラ』を「お仕事もの」と評した。実は正確ではない。もっと正確かつ狭義に記するなら、「事務方もの」だ。ゴジラに対する対応の仕方を協議し、決議し、命令を出すのが、本作ではほとんど会議室にいる人間だからだ。政治家もたくさん登場するが、描かれる意思決定プロセスは、駆け引きや交渉よりも、むしろ調整と後追い事務が主。なので、政治的ではなく、むしろ行政的。さらに、本作では電車や船、航空機、ヘリ、戦車などの乗り物が登場するが、運転者や整備士など、汗くさい労働者はほとんど描かれない。避難民を誘導する警察や自衛隊も登場はするが、彼らの心理や葛藤が描かれることはない。描かれる対象はあくまでも会議室で悩み、指令を出す「事務方たち」である。普通の映画ならあっても良さそうな家庭環境の描写や恋人との会話など、血が通った人間としての描写も徹底的に排され、人間は組織の歯車としてのみ捉えられる(科学者たちも歯車のひとつだ)。いわば、たまたまゴジラが出現した時代、地域に居合わせた、代替可能な組織人としてのみ人間は登場する。

 一般的に「ディザスターもの」は、<市井の人々がスペシャルな頑張りを見せて、事態を好転させる>ことを描くが、『シン・ゴジラ』では<代替可能な人が、それなりに頑張って事態を好転させる>。『ゴジラ』ものをここまで徹底的に「事務方もの」へパラダイム転換させたこと、それ自体に僕は【すげえ!】と感心した。

 【すげえ!3】パラダイムの転換はあらゆるところで行われている

 そう考えると、冒頭で僕が【ガッカリ】したことも腑に落ちる。序盤の生物は「気持ち悪く」「不恰好」だが、それも制作者の狙いだ。崇高かつ神聖なものとして『ゴジラ』を登場させるのではなく、最初から、「本作はこれまでとは違いますよ」と線を引いている。ネタバレになるので詳細は割愛するが、これまでの『ゴジラ』では絶対に描かれなかったゴジラ表現もある。ある種、国民的スターであるゴジラから偶像性を剥ぎ取っている。さらに、普通の「ディザスターもの」「パニックもの」なら、市民が雨や雪など過酷な環境に耐えるシーンが登場するが、『シン・ゴジラ』は雨降らしはおろか、季節感すら臭わせていない。「事務方もの」と通じるドライで冷たい感触に徹している。本作では、人間の肩書きも組織の場所も(作戦名ですら)、同じテロップで表記されるが、僕が最もクスッと笑ったのは、「同・タンクローリー群」というテロップだ。人も、タンクローリーも、組織も、作戦も、所詮同じという意味か。一方、これまでの『ゴジラ』シリーズでは破壊の対象になってきた電車が、ある作戦で反逆の徒となるのも、パラダイムの転換だ。(でも、もちろんその電車を動かした人間は描かれない)。

 さて、長くなったのでそろそろ締めないといけない。絶賛の声が各所から聞こえる『シン・ゴジラ』。映画を好きか嫌いかで語るなら、僕は格別好きな映画ではない。「映画的」にハッとさせるカットが欲しかったとも思う。でも、確実に【間違いなくエポックメイキング】な作品ではある。先の大戦における日本軍部の楽観的かつ妄信的思考を批判する台詞も、東日本大震災を想起させる描写も(そして偶像を破壊したゴジラ描写も)、東宝という日本のメジャーの映画で描いたのは、拍手に価する。また、説明過多に陥りがちな日本映画で、会話やテロップを説明ではなく、情報として処理したのも素晴らしいと思う。ここから日本のメジャー映画は変わるだろうか。長谷川博己に批判されそうだが、少しは楽観的に未来を見てみたい気もする。

 【今回の教訓】

 パラダイム転換を事後的に分析するのは容易い。でも、パラダイム転換を当事者として起こすのは難しい。まずは、それを起こしたことに賞賛を送りたい。そして、続きたい。



■【 05 】カット職人・林賢一の映画定量観測「終わった恋と、映画を数える」



 話題の映画はいくつの「カット」で構成されているのか???劇場の暗闇でカットを数えつづけたら、映画の「真相」が見えてきた!



 【Vol.186】  『奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~』を数えてみた



 こんにちは。カット職人の林賢一です。今週、カット数をご報告する映画は、『奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~』(※以下、『奇跡の教室』)です。公開規模はあまり大きくないので、まずは基本情報からいきましょう。

 実話をベースにしたフランス映画です。貧困層が暮らすパリ郊外のレオン・ブルム高校。様々な人種の生徒がいる落ちこぼれクラスの担任は、厳格な歴史教師アンヌ。あまりにもまとまらないクラスの尻を叩くため、アンヌは生徒たちに全国歴史コンクールに参加するよう勧めます。そのテーマは……「アウシュビッツ」。生徒たちはイヤイヤながらも「アウシュビッツ」についてのスピーチを練っていくのですがーーというスジです。

 さて、こういったいわば学園モノ映画のカット数は?と聞かれたら、みなさんはどれくらいのカット数を想像するでしょうか?毎週、カット数についての原稿を読んでいらっしゃるみなさんなら、なんとなくイメージできるのではないでしょうか?ハリウッドアクション大作は2000カットを越えるのが常だから……カットが長いじっくりとした作品は500カットを割るから……うーん、フランスの学園モノなら、1000カットくらい?そんな風に思われた方も多いと思います。さあ、今回はいきなりカット数からご報告しましょう。



 『奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~』のカット数は【1844カット】。

 上映時間は105分なので、1カット平均は約3.4秒になります。



 多い! なんと学園モノなのにカット数は【1844カット】!しかも、1カット平均は約3.4秒!! 細かい!ちょっとしたハリウッドアクション大作バリの数字なのです。これは驚きです。偶然にこんな数字が伸びるわけがありません。明確な意図があるはずなので、そこを考えてみたいと思います。

 レオン・ブルム高校には貧困層が多いため、クラスには様々な人種がいます。授業中のお喋りや、騒ぐなどの行為は当たり前。先生に向かって喧嘩を売り、教室を出て行くのも日常茶飯事です。クラスは約20名。これらの混沌をあらわすには、やはり細かいカットが必要でしょう。極端なことを言えば、先生の発言に対する生徒のリアクションが瞬時に20カットは返ってくるイメージです(実際にはそんな多くありませんが)。ですので、教室のカッティングが非常に細かい。

 これは何をあらわしているのか?カット職人的には、これは「教室・人種の断絶」を刻んでいるのだと思います。20人もいれば、肌の色も違う、宗教も違う、体格も違うし、もうすべてが違う。そんな生徒たちの溝、分裂を細かいカットで表現しているのではないでしょうか。実際、とてつもない早さでカットがつなぎ合わされるとき、そこに調和を見つけるのは難しい。結果、『奇跡の教室』内の教室カットで起きるすべての出来事が、彼らの断絶となって体感できる仕組みになっています。

 さて。彼らは担任のアンヌに言われて、全国歴史コンクールに出場することになりますが、もちろん最初はみんなバラバラ。テーマは「アウシュビッツ」という重いものだし、自分たちの手に負えません。あまりやる気にもならない。ですが、あるインタビューをきっかけに生徒たちは真剣に取り組み始めます。誰のインタビューか?それは、アウシュビッツ強制収容所から逃げ出すことのできた人物です。

 アンヌは、強制収容所の生存者レオン・ズィゲルを授業に招待します。大量虐殺が行われた収容所から逃げ出した、数少ない生き証人のリアルな話。それを生徒は真剣な表情で聞きます。そして、ここも重要なポイントなんですが、このレオンは本物です。つまり、役者ではなく実際に収容所から逃げ出すことができた人物がカット内にいる。ここにフィクションとドキュメンタリーの深淵が再びあらわれてきます。

 (これは最近の僕のテーマでもあります。リアルとは? フィクションとは何か?この境目にいる映画の事が頭から離れません。最近でいえば『ラサへの歩き方~祈りの2400km』であり、『神々のたそがれ』であり、『リヴァイアサン』です)

 『奇跡の教室』は実話をベースにしたフィクションですが、登場するアウシュビッツ生存者は本物。もちろん、これらは撮影の裏話にすぎません。カット上に写っていることがすべてですから、知らなければ知らないままです。本物のアウラがカット上に写っている、とも言いません。フィクションとドキュメンタリーを混ぜることがリアルを生む、とも言いません。ドキュメンタリー的な劇映画がすべからく傑作だとも、もちろん思いません。これらは手段ではないからです(上記を目的にすると、絶対に失敗します)。

 あくまでも語るべき物語があり、それを真摯に紡いでゆく結果、生まれてしまうのが(本当と嘘の)深淵なのではないでしょうか。ですから、こういった(本当と嘘の)深淵を僕らは祝福しなくてはなりません。なぜなら、これは映画の本質の1つだからです。これはたとえ、実体験者が1人も出演しない純粋なフィクション映画でも成立します。なぜなら、カットにうつる人間は本物、本当だからです。ゆえに、これは原理です。映画が逃れることができない原理、それが(本当と嘘の)深淵なのです。その原理がちらっと顔を出し、僕らにヒントをわかりやすく示してくれるのが、撮影裏話というにはあまりにも忍びないような、フィクションとドキュメンタリーの断崖の縁に、際限なく身を置き続ける映画ーー『奇跡の教室』であり、『ラサへの歩き方~祈りの2400km』であることでしょう。

 というわけで、『奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~』はレビュー的に星3つ(☆☆☆)!!!ちなみに、ラストカットも素晴らしく、クライマックスのカット群も抜群。

(なんと、決定的な全国歴史コンクールのカットが1つもありません)

 本作は文部科学省選定映画とのことですが、そんな権威の選定など無関係に、いいものはいいのです。是非、劇場で。

 それではまた来週。



■【 06 】 俳優・駒木根隆介の役者論「俳優麺論」



 映画、演劇と舞台を問わぬ活躍を見せる「名優」駒木根が、映画の中で見せる俳優たちの演技を大好物の麺にたとえて一刀両断!



 【第百八十麺論】『ラサへの歩き方~祈りの2400km』生き生きとこねる、麺の原形。



 こんにちは!オリンピックも甲子園もあっという間に終わってしまいましたね。しかもほぼ同時に。さみしい気持ちで、あいも変わらず日々運動合宿中のコマキンですよ!そんななか、先週末に僕モテpodcastの記念すべき第100回目の収録がありました!公開収録にお越しいただいた皆さんありがとうございました!楽しかったです!

 さて今週はですね、今年の僕モテ映画の代表的一本となりそうな、『ラサへの歩き方~祈りの2400km』を観て、チベット仏教の精神の崇高さ、圧倒されるしかないその景色、季節の移り変わりの美しさに感動しつつも、なによりもそこに生活する実在の人物たちの演技の素晴らしさについてとても思うところあったので、変則的ではありますが取り上げてみようと思いますよ!

 今作、チベットの小さな村から聖地ラサ、そしてカイラス山まで、2400kmもの道程を、両手、両膝、額を地面に投げ伏せて祈る、チベット仏教で最も丁寧な礼拝の方法、五体投地で進む巡礼の旅に出た11人の村人たちを追ったロードムービーとなっております。一つの家族を中心に、旅に出る11人は、老人、若者、中年、少女、そして妊婦ととてもバラエテイ豊かです。そして、彼らは全員俳優ではなく実際に監督が現地で見つけた村人の人たちとのこと!

 今作はドキュメンタリーではないので、様々な事件も起こりますし、各キャラクターが持つ旅に出る動機や悩みも実際のものではなく、監督が書いたプロットを元に演技によって表現され ていきます。しかしそれがですね、観ている間、どこからどこまで演技なのか分からないくらい、本当に生き生きとしていて、リアルにその場で起きているとしか思えないほど自然で、これが演技なら自分がしている演技って一体なんだろうと考えざるを得ないくらいの素晴らしすぎる演技なのです!もちろん、村人の皆さんが演じているのは限りなく等身大に近いキャラクターですし、実はFBIの捜査官だった、みたいな設定はないので、自分の普段の生活からごく自然に身についた生理や仕草を元に、地に足がついた自然な演技が出来ているのですが、その拡大の仕方が本当に素晴らしかったのです!

 これは例えるなら、チベット人の主食、ツァンパです!ツァンパは、ハダカムギを脱穀し、乾煎りしてから粉にした食物で、これをお湯とヤクの乳から作ったギー、ヤクバターでのばしてこねながら食べます。作中の食事シーンにも出てくるのですが、器に入ったツァンパを自分の手でこねては食べ、こねては食べを繰り返します。細く切る、茹でる、味付けをする、などの行程を踏まない、麺料理の原形のようなこのツァンパは、まさに今作の演技の魅力そのものです!

 飾らず、作らず、自分に正直である、という状態を演じるのは、味付けに凝った麺料理であるほど難しくなってきます。調理の仕方が違うから、といってしまえばそれまでですが、彼らの生活の真実を掴んだ演技には、絶対に麺の基本のようなものがあるはずだと思うわけです。

 例えば、台詞の途中で咳をしたかったらするし、あくびが出たら隠さず、くしゃみも出ます。自分の生理と演じるキャラクターに全く垣根がないのです。

 例えば、雨により地面が川のようになっているところを五体投地で渡る時、迂回して濡れるのを避けるというズルをせず、ずぶ濡れになってもいいからそこに頭を突っ込んでいくことで、たとえそれが演技でも、自分たちがそうやって進んでいきたいという嘘のなさが、演技なのに真実であるという表現に繋がっていくように思えます。

 例えば、旅の途中、車の事故に巻き込まれ、テントや物資を積んでいるトラックがダメになってしまいます。これは脚本、つまりフィクションなわけです。男たちで積荷だけを押し、しばらく進んだ後、五体投地で進んできた女性たちを待たせ男たちは引き返し、積荷を押し始めたところからまた五体投地をやり直すのですが、その時の皆の誇らしそうな顔が忘れられません。五体投地で大切な、ズルをしないという行為自体の感動もあるのですが、事故というアクシデントはフィクションでも、またやり直そうという、彼らの精神の美しさに嘘はないわけです。

 つまり、演技でありながら演技ではなく、自分たちが正しく生きることへの誇らしさを表現できることの喜びがあるから、フィクションを飛び越え、演技することへの意義を感じ、心底感動してしまうわけですよ!演技経験のないチベットの村人からこんな素晴らしい表情を引き出すのに、どれほどのコミュニケーションと時間がかかったか、今作のチャン・ヤン監督は本当に凄いと思いましたよ!

 というわけで!まるで演技をするのに一番大切な原形の精神を見せてもらった気持ちになれた今作!上映館は少ないけれどみんな観ればいいじゃない!

 星は断トツの☆☆☆!オススメです!

 また次回!



■【 07 】ラッパー・上鈴木伯周の「すべての映画はヒップ・ホップである」



 いまやポップミュージックの代名詞的存在となっているヒップ・ホップ。そんなヒップ・ホップを愛してやまないひとりのラッパーがこう言った。「すべての映画は、ヒップ・ホップなんですよ」。ならば語っていただこう!



 【Vol.134】  『ケンとカズ』とIllmatic



 どうもこんにちわ。ラッパー・上鈴木伯周、37歳です。

 8/20(土)に、Podcast収録100回(「リアルウォッチメン」から数えれば150回)を記念した公開収録イベントがありました。急遽の開催にも関わらずご参加頂いたリスナーの方々、ありがとうございます!そしてそして、いつもメルマガやPodcast(ガチ話も含め)を楽しんてくれている皆様、改めまして、心からお礼を申し上げます!!Podcastを毎週欠かさず約3年も続けられたのは、お便りやtwitterなどでリアクションがあったおかげで、「ラジオの向こうに誰かが待ってる!」という、少々勝手ながらの使命感を持てたからかな、と思います。人生においても、これだけ長続きした定期的な取り組みって、ない気がします。次は200回! 300回! 目指して頑張りますので、引き続き宜しくお願い致しますーー!

 ということで今週取り扱うのは『ケンとカズ』。「スタッフ・キャスト、全員新人!」。正真正銘の(って言い方もおかしいけど)無名の監督、俳優、スタッフによって作られた本作。これが、なんというか、もう最高でした!デビュー作にしかない強烈な「熱」をありありと感じました。

 果たしてどうヒップ・ホップだったのでしょうか?まずはあらすじをラップで説明していきましょう!

▼▼▼▼▼

千葉県市川 寂れた 自動車修理工場

働く若手 裏で売るシャブon the道路

金と犯罪 勝ち負け 止まらない衝動

計画はもつれ 人生いつの間にか暴走

リスクや冒険から逃げ 今日も喧嘩せず

じゃつまらないから 観な『ケンとカズ』

▲▲▲▲▲

 はい、『ケンとカズ』をヒップ・ホップ的に言うならば……!「Illmatic」ということになりますね。

 Illmatic (Full Album)

https://youtu.be/-aB6bfucM04

 (今週はこれを聞きながら原稿を呼んで下さい)

 ではどういうことか、説明していきましょうー!

 

■Nasのデビュー作「Illmatic」

 何度か取り上げているNas(ナズ)。1994年、当時20歳の彼が発表した1stアルバム「Illmatic」は、デビュー作にして「ヒップ・ホップ史上最高傑作!」と呼ばれます。「最高のリリシスト(詩人)」と呼ばれるリリックの才能。そして周りを固めた名だたるプロデューサー陣。(ピート・ロック、DJ・プレミア、Qティップなどなど!)

 ということで、フレッシュな才能と最高のチームワークが合わさることで、いきなり「クラシック(名作)」が生まれたわけですね。

 ということで、今週は長くなりそうなので、シンプルに「デビュー作が傑作!」というキーワードで、『ケンとカズ』を語っていきましょう。



 ■持続する興奮 好きです!

 まず冒頭から素晴らしい。ケンと、カズと、その弟分のテル。登場人物(男)3人の顔が並ぶシーン。このファーストカットを観た瞬間に「おぉ!」と興奮し、その興奮は、結局映画が終わるまでの96分間、持続しました。

 まずこの映画の凄いところはこの「興奮の持続」です。映画館で、最初から最後まで、時に熱く「うぉ!」、時に静かに「・・・!!」と、とにかくずっとある種の興奮状態にありまして、つまり、この作品は自分にとって「感覚的に最高!」だったのでした。

 鑑賞から一夜たち、この「感覚的」をちょっと分析してみます。なぜ僕の興奮状態は「持続」したのか。まずは役者の「顔」。出てくる全人物の「全顔」が全素晴らしい。だから、ずーっとスクリーンを観てるだけで、ただ飽きない。いや、飽きないどころか、熱くなってくる素晴らしさ。千葉県市川で修理工をしながらシャブ売って小遣い稼いじゃう若いチンピラ、というリアリティがビンビンに伝わってくるメインの2人の俳優。特にカズ役の毎熊克也(まいぐまかつや)。あなたの大ファンになりました。まず目、とにかく、目!不気味に片方だけ上下させる口角、コケた頬、風体、しゃべり方、ファッション、猫背と首の角度。2010年代の、ジャパニーズチンピラ役ベスト! と言い切れます。個人的には大傑作『息もできない』のヤン・イクチュン超えです。ケン役のカトウシンスケもいい。時折アル・パチーノにも見える!怖い先輩役の高野春樹も素晴らしい。たまに見る「ヘラヘラ→オラァ!」という狂気系ヤクザだけど、まったく類型的になっていない。マジでずっと怖い。などなど、役者陣の話は長くなるのでこの辺にしますが、スクリーン内の彼らがずっとキラキラ、メラメラと輝き続けるのは、「無名性」によるところもあると思います。

 もちろん演技は素晴らしい。と同時に、彼らが「無名」だから、僕らは相対的でなく絶対的に彼らの存在を受け付ける。役者の強度がリミッターなしの大音量でバコーン! と襲い掛かってくる。映画『恋人たち』のように。主演のケンとカズ役の2人は、撮影前に約三週間のリハーサルを経たそうですが、その準備が、画面の中の2人の存在を研ぎ澄ませている。説明的な表現を極力廃している映画ながらも、この2人の関係性だけは、感覚で理解できる。そう思わせる。そんな素晴らしい「顔」たちを引き立てるためか、この映画の撮影はとにかく「顔」に寄る。クロースアップの連続。レンズが付きそうなほど近寄って「顔」の皺と汚れを映す。望遠レンズで、寄る。彼ら以外のものを映さない。手ブレもするし文字通り荒々しいカメラですが、なんだかカメラマンの「顔」も想像しちゃうほど、熱のある、意思のある、素晴らしいワークでした。



 ■リアル3D体験!@ユーロスペース

 というように、ずっと興奮して最高の映画体験だったんですが、上映後に小路監督とケン役のカトウシンスケさんがフラっとステージに現れてきました。いわゆる「リアル3D」スタイル!本作をどうにか広めるために、ほぼ毎日劇場に詰め、舞台挨拶をし、お客さんとコミュニケーションしているそうです。これは『SR サイタマノラッパー』(以後『SR1』)が上映された時と同じだ!2009年に僕もユーロスペースで同じことしていた!と思ったわけですが、スタッフが「無名」なことだったり、郊外、地方が舞台だったり、と、映画的共通点もある気がします。

 ただ、シナリオというか、ドラマの進め方は全く真逆かな、と思いまして。SRはデフォルメ、『ケンとカズ』はリアリティ、というか。『SR1』では、若者たちをヒップ・ホップでデフォルメし、地方の閉塞感をあぶり出してたりする、と思いますが、『ケンとカズ』で真逆で、デフォルメをしない。千葉県市川に居そうな若者達が、どっかで聞いたような悪事に手を染め、テレビで見たような事件を起こしていく。話の筋だけ追うと、ちょっと陳腐。イケメン俳優とお色気を入れて、アタックの強い音楽を流せば小気味に良いクライムアクション映画になりそう。だけれど『ケンとカズ』はこのネタたちをデフォルメ(≒エンターテインメント)せずに、ただ執拗に、そこにいる人物が(『顔』が)どう変化し、どう決断し、どこに向かっていくのかを、しつこく、淡々と、切り取る作業に徹し、結果、「なんだかずっと面白い!」と、感覚的に言わせちゃう強度を帯びることになってるんだな、と思いました。

 趣味とか、見た目とか、お金とか、好みとか、本当はいろいろあるけど、でも最終的に「好き!」には理由がない、というか。『ケンとカズ』はそれくらいの「モテ映画」ということになりますね!!奥手の僕だって「好き!」って言いたくなるんだよ!



 ■まとめ

 「しがらみと選択」とか「過去と未来」とか、実は(と言ったら失礼だけど)計算された多くのテーマが入っている作品ですが、その旨味を敢えて器の奥の方に隠したまま、表面の具材だけでずっと楽しませてくれる、そんなプリンの様な作品でした。(全然例えがうまくないですね。)

 最後に音楽。環境音に沿い、抑えられた重い表現の劇伴は素晴らしかった。ここがハードだったりポップだったりすると、前出したように、途端に「っぽい」映画になってしまうと思います。そこを慎重に回避した音楽の方向性、最高です!が、ちょっと「業者感」というか、「お仕事感」が匂う、というか。役者の「顔」と撮影、演出の「(見えない)顔」がスクリーン上に直接的にビンビンな熱を残しているだけに、「劇伴」として一歩引きながらも、作家の「顔」が見たくなるほどの主張、共闘感、が欲しくなったのは、もー言いがかりレベルの注文です。すみません。

 とにかく、突然現れた大傑作だと思います。「犯罪と若者」というネタはクラシック、でありながら、映画の手触りはフレッシュ!このチームでしか生み出せない「熱」を確かに感じました!

 ということで『ケンとカズ』は☆☆☆!

 『SR サイタマノラッパー』がそうであったように、この「処女作」の熱量を現場(映画館)で体験したかどうかは、以降の映画人生のちょっとした自慢話になるかもしれません。小路監督、キャスト、スタッフの今後の活躍を心から期待して、伸びろグンググーーン!!! という感じ。Nasが、いきなり敏腕トラックメーカーにプロデュースされたのと比べると、「全員無名」の小路監督の凄いかも、っすね!

 ではまた来週! ピースアウチョォ!!

 PS

 トラックができ次第アップ予定ーーー

 ▼『コーチ・カーター』download ※まだDLできません。

 http://norainu-film.heteml.jp/mote/moteRAP05.mp3

 ▼『メン・イン・ブラックによろしく』download ※まだDLできません。

 http://norainu-film.heteml.jp/mote/moteRAP04.mp3



■【 08 】メルマガ読者限定・僕モテPodcastガチ話!



 毎週配信の本メルマガのPodcast。収録終了後のガチ本音話をメルマガ読者だけにお聞かせします!不特定多数にはちょっと聞かせられないナイショの話!



 ・Podcast100回記念!ガチ話公開収録!入江悠監督も急遽登場!

 ・『秘密 THE TOP SECRET』のガチ話。『シン・ゴジラ』の話。

 ・ざっと、これまでのPodcastを振り返ってみたり。

 ・僕らのベスト「脳内映画」ベスト。などなど。

http://norainu-film.heteml.jp/mote/motepod_20160820ga.mp3



■【 09 】 名作再見!『僕らのベスト』メルマガ出張版



 僕モテPodcastガチ話の人気コーナー、各ジャンルのベスト映画を執筆陣が語る『僕らのベスト』。メルマガ出張版!



 <今週のテーマ>  「成敗映画」ベスト



 【入江悠】

 『十三人の刺客』(1963年、工藤栄一監督)

 三池崇史版の元となった東映京都作品の金字塔時代劇。これほどドライな活劇、これほどコントラストの強い画面を観たことがない。10代でわからず、20代でかすかに匂い、30代で肌がひりついた。この時代劇の真意を僕は死ぬまで追い求めるだろう。

 【佐藤圭一朗】

 『ジャッジ・ドレッド』(2012年、ピート・トラヴィス監督)

 警官と裁判官と死刑執行人の全権を有する究極の正義【ジャッジ】。そんな存在を納得させる無法地帯と化した近未来。成敗の為の設定の下、ダニー・ボイル、ラース・フォン・トリアーの【眼】である撮影監督アンソニー・ドット・マントルの映像の筆が躍っている。

 【林賢一】

 『上意討ち 拝領妻始末』(1967年、小林正樹監督)

 脚本は橋本忍。撮影は『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』の山田一夫。音楽は武満徹。主演、三船敏郎が主君の側室をイヤイヤ妻にするのだが、次第に仲むつまじくなり、子宝に恵まれる。だが、そのタイミングで「妻を返上せよ」との命令が主君から下る。その後、成敗の嵐となる!!

 【駒木根隆介】

 『イコライザー』(2014年、アントワーン・フークア監督。)

 しっかり溜めてからのアクションシーンの始まりと、とにかく徹底的に規模を拡大して成敗してゆくラストの畳み掛けは、笑っちゃうくらい爽快。

 【上鈴木伯周】

 『イコライザー』(2014年、アントワーン・フークア監督)

 デンゼル・ワシントンの穏やかさと無慈悲さのギャップが素晴らしい。「28秒-9秒=19秒」で5人を成敗! のシーンがとにかくいいし、クライマックスもいい。男は黙ってアントワーン・フークア!を観ろ!

 【情報担当ふじっこ】

 『イングロリアス・バスターズ』(2009年、クエンティン・タランティーノ監督)

 米軍の特殊部隊バスターズ(+美女) VS ナチス。『キル・ビル』『ジャンゴ 繋がれざる者』と成敗系が多いタランティーノ作品のなかでも復讐の舞台が一番身近な場所のため痛快さ倍増。

 【編集長】

 『ロッキー4/炎の友情』(1985年、シルヴェスター・スタローン監督)

 親友・アポロの命を奪ったドラゴを成敗するためソ連に乗り込むロッキー。勝ち目はゼロ。それでもロッキーは戦う。そして冷酷な成敗対象・ドラゴもその拳の熱量にやがて……。成敗とはこらしめること、裁くこと。こらしめる時、裁く時、男が用いるのはやっぱり拳。



■【 10 】「デートのための映画データベース」(情報コーナー)



 えっ、あの映画ってもう終わっちゃうの?おっ、あの映画、もうすぐ始まるんだ!観たい映画を見逃さないための、デートに使える映画情報コーナーです。



【 後の祭りにもうしない、もうすぐおわる映画 】



『ソング・オブ・ラホール』

 シャーミーン・オベイド=チノイ、アンディ・ショーケン監督(パキスタン=アメリカ)

 <上映期間・劇場> 上映中~終了日未定・ユーロスペース、角川シネマ有楽町

 パキスタン音楽×ニューヨーク・ジャズ?!興奮と希望に満ちた奇跡のドキュメンタリー!パキスタンの都市ラホール。過激なイスラーム原理主義の影響で音楽文化は衰退し、やむなく転職した伝統音楽家たち。再起をかけてジャズ名曲をカバー、まさかの展開に!

http://senlis.co.jp/song-of-lahore/



【 誰より先に観ておきたい、週末はじまる映画 】



 【1】

 『神様の思し召し』エドアルド・ファルコーネ監督(イタリア)

 <公開日・劇場> 8月27日(土)・シネマカリテほか全国順次公開

 東京国際映画祭で観客賞受賞!イタリアでロングランヒットを記録した陽気な感動作!傲慢な天才外科医が、医学生の跡取り息子から神父になりたいと言われ仰天。洗脳を疑い教会を調べて型破りな神父と出会う。真逆の立場で人を救ってきた二人は対立するが…。

http://gaga.ne.jp/oboshimeshi/

 【2】

 『君の名は。』新海誠監督(日本)

 <公開日・劇場> 8月27日(土)・TOHOシネマズ新宿、渋谷HUMAXシネマほか全国公開

 国際的にも評価の高い新海監督のもとに日本最高峰スタッフが集結。『言の葉の庭』以来3年ぶりのオリジナル長編アニメ!田舎町で暮らす女子高生と東京で暮らす男子高生が、夢の中で心と身体が入れ替わる不思議な体験と成長を、美しい風景と繊細な言葉で描く。

 ※ 立川シネマシティでは極上音響上映。目黒シネマでは来月10日から監督作2本立て。

http://www.kiminona.com/index.html



【 今週の名画座PICK UP! 】



 「一周忌追悼企画 伝説の女優・原節子」

 <上映期間・劇場> 8月27日(土)~9月30日(金)・ 神保町シアター

 9月5日に一周忌を迎える原節子。多くのタッグを組んだ小津安二郎監督作品をはじめ、15歳の着物姿を拝める山中貞雄監督『河内山宗俊』、コメディエンヌの才能を開花させた木下惠介監督『お嬢さん乾杯』や、成瀬巳喜男監督『娘・妻・母』など21本一挙上映!

http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/program/hara.html



【試写会・イベントPICK UP!】



 映画館で観るだけが映画じゃない!いつもと違う環境で楽しめる試写会や上映会情報。自力で当てて、あの子を誘おう!

 【試写会】

 『ふたがしら2』原作漫画プレゼント&ポストカード付イッキ見試写会 各回30名ずつ計60名当選

 <上映日時・場所> 9月10日(土)、11日(日)各日11時開映・WOWOW試写室(赤坂)

 <応募締切・詳細> 9月1日(木) coco http://coco.to/present/83045

 入江悠×松山ケンイチ×早乙女太一!新感覚盗賊活劇WOWOWドラマ『ふたがしら』続編!“脅さず殺さず、汚え金を根こそぎいただく”明るく豪快な弁蔵と、頭脳明晰でクールな宗次。盗賊一味「壱師」のかしらとなった2人の江戸の頂点を目指す、仁義なき戦いが幕を開ける!

 『ふたがしら2』第1話&前作『ふたがしら』全5話の計6話所要時間はたっぷり7時間!

 ※ 鑑賞後にTwitterにレビュー投稿が必要

 http://www.wowow.co.jp/dramaw/futagashira2/index1.html?utm_expid=62681203-32.ezCjr5-bTo6JJXTN1RilWw.1&utm_referrer=http%3A%2F%2Fcoco.to%2Fpresent%2F83045



 【特集上映】

 「WEEKEND CINEMA Vol.9 ~歴史を生きた女たち~」

 <上映期間・劇場> 8月27日(土)、28日(日)・アンスティチュ・フランセ東京

 トリュフォー、リヴェットらが絶賛した巨匠マックス・オフュルスの遺作『歴史は女で作られる』と、フランスを代表するスター俳優たちが共演したクロード・ミレール監督の『ある秘密』。恋と歴史の波に翻弄された女たちの数奇な運命。絢爛豪華な名作フランス映画をスクリーンで!

 ※ 鑑賞料金は一律800円。土曜16:30の回は小説家・金井美恵子トーク付き上映あり。

http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema1608082728/



【主婦のひと刺し。】※情報担当ふじっこ(美人妻)のつぶやきコーナーです。



土曜日はテアトル新宿で函館三部作オールナイト(『オーバー・フェンス』先行上映含む)豪華トーク付。



■【 11 】 メルマガ編集担当の書評コーナー「これは映画になりますか?」



 編集担当が、映画にまつわる注目書籍を毎週一冊ピックアップ!



【今週の一冊】  出ました原作本オブザイヤー候補『後妻業』



 資産家の高齢者が死ぬ。葬式の場で内縁の妻が、「遺産はすべて私が相続します」と、法的に絶大な効力を持つ公正証書片手に宣言。女は高齢者の寂しさに付け入って遺産目当てに結婚を繰り返す「後妻業の女」だった!……という話が、著者の周りで実際に起こったらしい。そこから着想を得、「後妻業」の女と、女を操る結婚相談所社長の暗躍、そして彼らを追い詰める探偵の姿を描いたのが、8月27日に公開される映画『後妻業の女』の原作本であり、著者・黒川博行の直木賞受賞第一作である今週の一冊『後妻業』だ。

 この連載をやっていてよかった、と思うことが年に何回かあるが、今回がまさにそうだ。本作は今年読んだ本の暫定ベスト級に面白かった。なにがどう面白かったのか、本の展開と絡めてまとめていこう。

 <序盤:後妻業というテーマがノワールとして面白い>

 本作はまず「マイナー職業もの」として面白い。罪悪感を知らない後妻業のエース・小夜子と、小夜子に資産家男性を紹介する結婚相談所社長・柏木。序盤はこの二人の胸糞悪い活躍が、悪党ふたりの凸凹バディもの、チームものとして生き生きと描かれる。事前に遺産を相続する旨の公正証書を取った上で、脳梗塞で倒れた91歳の夫を明け方まで放置、入院後は点滴の管を抜くなどして(放っておいてもじきに死ぬとしても)実質的に殺害し、正当な相続人である娘を出し抜いて資産を現金化していく。胸糞が悪い。だがそれがいい。という場合が読書の世界にはままあるが、本作序盤はまさしくそれだ。後妻業、おそるべし。

 <中盤:たしかな取材に基づく『探偵もの』として面白い>

 弁護士から依頼され、後妻業の証拠を取るために調査を開始した「探偵」であり元大阪府警のマル暴担当の本多。彼が中盤に登場してから、物語は一気にスピードを増す。小夜子と柏木の深すぎる闇に気づいた本多は、ある目的を胸に自腹で調査を進めていく。本多が調査に使うのは「足」と、公的な書類・記録だ。

 死亡届記載事項証明書

 死亡診断書

 不動産権利証書

 不動産登記簿謄本

 商業登記簿謄本

 戸籍謄本

 除籍謄本

 除籍全部事項証明書

 さらには、

 レンタカー利用記録

 Nシステム

 大阪府警の犯罪データ

 などなど。

 なんとなく、基本的には問題なく人生を過ごしている限り利用しないであろう各所種類にデータ。これらを時に士業請求し、時に警察のコネを使って手に入れ、小夜子と柏木の悪行の証拠を探し出していく。その探偵作法は極めてリアルで、警察や探偵、法律関係に至るまで、徹底的な取材とリサーチをされていたことが類推される。そしてそれが本作の面白さの太い背骨となっている。

 <終盤:一挙にサスペンス化。結末のつけ方がこれまた面白い>

 パズルのピースをひたすらハメ続けていくような中盤捜査パートを過ぎ、探偵・本多のある行動をきっかけに本作はサスペンス度が急上昇し、結末がどうなるのか、突然まったくわからなくなる。『なにわ金融道』だと思って読んでいたら実は『闇金ウシジマくん』だったというか、実録物、お仕事もの的トーンから一転、物語のトーンがハードボイルドサスペンス化し、川の水が急激に流れを速めて滝壺へとなだれ込むように、物語は結末へと向かう。小説には小説の数だけ当然ながら結末があるわけだが、本作の登場人物たちへのオトシマエの付け方は見事の一言。

 <さらに:悪党なんだけどなぜか憎めない。関西弁キャラの魅力が凄まじい>

 小夜子にしろ柏木にしろ、彼らの周りにいる小悪党やら水商売の女たちにしろ、実生活では絶対に会いたくないヤカラたちとして描かれる。しかし、なぜか彼らは一様に、みんなどこかしら魅力的だ。小夜子にもピュアな部分は過去にあったし、柏木にも悪党に身をやつすに足る理由がある。そんな悲しみを抱えつつ、彼らはセックスを楽しみ、美食を堪能し、ブランド品を買い求める。つまりは「生」を謳歌する。品がないとしても。彼らは悪党だが、100%のブラックではなく、どこかにグレーな部分を残している。良心、では断じてなく、それはたとえばほんのわずかな脇の甘さとして発露する。そこが人間くさい。そしてその人間くささがどうにも憎めない。100%の悪として描くほうが、作家としては当然ラクだ。そうしないところが作家の力量であり、それは大成功している。一瞬だけ登場する医者、本多の友人の警察官、小夜子の弟の元ヤクザ、弁護士など、登場するシーンの多寡に関わらず、脇役的な人物たちも同じで、彼らが物語の中で生きている感覚を出す、ほんの一言の書きっぷりは見事の一言だ。ちなみに私が購入した文庫は、映画化に際してカバーがかけかえられてあり、

 小夜子・大竹しのぶ

 柏木・豊川悦司

の写真がドドンと載せられている。なので当然この二人のビジュアルを脳内再生させつつ読み進めたわけだが、読了した今、もうこの二人以外に小夜子と柏木は考えられないくらいのハマりっぷりだと私は思う。邦画豊作の2016年、この抜群に面白い原作を持つ『後妻業の女』は、台風の目となれるだろうか。

 <今週読んだ本:『後妻業』黒川博行(文春文庫)>



■【 12 】 編集部より



 Pick up!



映画『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』twitter

https://twitter.com/22kokuhaku

映画『太陽』twitter

https://twitter.com/eigataiyo

映画『太陽』劇場情報 ※名画座での上映もちらほら

http://www.kadokawa-pictures.jp/official/taiyou/theater.shtml



 編集後記



 20日に開催した僕モテPodcastの100回記念公開収録を行いました。読者さん約20名に、伯周、駒木根、私編集大川、そしてサプライズで急遽参加した入江と、僕モテイベント史上もっともこじんまりとしたイベントとなりましたが、その分だけ参加者のみなさんとゆっくり話すことができ、我々執筆陣にとってもすごく楽しく、有意義な時間となりました。会場にお越しいただいた皆様、改めてありがとうございました。来られなかった皆様も、ぜひ今号掲載の「ガチ話」をお楽しみいただければと思います(あまりに大量のメールをいただいた関係で、一部読み漏れがありました。すみません!)。

 内輪の話になりますが、Podcast100回はひとえに上鈴木伯周の「意地」によります。そして、どうしようもない仕事の都合以外は毎回参加する駒木根の存在も欠かせません。ありがとね。身内だけど。今回のような公開収録イベント、また企画できたらと思います。その際には、ぜひ遊びに来てくださいね!



 それではみなさん、また来週!

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