ディズニー映画「レミーのおいしいレストラン」に初老の料理評論家アントン・イーゴが登場し、新聞に次のようなレストラン評を書く。
「評論家というのは気楽な稼業だ。危険を冒すこともなく、料理人の努力の結晶に審判を下すだけでいい。辛口な評論は書くのも読むのも楽しいし、商売になる。だが、評論家には苦々しい真実がつきまとう。たとえ評論家にこき下ろされ三流品と呼ばれたとしても、料理自体のほうが評論より意味があるのだ」
イーゴの真意を伝えるために、映画「レミーのおいしいレストラン」のあらすじをたどりながら、話を進めていくことにしよう。
アニメの主人公はねずみのレミーで、嗅覚抜群の持ち主。香りを嗅ぎさえすれば、たちどころに、材料と調味料を探り当ててしまう。このレミーが見習いの料理人で出来損ないのリングイニのコック帽の中に忍び込んで料理の手伝いをしながら大活躍をする。
そのレストランの名が「オーグスト・グストー」。グストーは「誰にでも料理は出来る」をモットーに掲げた名シェフで、彼が厨房を取り仕切っていたときは、5ヶ月先まで予約がいっぱいの5つ星レストランだった。それが、彼が亡くなった後、店は閑古鳥の状態。怒鳴り散らすだけの能無しシェフが店の評判を落としてしまったのだった。
たまたま、スープの鍋をひっくり返してしまったリングイニをレミーが助けて、スープを作り直すと、これが客の評判を取ってしまった。すると、能無しシェフは大慌て、リングイニからスープの秘訣を探り出そうとする。
店じまいしたあと、ワインをご馳走しながら聞き出すのだが、このときリングイニに振舞うワインがシャトー・ラトゥールの61年物で、近年になって飲み頃に到達したボルドーの大当たり年である。少々乱暴な注ぎ方をしていたが、その意気込みのほどが分かろうというもの。