むははは物語VOL.2 摩天楼ウロチョロ日記 椎名誠

☆エンパイアステートビルだよおとっつぁん

以前は息子ファミリーがサンフランシスコにだいぶ長く住み、孫が生まれた。娘はやはり長いことニューヨークに住んでいたが仕事に夢中で独身。ぼくとツマは、つまり、じいちゃんとばあちゃんはサンフランシスコまではよく行った。孫の引力は強いのだ。日本から近いし。

そういうときは娘がサンフランシスコにやってきて合流する、というパターンが多かった。ニューヨークとサンフランシスコ間はジェット機で四時間半もかかるのだ。アメリカは無意味に広い。

そのうち息子ファミリーが十七年ぶりに帰国し、日本に生活の本拠を移した。

ニューヨークまでは遠いからなかなか行かなくなってしまったけれど、やがてアメリカ国籍をとった娘が司法試験に合格し、この夏、(2016年)ニューヨーク州とニュージャージー州の新米弁護士になった。

その宣誓式がニューヨークの控訴裁判所で行なわれることになり、招待状が届いた。

夏の終わり頃であり、一週間は時間がとれるのでツマとともに宣誓式がどんなものか見届け、お祝いの乾杯に行くことにした。 ぼくはリーガルサスペンス(法廷ドラマ)が好きなのでアメリカの法廷の実物を見ることができるチャンスに喜んだ。

空港に娘が迎えにきていた。予約してあるホテルに案内してくれる。マンハッタンの真ん中にあるらしい。

考えてみるとマンハッタンにくるのは10年ぶりである。意外に来ていなかったのだ。

とんでもなく高いビルに囲まれていて、上を向くと、ビルとビルの間にある青い空と白い雲が鋭角的にくぎられていて面白い。歌の文句じゃないけれどどこまでも上をむいて歩いていきたい。でもそれじゃあヒトやクルマにぶつかるんだ。







横断歩道には信号があるがせっかちなニューヨーカーは左右を見てクルマがこないとわかるとみんなさっさと渡ってしまう。なにかモンクをつけるヤボな警官はいない。銀座四丁目みたいなところでもだ。

真夜中、クルマがとだえているのに赤信号になるとちゃんと立ち止まって待っている日本人は生真面目すぎるのかややアホなのか。

ある通りにくると午後の斜光ををあびてエンパイアステートビルの上の部分が金色に輝いているのが見えた。

「おお。あれはエンパイアステートビルではないではないではありませんか」

予想しなかったいきなりの美しさにコトバみだれ「これがニューヨークだよなおとっつあん」状態になってしまう。



これまでわが人生、ずいぶん世界のいろんな国を旅してきたけれど…

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