あなたが「Airbnb日本法人社長」ならばどうするか?

今回のリアルタイムケース

Question:

あなたがAirbnb日本法人社長ならば東京オリンピックを控えるなかで

どのように既存の法規制に対処して成長戦略を描くか?



今回のケースは、2014年5月に設立されたAirbnb日本法人についてです。

# 現在、Airbnbに突きつけられている課題とは何でしょうか?

# 既存の法規制を回避し、日本にサービスを根付かせるために取れる戦略とは何でしょうか?



# 企業情報

以下からはBBT大学学長・大前研一による「課題と戦略」案が続きます。経営に正解はありません。読み進める前に、あなたが経営者であったならどうするか、一度考えてみてください。





BBT-Analyze:大前研一はこう考える〜もしも私がAirbnb日本法人社長だったら〜

※本解説は2015/10/11 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。



●大前の考える今回のケースにおける課題とは



  2008年創業のAirbnb(エアビーアンドビー)は、個人が所有する住宅や空き部屋と旅行者をマッチングさせる民泊仲介サービスを展開。物件の登録件数は190カ国、200万件を超え、世界中に利用者が広がっている。2014年には日本法人も立ち上がり、国内の登録件数も急速に拡大。しかしながら、同社のビジネスモデルは既存の法規制に抵触する可能性があり、国の法整備は間に合っていないのが現状だ。今後は、自治体やホテル・旅館事業者といった関係者をいかに巻き込み、サービスの浸透を図るかが課題となっている。



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◆旅行業界に衝撃を与えた新サービス

#世界190カ国で展開、巨大市場に成長

 Airbnbは個人所有の住宅や空き部屋を宿泊用途で利用する民泊仲介・予約サイトを運営する会社です(図-1)。2008年にサンフランシスコで設立され、2014年5月には日本法人も立ち上がりました。現在、物件の登録件数は190カ国、34万都市で約200万件、日本国内の登録件数は約1万6,000件とここ数年で飛躍的に伸びています。

 サービスの利用方法はシンプルで、空き家や空き部屋を貸したいホスト(個人や代行業者)は物件をAirbnbに登録、宿泊料金は自由に設定できます。ゲスト(旅行者など)は宿泊したい物件をサイト上で予約し、Airbnbを通じて宿泊料金を支払うため、両者の間で金銭のやりとりは発生しません(図-2)。Airbnbはホスト側から決済代行手数料として宿泊料金の3%、ゲスト側から斡旋料として宿泊料金の6〜12%を徴収、計9〜15%の仲介手数料が収入になります。



#企業価値3.1兆円、大手ホテルグループを上回る

 創業から3年ほどは売上がほとんどなく苦戦していたAirbnbですが、2013年には売上が約300億円、2014年は約500億円、そして2015年には1,000億円を超える見込みで、現在急成長を続けています(図-3)。



 [図-4/非上場ベンチャーの企業価値ランキング]を見ると、Airbnbは3.1兆円で3位にランクインしています。トップは、スマートフォンアプリを用いたタクシー配車サービスUBER (6.1兆円)、2位には中国の格安スマートフォンXiaomi (5.5兆円)がつけています。



 Airbnbの企業価値の大きさは、[図-5/主要ホテルグループの時価総額]からも見てとれます。ヒルトン、マリオット、スターウッドといった世界の大手ホテルグループの時価総額はいずれもAirbnbの企業価値を下回っており、同社は創業からわずか7年で歴史あるホテルグループの時価総額を追い越したということになります。





◆アイドルエコノミー急拡大の裏に潜む問題とは

#世界が注目するUBER、各国でトラブルが多発

 モノが売れない時代に、空いている資産や時間を活用し、お金に換える経営戦略として「アイドルエコノミー(シェアリングエコノミー)」が急拡大していますが、多くの事例において法的整備が追いついていないのが現状です。

 ここで、スマートフォンアプリでタクシー配車サービスを行うUBERを例に、アイドルエコノミーの問題点について考えてみましょう(図-6)。UBER自身は一般のタクシー会社と異なり、客を乗せて運賃を得るためのライセンスを持っていません。また、営業ライセンスを持たないドライバーとも契約を交わしているため、個人の自家用車やレンタカーを用いてドライバーとして参入してくる人が後を絶たず、道路運送法上問題となっています。

 また、サービス品質の管理責任、ドライバーの管理責任、車両の調達・管理責任、実車中に起きた事故の賠償責任、タクシーを走らせながら乗客を探す、いわゆる流し中に起きた事故の賠償責任など、これらすべてにおいて責任の所在がはっきりしていません。

 このように、法的根拠や安全管理責任が曖昧なまま営業を続けた結果、提訴や営業停止処分を受けるなど、各国でさまざまな問題に直面しています。



#Airbnbは法律をクリアしているのか

 先ほどのUBERの事例と同様に、Airbnbなどの民泊についても明確な法整備が進んでおらず、同様の問題を抱えています(図-7)。

 国内では旅館業法において、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業のことを旅館業と定義しています。旅館業を営むのであれば、自治体から営業許可を受ける必要があり、そのためには部屋の広さや宿泊者名簿の管理、消防や衛生面など、宿泊施設としての要件を満たさなければなりません。自宅を開放して継続的に宿泊サービスを提供する場合も、この旅館業法に抵触しますが、個人物件での宿泊サービスでは旅館業法の定める各種の基準をクリアすることが極めて困難なのです。

 また、騒音などの近隣住民とのトラブル、衛生管理上のトラブル、防犯上のトラブル、寝タバコなど防災上のトラブルなど、各種トラブルに対する管理責任の所在が不明な点も問題視されており、UBER同様、法的根拠、管理責任の曖昧さが課題として残されています。



#米国に学ぶ合法化への道筋

 米国では一部の都市で、Airbnbのような民泊を宿泊税の課税や日数制限付きで合法化する動きがあります(図-8)。

 例えば、ペンシルバニア州フィラデルフィアでは短期レンタルを合法化し、宿泊施設と同様に8.5%を課税、ただし連続貸出は30日以内という制限を設けています。オレゴン州ポートランドでは、宿泊税の課税のほか、貸出前に許可申請料180ドルの支払い、物件検査や近隣への通知を義務化しています。また、カリフォルニア州サンフランシスコでは宿泊税14%を課税、カリフォルニア州サンタモニカでは、ホストの常駐を義務化し、ライセンス登録、宿泊税14%の課税を行い、フロリダ州マイアミでは、マイアミビーチ周辺の特定エリアにおいては営業を禁止しています。このように米国では、自治体と業界が課税によって折り合いをつけ、管理責任については合法化に踏み切った自治体側との協議により、一つ一つ明確化していくという方向で規制緩和が進んでいます。



◆Airbnb、日本市場開拓の糸口とは

#国内でも民泊緩和の兆し

 一方、日本では特定の地域に限って規制改革をする国家戦略特区法により、特定区域で旅館業法の適用を除外する動きがあります(図-9)。規制緩和条件には、対象は外国人利用者、7〜10日の範囲で使用すること、部屋の床面積は原則25平方メートル以上、出入口や窓に鍵をかけられること、部屋と部屋、廊下との隔たりが壁造りであること、などが条件として挙げられています。さらに、適当な換気・採光・照明・防湿・排水・冷暖房があること、台所・浴室・便所・洗面設備があること、清潔な部屋を提供すること、外国語での案内や緊急時の情報提供を行うことなど、中央政府が上意下達で一律的な細かい条件を設けています。

 しかし、民泊を拡大するには米国の事例のように各自治体に裁量を持たせ、各地の事情に沿った形でアイデアを出し合いながら、それらを吸い上げる形で最低限の基本的なルールを中央が法制化していく方がよいと考えます。これは特区にする必要はなく、自治体ごとの裁量で取り組むべきです。



#年々増え続けている空き家の活用が今後の鍵に

 現在、国内では住宅ストックと世帯数の乖離が続き、空き家率が年々上昇しています。[図-10/国内の住宅ストックと世帯数及び空き家率]をご覧ください。1990年代より世帯数と住宅ストックに開きが生じ、2013年には約5,200万世帯に対して住宅ストックが6,000万戸と、空き家率が約14%にのぼり、空き家の活用は国家的な課題となっています。この先、特区に限らず全国各地で民泊が緩和されれば、空き家問題の解消に大きく貢献するでしょう。



#同業他社の反発にどう折り合いをつけるのか

 国内における法整備を進める上で最大の課題となるのが、ホテル・旅館事業者との対立緩和です(図-11)。自らのテリトリーが侵されることを懸念するホテル・旅館事業者は、業界をあげて規制緩和に反対しています。一方、空室の有効活用に繋げたい不動産業者や賃貸事業者は、規制緩和によるビジネスチャンスを狙っています。

 国や自治体は一連の法整備に対して、「規制当局として厳正に監督する」と建前を述べていますが、実際のところは「経済活性化の起爆剤にしたい」という狙いがあるのでしょう。



◆Airbnbを日本で普及させるための三つの課題

#伸び悩むホテル・旅館事業者に低価格でプラットフォームを提供

 以上のことから、Airbnbの今後を考える上で3つの方向性が考えられます(図-12)。

 一つ目は、現時点では対立関係にあるホテル・旅館事業者に対する戦略です。国内には宿泊客が少なく経営が上向きでないホテルや旅館が少なくありません。そういった業者に対してAirbnbでは、「楽天トラベル」や「じゃらん」などより低い手数料で宿泊予約のプラットフォームを提供します。一般的な手数料の相場25%に対してAirbnbは10%未満に抑えれば、登録を希望する事業者も増えるでしょうし、同社の最大の課題である業界との対立緩和も図れるでしょう。



#不動産業者・賃貸事業者の空き物件を開放する

 次に、不動産業者・賃貸事業者に対しては個人の物件を受託し、管理責任上のリスクを業者が担保することで、それらをAirbnbに開放するという提案が考えられます。管理物件を短期賃貸として積極活用すれば、国内で課題となっている空き家の活用にも繋がります。

 また、不動産業者・賃貸事業者にAirbnbのエージェントを依頼するというのも一つの手です。事前の許可申請や登録といった法整備に必要な手続きを物件の所有者が行い、Airbnbは売上の10%程度を徴収、エージェントとなる業者には手数料として3%程度を渡せば、互いに新たな収益を確保できます。



#国内外から観光客を誘致、町おこしで自治体対策を

 三つ目は、国内外から観光客を誘致し、町おこしとしてAirbnbを積極的に活用するという案です。観光客が増え地域活性化に繋がれば、自治体による規制緩和も期待できるでしょう。

 中国など外国資本を呼び込み、かつての新興住宅地を丸ごと売却し、宿泊地として転用するという方法も考えられます。郊外には、空き家になっている3世帯住宅が数多く残っています。玄関が別で、キッチンもそれぞれ備わっている日本独特の家屋は、観光客が家族で長期滞在するにはうってつけの物件なのです。例えば、多摩丘陵地帯のように駅前にレストランやスーパーなどがそろっていて、東京都心や関東近郊にもアクセスしやすいなど、条件のよい物件をそろえれば、新たなビジネスを生み出せるはずです。

 このように、「ホテル・旅館事業者」「不動産業者・賃貸事業者」「自治体」、すべての利害関係者を巻き込み、それぞれにメリットを提示することでAirbnbは日本においてもサービスを浸透させることができるのではないかと思います。



■まとめ/Airbnbの戦略案

戦略案1

ホテル・旅館事業者に対して、低手数料で宿泊予約のプラットフォームを提供し、業界との協力関係を構築する。



戦略案2

不動産業者・賃貸事業者が管理責任上のリスクを担保した上で、管理物件をAirbnbに開放。短期賃貸として空き家及び空室を活用する。



戦略案3

かつての新興住宅地を丸ごと売却し、宿泊施設に転用するなど町おこしとしてAirbnbを積極的に活用。地域活性化のメリットにより、規制を回避する。



(RTOCS® 2015/10/11放送より編集・収録)

※引用元のURLは末尾にあります。

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●本書籍は以下より購入いただけます。

BBTリアルタイム・オンライン・ケーススタディ Vol.12

もしも、あなたが「Airbnb日本法人社長」「富山県知事」ならばどうするか?

https://goo.gl/feh8pe

最新刊(2017年5月26日発売)  ※2017年6月27日現在

大前研一のケーススタディVol.30

大前研一と考える“「マツキヨ」「ドンキ」事例で見る小売業の差別化戦略”

https://goo.gl/QKB9fc

●RTOCSバックナンバー

http://www.bbt757.com/pr/rtocs/



※本書収録の情報について

■本書はBBT大学総合研究所が学術研究及びクラスディスカッションを目的に作成しているものであり、当該企業のいかなる経営判断に対しても一切関与しておりません。■当該企業に関する情報は一般公開情報、報道等に基づいており、非公開情報・内部情報等は一切使用しておりません。■図表及び本文中に記載されているデータはBBT大学総合研究所が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、当総研がその正確性・完全性を保証するものではありません。■BBT大学総合研究所として、本書の情報を利用されたことにより生じるいかなる損害についても責任を負うものではありません。



<本ケースの引用元URL>

■Airbnb

https://www.airbnb.jp/

https://www.airbnb.com/

■Airbnb 企業情報

https://www.airbnb.jp/about/about-us

■Airbnb 売上高 2009-2012

http://www.econ.ucla.edu/sboard/teaching/tech/Airbnb.pdf

■Airbnb 売上高 2013-2015

https://medium.com/@rgoksor/predicting-airbnb-s-valuation-in-2020-f2436b8c8515#.prnifz51h

■Airbnb 売上高 2013, 2015

http://www.wsj.com/articles/the-secret-math-of-airbnbs-24-billion-valuation-1434568517

■The Billion Dollar Startup Club, The Wall Street Journal

http://graphics.wsj.com/billion-dollar-club/

■Reuters

http://www.reuters.com/finance/stocks

■マンション・チラシの定点観測『米国におけるAirbnb関連法整備の状況』

http://1manken.hatenablog.com/entry/2015/08/08/175701

■厚生労働省『国家戦略特別区域法における旅館業法の特例の施行について』

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000045342.pdf

■総務省『平成25年住宅・土地統計調査』

http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/

■総務省『国勢調査』

http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/index.htm

■国立社会保障・人口問題研究所

http://www.ipss.go.jp/