あなたが「京急不動産の社長」ならばどうするか?

今回のリアルタイムケース

Question:

あなたが京急不動産の社長ならばいかに京浜急行電鉄沿線の再開発をして

東京~横浜間の路線価値を高めていくか?



 今回のケースは、京急グループにおいて土地・住宅の分譲やニュータウン開発を担う京急不動産株式会社の戦略についてです。





# 京浜急行電鉄の沿線開発とグループ内での不動産事業はどのように変化してきたでしょうか?

# 沿線人口の減少が予想されるなか、路線地域の強みを活かしたどのような再開発が考えられるでしょうか?



# 企業情報

以下からはBBT大学学長・大前研一による「課題と戦略」案が続きます。経営に正解はありません。読み進める前に、あなたが経営者であったならどうするか、一度考えてみてください。



BBT-Analyze:大前研一はこう考える 〜もしも私が京急不動産の社長だったら〜

※本解説は2015/11/1 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。



●大前の考える今回のケースにおける課題とは

 京浜急行電鉄を中核とした京急グループは、京浜地区から三浦半島を地盤とし、交通、流通、不動産、レジャーサービスなどの事業を展開している。グループの中で京急不動産は、土地・住宅の分譲やニュータウン開発によって沿線地域の開発を担ってきたが、今後沿線人口の減少や高齢化が予想されるなか、いかに沿線地域の特性を活かし、時代に合った再開発戦略を打ち出すかが課題となる。



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◆不動産開発の機軸となる鉄道事業を取り巻く現状

#1998年「羽田空港駅」開業以降、輸送人員は増加傾向

 京急不動産を考える上で、まず京急グループの中核となる京浜急行電鉄(以下、京急電鉄)を取り巻く状況を見ていきましょう。

 京急グループは、京浜地区から三浦半島に地盤を置き、京急電鉄を中核として沿線開発を行っています。メインとなるのは、泉岳寺駅から浦賀駅まで走っている京急本線であり、泉岳寺駅で都営浅草線の相互乗り入れを行っています。京急本線の金沢八景駅から新逗子駅まで逗子線が走り、京急川崎駅から川崎大師方面を大師線、堀ノ之内駅から三浦半島の三崎口駅を久里浜線が結んでいます。これらに加え、京急蒲田駅から羽田空港までをつないでいるのが空港線で、今、大きな期待が寄せられています(図-1)。

 この空港線の沿革を見てみましょう。1902年に京急蒲田駅から穴守駅までを穴守線として開通したのが始まりです。1931年に羽田飛行場が開業し、京急のほか、1964年には浜松町駅から旧羽田駅(現天空橋駅)まで東京モノレールも開業しました。その後、1993年の空港延伸第一期工事により空港線羽田駅(現天空橋駅)が開業、1998年に空港延伸第二期工事が完成、羽田空港駅の開業により、空港線の現行路線が完成しました。2012年には京急蒲田駅の高架化も完成し、品川~羽田間、横浜~羽田間の直通電車を10分間隔で運行しています(図-2)。

 こうして羽田空港とのアクセス改善を進めてきた結果、京急電鉄の輸送人員は1998年の羽田空港駅の開業以降、増加傾向にあります。1998年度に4億人強だった輸送人員が、2014年度には約4億5,000万人まで増加しました(図-3)。



#空港線が輸送人員を牽引し、京急とモノレールが拮抗

 [図-4/京急電鉄の区間別輸送人員推移]をご覧ください。空港線は、羽田空港駅が開業した1998年以降、輸送人員が大きく増加しています。1998年を基点に約1.7倍超に増加しています。それに対し、京急本線は微増、久里浜線・逗子線には、減少傾向が見られます。

 現在、羽田空港への鉄道アクセスは、京急とモノレールの2路線あります。アンケート調査による交通手段別シェアでは、モノレールが29%、京急が29%と拮抗しています。それに続くのが、路線バスの21%となっています。利用者からは、品川駅から羽田空港までエアポート快特を使えば十数分という利便性が、浜松町駅でモノレールに乗り換えるよりも快適で速いと高く評価されています(図-5)。



#沿線人口は2015年を境に減少の見通し

 空港線の輸送人員の増加で好調に見える京急電鉄ですが、実は、今後の沿線人口減少という大きな問題を抱えています。この問題は多くの私鉄が直面する問題です。例えば、高所得者が、沿線に多く住むことで知られる関西の阪急沿線は、日本で一番高齢化が進んでいる線でもあります。高齢化は、高台の高級住宅地から駅周辺までの移動が難しくなるものですが、この傾向は京急沿線にも当てはまります。

 京急の沿線人口の推移及び将来推計を見ると、沿線人口は2015年の374万人から、2040年には339万人に減少することが予想されています。2015年を境に減少に転じ、2040年までの25年で沿線人口は9.4%も減少する見通しです(図-6)。



#京急沿線自治体の将来人口推計 

 沿線人口の減少について、エリア別で見てみましょう。京急沿線の自治体の将来人口推計を、2015年から2040年まで5年ごとに見てみると、一番大きく減少しているのが横須賀市です。一戸建てを求めて横須賀市に家を買い、都心に通勤する人は明らかに減少しており、私が立ち上げた一新塾 出身の横須賀市の吉田雄人市長からは、こうした人口減少の悩みとリアルな問題を聞く機会が多くあります(図-7)。

 沿線の中では、品川・羽田エリアの港区、鶴見・川崎エリアの川崎区、幸区、横浜中心部エリアの神奈川区あたりは現状維持が期待できますが、それ以外の自治体は人口急減が避けられません。かつてサラリーマンのベッドタウンと呼ばれた地区は、著しい人口減少が予想されています。

 さらに、将来人口を2015年と2040年の増減率で比較して見ると、都心から離れるほど減少率が大きいのがわかります。横浜南部から三浦半島にかけて、特にその傾向が顕著です。三浦半島の三浦市は2040年には、2015年の人口の約30%が減少する見通しとなっています(図-8)。



◆ニュータウン開発など住宅関連不動産事業を行う京急不動産

#京急グループの不動産事業は6社で構成され、連結売上高の14%

 ここからは京急グループの不動産事業を担う京急不動産について見ていきます。京急電鉄連結の2015年3月期の売上構成比を見ると、グループの不動産事業は親会社である京急電鉄や子会社の京急不動産を含む計6社から構成されており、連結売上高の14%を占めています(図-9)。

 京急不動産はグループ内では、主に住宅関連の不動産事業を担っており、ニュータウン開発、区画整理事業、土地・建物の分譲事業、マンションの分譲事業、仲介・賃貸事業などのサービスを行っています(図-10)。また、親会社である京急電鉄は主に駅及び駅周辺の商業ビル開発を行っています。

#親会社の不動産事業が不振、売上停滞、利益も悪化

 次に、京急電鉄のセグメント別業績を見てみましょう。グループ連結の不動産事業の売上高は、2015年3月期で430億円、営業利益は3億円となっています。京急不動産の単体売上高は68億円、営業利益は1.7億円です。営業利益を見ると、2011年以降、交通をはじめ、レジャー、流通といった他セグメントが上昇しているのに対し、不動産だけが下降しており、利益が悪化していることがわかります(図-11)。

 グループ連結の不動産事業の不振は、親会社の京急電鉄が担っている駅及び駅周辺の商業ビル開発の不振が主因で、京急電鉄単体ベースの不動産事業の営業利益は赤字となっています。京急不動産単体の直近5年の売上は減少傾向、営業利益は赤字スレスレを推移しています(図-12)。



#ニュータウン、マンション開発を経て出てきた沿線格差

 これまで京急不動産は、横浜南部から三浦半島にかけてのニュータウン開発を進めてきました。主なところとしては、横浜南部のニュータウン港南、ニュータウン金沢能見台、ニュータウン富岡、三浦半島のニューシティ湘南大津の丘、ニュータウン観音崎、ニュータウン野比海岸、ニュータウンマリンヒル横須賀野比、ニュータウン三浦海岸、ニューシティ湘南佐島なぎさの丘があります。こうしたニュータウンに住んでいるのは、都心の職場まで通勤で1時間半くらいかかってでも一戸建てに住みたいという人々でしたが、この年代も高齢化が進み、ニュータウンがシニアタウンになっているのが現状です(図-13)。

 現在、都心回帰の傾向も強まっていますが、そのニーズをマンション開発で取り込もうと、川崎・港町駅前マンション「リヴァリエ」、プライム川崎矢向、プライム横浜屏風浦、ザ・タワー横須賀中央などの開発も進めました。とはいえ、やはり横浜屏風浦や横須賀中央では都心から遠すぎて、川崎くらいまでが都心回帰のニーズを満たすエリアです(図-14)。

 京急不動産の現状と課題を整理すると、今後、京急沿線は「北高南低」の沿線格差が進むといえます。横浜南部から三浦半島にかけての沿線南部の人口減少により、需要も減少していきます。それに対し、横浜以北から川崎・羽田・品川周辺の沿線北部は、大田区をはじめ人口減少はあるものの、羽田空港の利用客の増加や品川周辺への都心回帰によって需要も見込めます。



◆沿線地域の特性を活かした再開発

#京浜運河の水路を活かした「東洋のベニス」

 これらの現状を踏まえ、今後の京急沿線再開発における私の戦略案をご紹介しましょう。

 私の提案する戦略は、京浜運河に沿って「東洋のベニス」をコンセプトに、工業団地跡地の再開発を主導する案です。ちょうど東京の品川あたりから横浜の大黒ふ頭まで京急線と沿ったかたちで海側に京浜運河があります。この運河は、途中、羽田空港や空港線にぶつかっていたり、横浜のみなとみらい近くに出たりと、非常に魅力的なルートでもあります(図-16)。

 この京浜運河に沿った再開発ですが、人を輸送するための手段の中心となるのが京急電鉄となります。運河の沿岸をつなぐだけでなく、京急の特急停車駅から運河周辺まで路線を延伸することで、東京への通勤客を取り込むことも可能です。JRや新幹線が使える品川へつなげれば多くの利用客を見込めるため、路線価値も高まるでしょう(図-17)。

 現状の京急線の横浜駅から先は、運河を使った再開発にともなって、地下に電車を通すことも考えられます。モノレールを通すことは、船の往来が多い港周辺では現実的ではありませんが、水路を活用することで横浜港や元町、中華街、石川町などの中村川周辺などもより一層、利便性と魅力を兼ね備えたエリアに再開発できるのではないでしょうか(図-18)。



#メルボルン型の発想でかつての工業地帯に高級マンション

 参考に[図-19/豪州メルボルンの再開発例]をご紹介します。このメルボルン型PFI と呼ばれる手法は、再開発のコンセプトに賛同してくれる企業や投資家から出資を募り、フレームワークの中で自由に開発するというものです。

 この開発例では、まず自治体が業務委託した開発会社が、再開発が必要な港湾のマスタープランを作成し、同時に投資家からの資金調達も行いました。ゾーン分けした地区ごとにコンセプトを示すことで、複数の業者から提案をもらい競合させ、コンセプトに合致する最適なものを開発会社が選定するようにしました。ここで選ばれた企業は、コスト削減をしながら自由に開発を実施しました。それが、さびれた港湾を活性化させたというわけです。 湾岸都市のメルボルンは、横浜と地理的条件も近いといえるでしょう。この手法を京浜運河に応用するのであれば、沿線価値を高めるためにも、かつての工業団地だった場所を一つの街として再開発する必要があります。現在のお台場周辺にあるような高級マンションを数多く建設し、新たな住宅地として街づくりから始めます。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、注目度の高いエリアなので、世界中のディベロッパーからの資金調達も期待できます。「水際に人が住む」をコンセプトに、京急電鉄の交通網を活かした京浜運河周辺の再開発をすることで、京急不動産が街づくりの中心となる必要があるのではないでしょうか。



●まとめ/京急不動産の戦略案

戦略案

「東洋のベニス」をコンセプトに、京浜運河の水路を活用した再開発を実施。その具体的な開発手法として、豪州で成功例のあるメルボルン型PFIの手法を参考に、京急が自治体等と協力してマスタープランを作成、京浜運河の両岸の工業団地跡地にニュータウン開発を行い、さらに新交通と京急電鉄の路線とをつなぐことで沿線価値を高め、新たな街づくりを行う。

(RTOCS® 2015/11/1放送より編集・収録)

※引用元のURLは末尾にあります。

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●本書籍は以下より購入いただけます。

大前研一のケーススタディ Vol.15

もしも、あなたが「京急不動産の社長」「日本スキー場開発社長」ならばどうするか?

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●RTOCSバックナンバー

http://www.bbt757.com/pr/rtocs/

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<本ケースの引用元URL>

■京急不動産株式会社

http://www.keikyu-sumai.com

■京浜急行電鉄株式会社 会社概要

http://www.keikyu.co.jp/company/outline.html

■京浜急行電鉄株式会社 グループ事業案内

http://www.keikyu.co.jp/company/group/

■京浜急行電鉄株式会社 IR情報

http://www.keikyu.co.jp/company/ir/

■京急グループ会社要覧

http://www.keikyu.co.jp/file.jsp?assets/pdf/company/handbook/handbook2014-2015/all.pdf

■東京モノレール株式会社

http://www.tokyo-monorail.co.jp/

■東京商工リサーチ

http://www.tsr-net.co.jp/

■交通統計研究所『鉄道統計データベース検索システム』

http://www.its.or.jp/StatisticData_WS/StatisticDataPage.aspx

■日本民営鉄道協会『大手民鉄の素顔』

https://www.mintetsu.or.jp/activity/databook

■国土交通省『鉄道統計年報』

http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000032.html

■国土交通省『航空旅客動態調査』

http://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk6_000001.html

■国勢調査

https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02100104.do?tocd=00200521

■東京都統計

http://www.toukei.metro.tokyo.jp/

■神奈川県統計

http://www.pref.kanagawa.jp/life/sub/5/

■国立社会保障・人口問題研究所『将来推計人口・世帯数』

http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/mainmenu.asp

■国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口』

http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/3kekka/municipalities.asp

※本書収録の情報について

■本書はBBT大学総合研究所が学術研究及びクラスディスカッションを目的に作成しているものであり、当該企業のいかなる経営判断に対しても一切関与しておりません。■当該企業に関する情報は一般公開情報、報道等に基づいており、非公開情報・内部情報等は一切使用しておりません。■図表及び本文中に記載されているデータはBBT大学総合研究所が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、当総研がその正確性・完全性を保証するものではありません。■BBT大学総合研究所として、本書の情報を利用されたことにより生じるいかなる損害についても責任を負うものではありません。