『独善的日常』をパラパラとめくっていた。昔は気にも留めなかったが、私の駄文は別にして、何とも味わいのあるイラストと行間のあいたレイアウトが無性に釣りへの意欲を掻き立てる。
聞けば知人が近々2泊3日で九州での落とし込み釣りを計画しているらしい。さらには船まで仕立てておいて欠員が出たという。まさしく渡りに船の誘いである。
とは言え、揚々と誘いに乗るのは癪なものである。「もう少し後の時期がベストじゃないかねぇ」等とブツクサ言いながら、“仕方無く”参加することにした。
――久しぶりの落とし込み釣りに昂って一睡も出来なかったなど、おくびにも出すわけがない。
そうなのだ。
20何年前に釣りの道に入ってこのかた、鬱々とした日常から一転して、釣行前日は水を得た魚のように活力を取り戻す。明日の釣りにあれやこれやと妄想を巡らせていると、眠っている暇など無いのだ。
錘は何色を使おうか。派手な色のは、入れ込んでいると見られるのも嫌である。鉛ストレートでいいだろう。
仕掛けは、周りよりも1号でも2号でも細いのにしよう。とにかく喰わせて掛けてしまえば、あとはやり取りで何とか獲れる。
竿の調子は、…
誘いは、…
釣りはお魚との対話である。人との対話は苦手だが、相手がお魚となると別である。
明日の策について、ああかもしれない、こうかもしれないと、頭の中で饒舌に一人語りするのだ。
妄中八策とでも言うべき、ああかもしれないこうかもしれないのおかげもあって、人との話術の達人たちを差し置いて、一人だけ爆釣ということもまあ少なくない。
臨戦態勢で臨んだ初日の朝一、船長の言葉は、
「ブリは8kgオーバーが上がってるよ。先週の鯛は5kgジャストだった」
釣りオヤジは、その日の釣りを始めるまでは、人から聞いた釣果情報は5割増しで翻訳する。(その日の釣りを終えた後は、人の言うことなぞ金輪際信ずるものかと深い懐疑主義に変身するのも釣りオヤジだが)
「ということは、ブリは12kg、鯛は7.5kgか。九州まで来たのだ。まあそんなものだろう」
いくら釣りオヤジとは言え、まあ良い年になって自分の釣果の自慢話も何だから、ファクトのみ記そう。
5人で乗り込んだ当日の船中の全釣果。7kgのブリ一匹。4kgのワラサ5匹。5kgの鯛一匹。
自分は7kgのブリ一匹。4kgのワラサ4匹。5kgの鯛一匹。
まあ自分としては当初の予定よりは謙虚な釣果であったが、お天気も風も良かったし、一日中飽きない程度に釣れたし、良い一日だった。
一つだけ、気になったことがある。
空港の荷物係とトラブってまで馬鹿でかいクーラーを東京から持ち込んだ同行の釣り仲間が、夜の宴席で妙に無口だった。珍しく船酔いでもしたのだろうか。