シャープ新社長、戴正呉という人物
シャープは、2016年11月1日、2016年度第2四半期決算説明会を都内の会議場で開いた。説明会のひな壇には、シャープを「買収した」鴻海精密工業から社長として派遣された戴正呉(たい・せいご)氏や副社長兼管理統括本部長の野村勝明氏ら経営幹部が顔を揃えた。東京では、戴氏が公式の場に姿を現すのは初めてということもあって、会場にはテレビ・新聞を始め専門紙・誌、ネットメディアなど多数の報道関係者が早くから詰めかけていた。
戴社長が8月13日にシャープ社長に就任してから約2カ月半。その間、本社組織の中核を担う「社長室」の新設やカンパニー制の見直しなどの改革を矢継ぎ早に進めてきた。いわば、シャープの「鴻海化」を加速させることで、強固な経営体質を作ろうとしたのである。その手応えはどうなのか、新しい組織の舵取りはうまく言っているのか、そうした疑問に対して戴社長はどう答えるのだろうか──私の最大の関心事だった。
会見場に姿を現した戴社長は写真で見たよりも小柄で、周囲を緊張させる圧力的な態度をとることもなく温厚そうに見えた。周囲をリラックスさせて、自分の話に引き込むタイプなのかも知れない。
決算内容の説明に立ったのは、副社長の野村氏である。
1.2016年度第2四半期連結業績概要
売上高 4962億円
営業利益 25億円
経常利益 ▲97億円
純利益 ▲179億円
本業である「営業利益」は、黒字化を達成。本業の業績回復が上向きにあることを感じさせる。好ましい兆候である。
2.2016年度上期連結業績概要
売上高 9196億円
営業利益 0億円
経常利益 ▲320億円
純利益 ▲454億円
事前に配られた決算資料を読んでいて、この営業利益「0.0」(単位:10億円)はなんだと思っていた。すると、野村氏が「上期の連結営業利益は7500万円です」と記載されていない数字を読み上げた。
つまり10億円の単位では、営業利益の「7500万円」は記載できないが、実際は上期でも黒字化を達成していることを指摘したかったのだろう。第1四半期の営業赤字は上期では完全に吸収されたというわけである。
さらに、下期の連結業績予想も明るい。営業利益は256億円の黒字だし、経常利益と純利益(最終利益)も上期の赤字から、それぞれ157億円と36億円の黒字を見込んでいる。
通期の予想では、営業利益は257億円の黒字、経常利益は163億円の赤字、最終利益は418億円の赤字である。2016年3月期の連結業績と比べると、営業利益(1619億円)も経常利益(1924億円)も最終利益(2559億円)も、軒並み4ケタという巨額な赤字を計上している。
それがわずか1年で、営業利益は3期ぶりの黒字、経常利益と最終利益は大幅な赤字額の減少の達成を見込むところまで改革を進めてきたのだから快挙と言っていいだろう。もちろん、厳しいコスト削減やリストラ、鴻海精密工業のサポートなどがあってのことだろうが、シャープの再建が確実に進んでいることを窺わせる業績内容だった。
20分ほどの説明が終わると、質疑応答に入った。当然、質問は戴社長ひとりに集中した。しかし記者が戴社長を指名して質問をすると、「私ではなく野村さんに聞いたほうがいいんじゃないですか。いや、冗談です。なんでも答えます」と茶目っ気のあるところを見せた。
戴正呉氏は、1961年9月3日生まれだから、65歳になる。台湾東部の宣蘭出身で…
【目 次】
1.はじめに 外見にとらわれない
2.時々刻々 シャープ新社長、戴正呉という人物
3.ルポ「現代の風景」 「変わらない」風景」