【連載第1回】
2017年は日本が没落の一途をたどるばかりであることが明らかになった年でした。国際社会における日本のプレゼンスはこの30年で低下する一方であったのに対し、中国の成長は目覚ましく、世界経済は米・欧・中の三極体制に移行しつつあります。完全なる敗北と緩やかな衰退の中で日本が今やるべきことは、将来を全く視野に入れていない「人づくり革命」でも「生産性革命」でもありません。2017~2018年の世界・日本の動きを俯瞰し、2018年のビジネスに役立つ、大前研一による国と企業の問題・トレンド解説をお届けします。
本連載は、大前研一による2017年12月末の経営セミナーをもとにした書籍『大前研一 2018年の世界~2時間でつかむ経済・政治・ビジネス、今年の論点~(大前研一ビジネスジャーナル特別号)』(2018年1月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。
今回の記事では、世界全体の低欲望化傾向や政治リスクなど2017年の国際トレンドを振り返ります。
※本記事はbiblionによる提供で掲載しています。
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◆世界全体に蔓延しつつある低欲望化傾向
2017年を総括すると、「明確に潮目が変わった年」と言えるのではと思っています。これはある意味非常に“画期的”です。
かねて私が述べている「低欲望社会(経済成長の頭打ちや様々な消費財のコモディティ化と普及など、複合的な理由によって消費行動が極端に萎縮した社会)」の現代日本ですが、これまで世界の中で日本がこれの先陣を切っていたのに、今や世界全体が低欲望社会化しつつあるという現象が見られ始めた、これが2017年の特色だと言ってよいでしょう。
世界的にものすごくお金が余ってきており、これを消化しないという状態が、米国にも欧州にも、また世界全体に広まりつつあります。「金利が安くお金がだぶついているので借りて何かに使う、運用する」という時代ではなくなってしまったのです。
人間の金に対する欲望というものが従来とは全く異なってきていて、これまでの20世紀の経済原論はもはや通用しない。この傾向が米国でも欧州でもかなり顕著に出てきたように思います。
◆政治リスクが高まっており、2018年の世界は不安定に
2016年も2017年も政治リスクは世界各地にありましたが、2018年は政治的に「この地域は大丈夫だ」と言えるところが少ないでしょう。各地で独裁化の傾向が見られます。
もともと国政選挙のない中国やサウジアラビアなどが独裁化するのは仕方ないことですが、ロシアにしてもトルコにしてもフィリピンにしても、よくもこんな人を選んだなという人が民主的に国家元首に選ばれて独裁化しています。
日本でも安倍晋三首相は民主的に選ばれているはずなのですが、対抗馬のいない一強状態で、取り巻きによる“忖度(そんたく)”の限りが尽くされております。
◆クラウド・モバイル・AI隆盛のIoT時代へ
産業界に目を向けると、こちらも2017年は大きく潮目が変わった年でした。
以前から言われてきたデジタル・ディスラプション(技術革新による既存産業の創造的破壊)が、2017年になって結果を出し始めてきました。
AIやIoTやビッグデータなどをフル活用した会社が高い時価総額を出すようになり、世界の時価総額トップ10の会社のうち7社がそういった会社です。中でも中国企業の躍進は目覚ましいものがあり、米国と覇権を競う構図になっています。
従来の中国で強い企業と言えばチャイナ・モバイル(中国移動)やペトロチャイナ(中国石油天然気)などの国策企業でしたが、今はもうそういうところはほとんどランキングに入ってこず、個人が設立した会社がICT分野で世界のトップ10に入ってくるという状況になっています。
◆“米国の次は中国”が明らかになった2017年
ですから、2017年を振り返ると、これまでに比べて中国と日本の格差が非常に明確に現れたと言えます。
特許の出願数も発表される論文数も中国のほうが上です。未上場で想定時価総額が10億ドル以上の企業をユニコーン企業と呼びますが、米国には108社あり、中国にはなんと58社もあります。
それに続くのは英国やドイツで10社程度ですが、日本には数社(メルカリ、DMM.com、プリファード・ネットワークス)しかありません。世界10大ユニコーン企業を見ても中国企業は4社もランクインしていますが、日本の中でこれから世界へ躍り出るような期待値の持てる会社がほとんど見つからないのです。
2017年は米国の次は中国だということが明らかになった年でした。
GDPの面ではそうだと分かっていたことですが、個々の企業を見てもまだまだ日本のほうが上だと思っていたところが、中国企業の勢力が堂々と米国に次ぐものになり、日本との差は開く一方だということが明確になった点で“画期的”な年でした。
私は以前から「このまま行けば日本は、ポルトガルやスペインのように400年衰退する、そういう長期没落が続く国になるぞ」と言ってきましたが、2017年はそのことが明確に決定づけられた年だったと言えるでしょう。
◆プライド高く不治の病にかかっている日本
このような時に政治家は、「これじゃいけない」と衰退を食い止めるための政策を打ち出さなければならないはずですが、待機児童をなくそうだとか教育の無償化だとかを声高に言っています。
また、今の日本の教育制度は20世紀の大量生産・大量消費時代における中の上くらいの人材を大量につくるものでしかありません。
エッジの効いた変わった人材、尖った人材をつくり育て21世紀の経済をシェイプしていくような仕掛けが全くないのです。そのことに気づいてからそういったシステムづくりに着手しても、効果が見えるまでには20年かかります。日本の今の病だと言えますが、これは治らないと私は思います。
自力で治せないのであれば、世界中から変わった人材を呼び込んで何かやらなければならないのですが、日本の場合、これもまた打つ手が不足しています。
ドバイ、アブダビ、シンガポールなど、世界各国が競ってものすごいお金をかけて起業家を自国に招くような施策を行っていますが、日本がやっているのは「起業するなら半年在留資格をあげましょう」「いやそれでは足りないから1年にしよう」といったレベルの論議です。世界の優秀な人材はみな日本に来たがっているのだと、まだうぬぼれているのです。今の日本には何が足りないのかということについて、全く自己分析ができていないと思います。
◆緩やかな衰退の中で時間をかけて自身をリシェイプせよ
したがってこの先は確実に“没落国家日本”となっていくのですが、グッドニュースとしては、日本は「美しく」衰退するということが挙げられるでしょう。
先行きは間違いなく衰退していくという状況にあっても、みな今は景気がよいと思っています。政府がいざなぎ超えの好景気だと言い、雑誌などのメディアも、そこに登場する経営者なども、口を揃えて今の日本は景気がよいと言っています。
貧困問題が取り沙汰されることがありますが、職のない人が街にあふれ路頭に迷っているような人が増えているわけではありません。これはデフレのおかげなのですが、ともあれ本来ならばこのような状況にあれば世の中はもっと騒然としているはずなのに、整然と、ハードランディングせずに、緩やかに没落国家への道を歩み始めているというあたりが“美しい国、日本”です。
この緩やかな衰退の中で、少し時間をかけて、ご自分の会社やプライベートにおいて抜本的な改革を行って、21世紀型のものに変えていく取り組みをされていくとよいのではないでしょうか。
焦って何かやる必要はなく、十分時間があるのです。
政治家や役人の状況を見ると、日本の病が治るというのは、先にも述べたように全くあり得ないと思います。今の日本は“家業が政治家”というような、経済や経営についてほとんど全く分からない人が総理と副総理をやっています。それが一強だと言われているくらいですから、これはまず治せません。こういう状況だからこそ皆さんは、ご自分のことやご自分の会社のことをリシェイプするプロセスに集中していただければと思います。
●本書籍は以下より購入いただけます。
・大前研一 2018年の世界~2時間でつかむ経済・政治・ビジネス、今年の論点
◆大前 研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学 学長
株式会社ビジネス・ブレークスルー 代表取締役社長
世界の大企業やアジア・太平洋における国家レベルのアドバイザーとして活躍のかたわら、グローバルな視点と大胆な発想で、活発な提言を行っている。
経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権の国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。経営や経済に関する多くの著書が世界各地で読まれている。
経済のボーダレス化に伴う企業の国際化の問題、都市の発展を中心として拡がっていく新しい地域国家の概念などについて、継続的に論文を発表している「ボーダレス経済学と地域国家論」提唱者。1987年にはイタリア大統領よりピオマンズ賞を、1995年にはアメリカのノートルダム大学で名誉法学博士号を授与された。 英国エコノミスト誌は現代世界の思想的リーダーとしてアメリカにはピーター・ドラッカーやトム・ピータースが、アジアには大前研一がいるが、ヨーロッパ大陸にはそれに匹敵するグールー(思想的指導者)がいない、と書いた。同誌の1993年グールー特集では世界のグールー17人の一人に、また1994年の特集では5人の中の一人として選ばれている。2005年の《Thinkers50》でも、アジア人として唯一、トップに名を連ねている。2005年、『The Next Global Stage』がWharton School Publishingから出版される。本著は、発売当初から評判をよび、既に13カ国語に翻訳され、世界中でベストセラーとなっている。
1992年には政策市民集団「平成維新の会」、1994年には人材発掘・育成の場として「一新塾」、1996年には起業家養成のための学校「アタッカーズ・ビジネス・スクール」を開設し、人材育成に取り組んできた。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院公共政策学部教授、ビジネス・ブレークスルー大学大学院学長、ビジネス・ブレークスルー大学学長、オーストラリアのボンド大学の評議員(Trustee)兼教授、韓国の梨花大学国際大学院名誉教授、高麗大学名誉客員教授、ペンシルベニア大学ウォートンスクールSEIセンターのボードメンバーに就任するなど、教育にも深く携わっている。
グローバル環境で活躍できる人材の育成をミッションとし、起業家養成、ビジネス英語や経営者勉強会、企業研修等、多用な教育プログラムを運営する教育会社。文部科学大臣の認可を受け、学士(経営学)、経営管理修士(専門職) MBAが取得可能なオンラインの大学、「ビジネス・ブレークスルー大学」も運営する。