五輪の日程変更を!

 全国で猛暑が止まらない。7月23日は埼玉県熊谷市で観測史上最高の41.1度を記録。23日までに熱中症で亡くなった人は少なくても30都道府県で94人(毎日新聞)、救急搬送者は16~22日の1週間で2万2647人に上った。

 各紙の見出しも「異次元猛暑 深刻」「気象庁 災害と認識」「大暑列島、もはや災害」「炎暑、迫る危険 室内で高齢者死亡」「水泳教室、祭り中止、命にかかわる」「この暑さ、青天井?」――と警告を発している。

消防庁 熱中症情報より

 今後も猛暑予想が続くなか、20年の東京オリンピックは同年7月24日から8月9日までの17日間、パラリンピックは8月25日から9月6日までの13日間にわたって行なわれることが決まっている。2回目の東京開催で期待もあるが、最近の異常な暑さからまともにスポーツの祭典を挙行できるのかという懸念の声のほうが強まっている。本当に素晴らしいオリンピックにしたいなら、開催日程を晩秋か早春に変えるべきではないか。

 1964年の初の東京オリンピックは10月10日から始まった。敗戦から立ち直った日本の姿を世界が注目するオリンピックの舞台から世界に示すのだというのが当時の日本人全体の思いであり願いだった。それだけに当時のオリンピック委員会は期間、特に初日の開会式をいつにするか、について国をあげて真剣に検討した。数年間の気象状況を調べ、期間中に最も気候が安定、晴天の日が続いて選手や観客が最も過ごしやすい季節と日々を気象庁や学者などが総力をあげて調査したのである。その結果「10月10日開会式」が決まったのだ。その努力と思いが通じたのか、10日は真っ青に晴れ渡りまさに秋晴れのオリンピック日和となった。成功の条件には会場施設や国民の受け入れ対応など様々なソフト、ハード面のもてなし方が求められるが、何といっても関係者が気にしたのは気温や湿度、晴天か雨天か――など天気の状況だった。その意味でも主催国、アスリート、観客などにとって最も快適な季節を選択することが最重要課題だったのだ。

 しかし2020年の東京五輪は真夏の8月に行なうことを選択した。秋は欧州のサッカーシーズン、アメリカの大リーグ野球などの最盛期とぶつかり、欧米のプロスポーツ界が莫大なオリンピック費用を負担することを申し入れたので日本が欧米の人気スポーツシーズンを忖度し避けたとみられている。しかし欧米のプロスポーツに遠慮して世界のアマチュアスポーツの祭典の開催日をずらし、期間中に熱中症などで選手や観客が数多く倒れたりしたら、それこそ日本のスポーツ界は世界からスポーツに対する考え方に対し、根本的批判を浴びよう。

 折しも環境省は五輪期間中の「新国立競技場 熱中症『最悪25日超』」(1月4日付読売)と公表。同期間中の熱中症を示す国際指標の「暑さ指数」も最も高い危険性がある「暑さ指数31」のレベルに達した日が新国立競技場など4ヵ所で25日以上あったという。日本体育協会は指数25~28を警戒、28~31は厳重警戒、31以上を運動の原則中止と定めている。

 五輪組織委員会は約100億円かけて道路の遮熱舗装や競技開始時間の調整などの対策をとるというが本当にそんなことで対応できるのか。熱中症でバタバタと選手が倒れたら日本のスポーツ界の指導者、主催者は世界の笑い物になり非難されることだろう。

【電気新聞 2018年8月8日】

※嶌は以前より酷暑のオリンピック開催に関する提言をしてまいりました。参考まで過去に書いたオリンピック関連のコラムならびにTBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」にてお話した内容をご紹介します。ご興味をお持ちの方は合わせて参照いただけると幸いです。

■コラム

・なぜ真夏の五輪か? 14.10.20 電気新聞

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20141020

・~真夏の東京五輪を変えよう~ 14.11.05 TSR情報

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20141105

・東京五輪後の日本の進路 どんな国をめざすのか 15.02.05 財界

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20150205

・寒々しい五輪風景 15.08.03 電気新聞

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20150803

・アスリート・ファーストのいかがわしさ 15.09.17 財界

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20150917

・地に落ちた東京五輪評判 15.10.01 財界

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/201510011

・真夏の東京五輪、見直すべき 18.02.17 Japan In-depth

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20180222

■TBSラジオ 森本毅郎・スタンバイ 日本全国8時です

・東京五輪の課題解決のヒントを過去の五輪から紐解く  16.08.24 

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/201608241 

・アスリートファーストは妥当か? 16.05.19

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20160519

・オリンピックと政治、印象に残っている選手 15.12.01

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20151201

・真夏のオリンピック開催に物申す 14.10.15

(放送内容のまとめの掲載なし) 

◆お知らせ

・12日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』

 ゲスト:ウィーン在住のソプラノ歌手の中でもほんの一握りしかいない歌声「コロラトゥーラ」の持ち主の田中彩子様 二夜目音源掲載

 高校生でウィーンに留学し何も分からぬまま語学学校からスタート。恩師に云われて歌のレッスン以外で始めた意外なチャレンジや、歌手デビューするきっかけとなったコンクールでのエピソードなどについて

 前回の高校生の時にウィーンに渡り22歳でスイスを代表する劇場で日本人初、最年少のソリストデビューを果たした歌手人生についてお伺いした音源は番組サイトにて明日の正午まで期間限定でお聞きいただけます。

 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20180813

 次回(19日)は、ゲストに元力士・親方で歌手の増位山太志郎様をお迎えする予定です。