あなたが「DMM.comの会長」ならばどうするか?

QUESTION:

あなたがDMM.comの会長ならば

日本のユニコーン企業とも言われるほど売上を伸ばしている今

今後の成長戦略をどう考えるか?



~今回のケースは、オンラインプラットフォーム「DMM.com」を中心として様々な事業を展開するDMM.comグループの戦略についてです。~



# DMM.comグループのビジネスモデルはどのようなものでしょうか?

# 「アダルト関連事業のため株式公開ができない」という制限もある中、さらなる成長のためにどのような戦略を取るべきでしょうか?



#企業情報

!読み進める前に…

以下からはBBT大学学長・大前研一による「課題と戦略」案が続きます。経営に正解はありません。ページをめくる前に、あなたが経営者であったならどうするか、一度考えてみてください。

※本解説は2016/4/24 BBT放送のRTOCS©をもとに編集・収録しています。

BBT-ANALYZE:大前研一はこう考える

        〜もしも私がDMM.comの会長だったら〜

●大前の考える今回のケースにおける課題とは

 米国では企業価値の評価額が10億ドルを超える非上場のベンチャーを“ユニコーン企業”と呼んでいるが、日本におけるユニコーン企業の一つとして注目されている企業がDMM.comグループである。同社の事業概要を一言で説明することは難しいが、あえて言うならば、アダルトコンテンツ事業を中核とするベンチャーキャピタルと言えよう。現在、同社の手がける事業は多岐にわたるが、収益の多くをアダルトコンテンツ事業が生み出しており、その収益を原資に様々な新規事業を創出することをグループの成長戦略と位置付けている。しかし、アダルトコンテンツを中核事業としているため、倫理上の問題から同社が手がけるベンチャーが株式公開を果たした実績はない。新規事業の創出を成長戦略とする同社としては、より優れた起業家や事業アイデアを集めるため、株式公開を目指せる事業体制を構築することが課題となっている。



◆DMM.comグループの沿革と事業展開

#レンタルビデオ店からスタートし、アダルトビデオ事業で国内最大手に成長

 DMM.comグループは、オンラインプラットフォーム「DMM.com」を中心とした企業グループです(図-1)。

グループを率いる亀山敬司氏は、20代前半で出身地の石川県加賀市で雀荘とバーを経営し、1986年にレンタルビデオ店を開業しました(図-2)。ある日、近未来を描いた映画を見たことをきっかけに、映像コンテンツはいずれ電子配信に置き換わると直感、レンタルビデオ業界の将来性を悲観した亀山氏は、コンテンツメーカーになることで生き残ることを標榜し、1990年にアダルトビデオ(AV)制作に参入しました。AV事業はやがて国内最大手に成長、DMM.comグループを資金面で支えています。

 1999年には動画配信や通販事業への本格展開を狙い「デジタルメディアマート」(現DMM.com)を設立、積極的なテレビCMにより知名度を上げつつ、次々と新規事業への投資を進めていきました。2009年にはFX事業会社(現DMM.com証券)を買収したことで、グループのオンラインプラットフォーム事業の成長は急加速しました。



#枠組みのない事業展開

 DMM.comグループの手がけるサービスを見ると、何をやっている会社なのか、何を目指している会社なのか、というものがよくわかりません。動画配信、電子書籍、オンラインゲーム、レンタル、通販、英会話、FX、会食・合コンのマッチング(肉会)、ソーラーパネル、3Dプリンター、ロボットといったように、事業に一貫性や方向性が全く見えません(図-3)。



DMM.comグループのホームページには、「事業紹介」として次のように書いてあります

==

「あたらしい」を、続々と。

動画配信、通販、レンタル、オンラインゲーム、英会話、ソーラーパネル、3Dプリンター。

私たちの事業には、枠組みというものがありません。

「オモシロい」と思ったら、すぐに検討。「可能性がある」と思ったらすぐに実行。

成功した事業の裏には、だから、たくさんの失敗もある。

むしろ、失敗することより、チャレンジしないことのほうが怖い。

新しいことをつくり出す力と、つくり出したい気持ちと、なんにでも目をつける好奇心を、

ここで発揮しませんか?

(DMM.com採用情報より、太字は著者編集)

==

 驚くべきことに、「事業に枠組みがなく、思いついたことはすぐに検討・実行する」、これがDMM.comグループの事業戦略であると明記してあります。普通の事業会社であれば、目的・理念があり、その会社が社会に提供する価値、すなわち事業領域(枠組み)が明確です。そして、目的・理念を達成するために事業戦略があり、その戦略に沿って限られた経営資源を配分していきます。しかし、DMM.comグループは新規事業をつくり出すこと自体を目的としているため、決まった事業の枠組みを持たず、新規事業を創出することに全ての経営資源を配分することが事業戦略となっているのです。

 なぜ、このような経営が可能なのかを次に見ていきましょう。

◆安定を支えるアダルト事業、成長を牽引する新規事業

#アダルト関連事業の利益で様々な新規事業に参入

 DMM.comグループの事業は多岐にわたりますが、大きく「アダルト関連事業群」と「新規事業群」に分類できます。グループ会社の資本関係をまとめたのが[図-4/DMM.comグループの全体像]です。アダルト関連事業群が安定したキャッシュを生んでいます。このキャッシュを新規事業に投資し、これらの新規事業をオンラインプラットフォームのDMM.comを通じて展開しています。

#独自の“ピンクオーシャン市場”で安定したキャッシュフローを生む

 アダルト関連事業がなぜ、安定した利益を生み出しているのか。それは亀山氏が“ピンクオーシャン市場”と呼ぶアダルト業界の特徴が関係しています。まず、この業界には社会的体裁を気にする大企業が参入してこないという、独特な参入障壁によって守られています。そして、この業界は人間の三大欲求の一つに根ざしているため、非常に底堅い需要に支えられており、これが安定したキャッシュフローを生み出すのです(図-5)。

 DMM.comグループはアダルト業界という“ピンクオーシャン市場”において国内最大手というポジションを確立しています。このように、アダルト関連事業が生み出すキャッシュがグループの安定を支え、それを原資に創出された新規事業群がグループの成長を牽引するという独特な事業モデルを構築しているのです。



#グループ連結売上高は1,358億円、年率26%の上昇

 [図-6/DMM.comグループの連結売上高]が示すように、グループの連結売上高は直近5年で年率26%も伸びており、2016年2月期は1,358億円に達しています。

 連結業績の詳細は非公表であるため、会社ごとの単体売上高を見ると、一般顧客向けサービスのポータルであるDMM.comが成長を牽引していることがわかります(図-7)。

 会社別の単体純利益では、FX・CFD事業のDMM.com証券が大きく貢献しています(図-8)。

◆さらなる成長のため、インセンティブのあるオープンなモデル構築を

#外部起業家との業務委託契約で新事業を育成

 DMM.comグループの今後の成長は、新規事業をどれだけ創出できるかにかかっています。新規事業を開発する仕組みとして、2011年に亀山直属プロジェクト、通称「亀チョク」を設置しました(図-9)。これは、社内外から事業アイデアを募って亀山氏が直接審査し、事業資金を提供する仕組みです。事業アイデアを持ち込んだ起業家と業務委託契約を結び、事業資金と実働部隊を提供します。半年以内に新規事業の成果が見られなければ契約打ち切りというルールです。これは言わば亀山氏がベンチャーキャピタリストとして事業資金を提供するというものです。

 この仕組みでは投資リスクは全て亀山氏が負うため、起業家が返済リスクなどを負うことはありません。一般的なベンチャーキャピタルでは最終的に上場やM&Aによって、保有株式を売却することにより投資資金を回収します。しかし、DMM.comグループのこれまでの実績を見ると、株式上場や事業譲渡により投資資金を回収したことはありません。亀山氏が出資した新規事業は亀山氏やDMM.comグループが全ての株式を保有したまま事業を続けています。これは、DMM.comグループがアダルトコンテンツを事業の中核としているため、社会通念上、倫理上の問題から株式公開が困難という事情があります。

 このことは、新規事業を持ち込む起業家にとっては、株式公開というインセンティブが働かないということであり、DMM.comグループにとっては、小粒な起業家やアイデアしか集まらず、新規事業開発による成長戦略の阻害要因となります。



#成長戦略のカギは、株式公開と起業家へのインセンティブ

 現在は新規事業の開発に勢いがありますが、いずれはスローダウンしていくことになるでしょう。では、どうすればよいか。ひとつは、インキュベーション専門の別会社、もしくはベンチャーキャピタルを設立して、株式公開を前提とした事業アイデアを募集すること。もうひとつは、起業家にストックオプションを付与するなど、起業家にきちんとインセンティブを与えることです。こうした体制は、リクルートの例が参考になるでしょう。リクルートには、かつて「38歳定年制」とも呼ばれていた人事制度があり、38歳で退職すると受け取ることができる退職金が最大となるというものがありました。退職後に起業するケースではリクルートがその事業に投資する場合もあり、起業家と企業の双方がメリットを得られるというビジネスモデルを実行しています。

 こうしたモデルを研究し、亀山氏やDMM.comグループが全ての株式を握るのではなく、自分たちも起業家も儲けられる仕組みにすることが必要です。それによってより大きなアイデアや野心のある起業家が集まり、DMM.comグループ自身のさらなる成長につながるのではないでしょうか。

まとめ/DMM.comの戦略案

インキュベーション専門の別会社、もしくはベンチャーキャピタルを設立し、株式公開を前提とした事業アイデアを募集。起業家にストックオプションを付与するなど、インセンティブを高めることで有力な起業家やアイデアを集め、さらなる成長を目指す。

(RTOCS®2016/4/24放送より編集・収録)

●本書籍は以下より購入いただけます。

大前研一のケーススタディ Vol.21もしも、あなたが「DMM.com会長」「オートバックスセブン社長」ならばどうするか?

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<本ケースの引用元URL>

■株式会社DMM.com

http://www.dmm.com

■株式会社DMM.com(会社概要)

http://corp.dmm.com/information.html

■株式会社DMM.com(採用情報、事業概要)

http://recruit.dmm.com/

■DMM.comグループ情報

https://job.mynavi.jp/17/pc/search/corp80365/outline.html

※本書収録の情報について

■本書はBBT大学総合研究所が学術研究及びクラスディスカッションを目的に作成しているものであり、当該企業のいかなる経営判断に対しても一切関与しておりません。■当該企業に関する情報は一般公開情報、報道等に基づいており、非公開情報・内部情報等は一切使用しておりません。■図表及び本文中に記載されているデータはBBT大学総合研究所が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、当総研がその正確性・完全性を保証するものではありません。■BBT大学総合研究所として、本書の情報を利用されたことにより生じるいかなる損害についても責任を負うものではありません。