【謝罪プロは見た】KDDI高橋社長のビジュアル効果

日頃から謝罪の失敗をくさすようなことばかり書いてたいへん申し訳ないと思ってはいるのですが、あくまで私の主旨は批判ではなく「学び」です。失敗謝罪には学びが詰まっており、悪い例から自分を守る教訓を得るきっかけとしていただければと常に思っております。だから私は一度たりともお詫びする人の人格を批判したことはないのです。不倫しようが不始末起こそうが、そもそも他人に害を及ぼそうという意図のないやらかしは、人として誰でも起こり得ることです。(そこまで積極的に肯定して良いのか??肯定はしてないが、そうゆうことはある、と認めてます)

なんでこんなこと言ってるかというと、後半で人格についても触れるので、その伏線なのです、って自分で言う?

ということで毎度ダメな謝罪を取り上げる中、先日発生したKDDI通信障害。携帯という今や現代人と切っても切れない最重要インフラが突如使えなくなるという大事件でした。

所轄官庁・総務省が混乱のさなかに「指導・指示」をしたり、当然大事となり、ついには事態がまだ完全収束しない中、KDDI代表取締役社長の高橋氏自ら記者会見に登場しました。

・巨大企業トップという悪のラスボス登場!

ここ何年も、これだけ謝罪ブーム(←ブームではないが、やらかせばオイシイ記事コンテンツとしてマスコミ、ネットが飛びつく)が長く続いているのに、ほとんどの芸能人、政治家、本来一番上手いはずの企業トップもやらかします。

知床遊覧船事故の社長土下座会見。お話にならないダメ会見でしたが、オープニングからダメ感満載の雰囲気でいきなり土下座という、謝罪見なれしてきた私たちの予想をビタ一文裏切らないダメっぷりでした。

今回登場したKDDI高橋社長ですが、そこまで知識も関心も無く義務的に(オイオイ)映像を見ていたのですが、正直なところ最初はいつもの超巨大IT企業トップの超エリート社長による、超くそつまらない弁明をしそうな雰囲気だと思いました。口をへの字に曲げ、いかにも気難しい顔つきが画面に映されました。

正に巨大企業トップ=悪のラスボスの雰囲気満載です。

会見は冒頭の社長のお詫びから、普通に始まりました。

ごくごく普通のお詫び、そして長く頭を下げ、ちょっと長すぎ(長すぎると逆にわざとらしい)と思っている内に、高橋氏は「では私の方からスライドで少し説明します」と、スクリーンに向かって進み、ポインターを指しつつずんずん説明をしていったのです。

あれ?

普通、これって専門担当者とか、そうでなくとも横にいる専務とかじゃないの?とけっこうな違和感がありました。先日の尼崎市役所個人情報USB紛失事件におけるビプロジー社の社長が正にそれで、冒頭でのお詫びをした後はすべて担当役員などが説明をしました。

高橋氏はスッとスクリーンに向かい、かなりのなれた口調で今回の事故の概要から、現状、現時点での原因や対応などについて限り無くなめらかに説明を行ったのです。

責任逃れや知らぬ存ぜぬではなく、私が知る限り、KDDIクラスの巨大企業の社長自らがこんな技術的なプレゼンをするのは見たことがありませんでした。

・ビジュアル系社長・高橋氏

人は見た目が○割というようなこじつけがまかり通っていますが、9割なんていう科学的根拠は無いにしろ(メラビアンの一部を切り取っただけのウソ解説は山のようにある)プレゼンテーションにおけるビジュアルの重要性は私も同意です。

落ち着きのある説明、何よりど素人にはさっぱり聞き慣れない技術用語をスラスラ使いつつも、決して「素人さんお断り」的に聞こえないていねいな説明。細かい技術情報ではなく、ざっくり何が起きており、何がだめなのかをわからせられる高い説明能力が、ネットの批判すら鎮火し始めたのです。

事態が事態ですし、大災害でありインフラという生命にもかかわる重大トラブルの責任が減じられるものではありません。ただ、高橋氏は全部部下のやったこと、専門家以外理解するはずのない専門用語で煙に巻く手法を取らず、きわめて平坦なトーンで落ち着いた説明を行いました。

危機に置けるリーダーのビジュアルで思い出した人がいます。

コロナが世界を襲った初期、アメリカ、ニューヨーク州では1日500人を超える死者が出るほど、世界最悪の危機に陥りました。その時のニューヨーク州知事クオモ氏は毎日会見を開き、情報提供だけでなくその話し方や物腰が、前例の無い危機に恐怖する州民だけでなく全米からも支持を受けました。

「リーダーが落ち着いていること」は危機において、絶対に外せない条件です。

これはどんな人間でも恐れを知らないとか、危機に接しても平常心を保てといっているのではありません。ビジュアルの問題なのです。

どれだけ恐怖にかられていようと、それをそのまま出すのではなく、リーダーは自分がどう見られるかを常に意識しなければなりません。誰の手にも負えないコロナ問題。ひたすら積み上がる死者。それでも州行政トップとしての職務は毎日続くのです。パニック映画などでギャーギャー騒ぐ登場人物はたいてい早めに画面から去ってしまうもの。主人公は危機にめげずに最後まで精神力を維持するものです。

このことをビジュアルで表現できたクオモ氏。高橋社長も7/3会見では、これに近い役を果たすことが出来たのではないでしょうか。

・ビジュアルで失敗する例

企業トラブルでは、同様に社長自ら矢面に立ったものの、返って反発を呼んでしまった例は多々あります。2013年に起こった食品偽装・誤表示事件。当時の店舗の経営母体である阪急阪神ホテルズ社長は、会見で記者の質問に答えたのですが、報道されたニュースをみた視聴者は「偉そう」「不遜」と、逆に燃料投下となってしまい、結果としてホテル社長だけでなく、出身母体の阪急阪神HD役員も退任することになってしまいました。

社長会見では暴言を吐いた訳でも、遊覧船事故のような意味不明の発言もなく、記者の質問にスキ無く即答し、むしろ理路整然とホテルのスタンスや食品業界の商慣習などを説明しています。これが反発を呼んでしまったのでした。

つまり危機対応コミュニケーションは正当かどうかを訴えるためのものではなく、事態収束を目指すものという原則が実現出来なかったのです。阪急ホテルズ社長はうそや言い逃れをしたのではなく、雰囲気が許せないと思わせてしまったことこそ、最大の会見失敗要因だと思います。

ビジュアルは危機においてきわめて重要です。

説得力の根本ともいえます。誰もが疑心暗鬼になる危機において、すくなくとも見た目どっしりと、そして弁が立ちすぎて言い訳にならないよう注意しつつ、専門的知識や理解がにじみ出る風格。

結局付け焼き刃では難しいのですが、それでも見ている人に伝わりやすい情報として、ビジュアルが大事であることをあらためて感じた次第です。

尚、コロナ下のヒーローだったクオモ前知事は、ハラスメント問題などの責任を取り、その後辞任しました。コロナ対応に問題があったことやセクハラ行為について、(セクハラ起訴は取下げになったらしい)非難される行いはあったのだろうと思います。

このことは逆に、人格とは関係無く技術としてのコミュニケーション、プレゼンテーションは実現できるということではないでしょうか。

巨大企業には珍しい、技術系経営者・高橋氏は、短期利益を上げるだけで後は野となれ山となれ・焼き畑農業式プロ経営者と呼ばれる種とは別次元の、真のプロのお一人だと思いました。