TEDより大統領選ディベート。真のコミュニケーションの教材

アメリカ大統領選挙のハイライトともいえるプレジデンシャルディベート。最高のコミュニケーション能力の競い場です。いやいや、TEDだろう?とか他にも高度なコミュニケーションの場がある中、なぜプレジデンシャルディベートが最高なのでしょう。大統領選討論から学ぶものは何でしょうか。

・「コミュニケーション」のためのコミュニケーションになっていないか?

TEDなどでプレゼンする人々は確かに話は上手く、内容も機知に富み、おもしろく視聴者を惹きつけます。しかし私はコミュニケーションを教える学生たちに、「TEDは参考にならない」と伝えています。

コミュニケーション技術、プレゼン技術の最高峰なのか?といわれたらそうかも知れないし、そうでないかも知れない。私は関心がないというのが正直な気持ちです。あのTEDをディスるかのような大胆な発言に聞こえるかも知れませんが、そうではありません。

「誰が世界一強いか」という問いかけは格闘技の永遠のロマンです。しかし答は決まっていると思います。核のボタンを持つ米ロ大統領だと思うのです。格闘技じゃないなん!と思うでしょうが、問いかけが「世界一強い」かどうかであれば、素手の勝負より武器を持った方が勝つに決まっています。武器も、こん棒より刀、拳銃、サブマシンガン、大砲、ミサイル・・・・エスカレートすればするだけ強力なものとなり、武器の強さが勝敗を決するというのはランチェスター戦略など紐解かなくともわかるでしょう。

コミュニケーションの最高というのは、プレゼン技術ではなく、コミュニケーションによって達成できる目標の達成度なのです。おもしろい見世物としてのTEDは視聴率を稼ぐことや、そこで名を売ってご自身の活動や主張の認知を広げることや、ビジネスの成果になることが目標なのではないでしょうか。

最高のプレゼンかどうかという技術点競技ではありません。「コミュニケーションのためのコミュニケーション」などというものは存在しないのです。TEDは一般的なビジネスや学生が行うプレゼンテーションと、その目標が違いすぎると思うのです。

・大統領ディベートは誰に向けたもの?

トランプ大統領の登場は、乱暴な発言、セクハラ、差別といった、これまでアメリカの上流階級やインテリのイメージを破壊的に変えるほどのショックでした。私はポロティカリー・コレクトネスのようなしちめんどくさい物言いをしないと、訴訟社会のアメリカでは死ぬほどの賠償金を取られるのだと勝手に想像していたのです。大統領自らあんな言動しても大丈夫なんだから、けっこうアメリカ人ってオッケーなんじゃないかと、自分の中のアメリカ認識が大きく変わりました。

日本ではなじみが無いでしょうが、トランプ大統領は元々大人気タレントです。テレビ番組司会者として、そのしゃべりは圧倒的な技術を持っています。日本も今や政治家になれるのは政治家一家で生まれた二世三世四世かテレビで名の売れたタレント有名人がほとんどになってしまいました。

漫画サザエさんで、「政治家を目指すため、まずはタレントデビュー」というオチがあったのですが、それが今の日本の政治そのものではないでしょうか。小泉旋風あたりを境に、芸能人的人気を得ることは、政治家としても欠かせない目的になったと思います。

大統領選挙では高邁な政策や政治的に正しい発言だけで勝負はつきません。芸能人的支持は「何だかわからない、理解はできないけど良さそう」というふんわりした好感度が投票行動に影響します。大統領ディベートはその頂点といえるでしょう。つまり高度な政策論議により好悪を判断するというより、何となくの印象で投票行動が大きく影響されるということです。

トランプ岩盤支持者と呼ばれるのが、ラストベルトの白人ブルーカラーのような人物像だとすれば、難しい政策より「ガイジンやっつけろ」的な扇動発言がウケるのはもっともなのでしょう。

・プレジデンシャルディベートから学べるもの「期待値」

話の下手な人の典型的ダメ前フリは「すっごくおもしろい話しがあるんだけど」です。自分からハードル上げてどうすんだよと思いますが、話し下手と呼ばれる人の多くは、話すことにいっぱいいっぱいで、聞く人のことを全く考えません。そこで結果として自分の不利になるようなハードル上げすらして関心を呼ぼうとしてしまうのでしょう。

私が以前ある女子大でキャリア講座を担当していた時、パートナーの先生と一つの授業を半分ずつ45分に分けて行いました。そのパートナー先生によってお声をかけて下さったことで初めて私が授業ができるようになった大恩人で、人格者、すばらしいお人柄の方なのですが、初めての登壇時にこう紹介されました。

「さあ次は増沢先生がお話をして下さいます。とーってもおもしろい先生ですので皆さん、期待して下さいね」

オイオイ!!!!

その方はウソ偽りなく、本当に良い人です。決してイジワルで発言されたものでないのは確実です。しかしこんなド高いハードル、どうしましょう・・・

まあ、結果として板の上(私は授業や講演を「板」と呼んでいるのですが)に出てしまえば、いかにウケを取れるか、授業を聞いて良かったと思ってもらえるかの勝負ですから、ちゃんと成果は出せたと思います。その後学部改変になるまでの3年くらい授業を担当できました。それにしても期待値を上げられてしまうのは、話し手としてものすごいアウェイな環境になるものです。

「聴衆」や聞き手の期待値を考えることはコミュニケーションにおいて不可欠です。コミュニケーションの成果や効果は絶対に自己完結しません。「相手」があって初めて成り立つのがコミュニケーションだからです。

もちろんハードルを下げすぎて、「聞いてもつまらなそう」と思わせたら、聞く意欲もなくなってしまいますから、ハードル調整は簡単ではありません。テレビCMは大いに参考になるでしょう。期待上げすぎは後でガッカリ、下げすぎは見てももらえない、そうならない最適な期待値を計算してプレゼンテーションやコミュニケーションは準備すべきなのです。

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(プロレスの話じゃんか、ではありません。プロレス知らない人もお楽しみいただけるよう書いてみました)

・トランプにリング上で対抗できた唯一の男。Battle of the Billionaires

第1回のプレジデンシャルディベートから見ましたが、第1回はバイデン氏有利という評価が多かったと思います。私も同感ですが、それは中身以上に・・・・

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