あなたが「オープンハウス社長」ならばどうするか?

◆今回のリアルタイムケース◆

QUESTION:

あなたが「オープンハウス社長」ならば

住宅ストックの増加により、長期的に新築需要が減退する状況において

いかに成長を継続させていくか?



~今回のケーススタディは、狭小地や変形地における住宅開発に強みを持ち、都心における割安な居住用不動産の販売・仲介で設立から急成長を続け、東証一部上場を成し遂げたオープンハウスの戦略についてです。~



# オープンハウスが急成長を遂げた要因は何でしょうか?

# 模倣されやすいビジネスモデル、取扱い対象物件の減少といったリスクが想定されるなかで、どのような戦略を取るべきでしょうか?



読み進める前に…

以下からはBBT大学学長・大前研一による「課題と戦略」案が続きます。経営に正解はありません。読み進める前に、あなたが経営者であったならどうするか一度考えてみてください。





BBT-ANALYZE:大前研一はこう考える

        ~もしも私がオープンハウス社長だったら~

※本解説は2016/1/31 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。



●大前の考える今回のケースにおける課題とは

「東京に、家を持とう。」をコンセプトに、東京23区、川崎市、横浜市を中心に不動産仲介事業、新築戸建分譲、マンション開発事業を展開してきたオープンハウス。都心において資産価値の低い狭小地や変形地を活用し、メゾネットや重層長屋タイプの住宅を割安に提供するビジネスモデルを築き上げた。しかし、模倣されやすいビジネスモデルであり、都心における対象物件の減少・枯渇や重層長屋に対する規制強化からビジネスモデルの崩壊が懸念され、多角化によるリスクヘッジが課題となっている。



◆狭小地・変形地を活用したビジネスモデルが、低価格でマイホームを持つ夢を実現

#ターゲットエリアと対象物件を絞った戦略的な事業展開

 バブル経済崩壊後、不動産市場は長期にわたり低迷が続いています。さらに、2008年のリーマンショックを引き金に世界的な金融危機が発生し、多くの不動産会社が撤退を余儀なくされました。暗雲が垂れこめた不動産業界ですが、オープンハウスはリーマンショック以降も業績を伸ばし、2013年には東証一部上場を果たしています。

 オープンハウスは、「東京に、家を持とう。」をコンセプトに、東京23区、川崎市、横浜市を中心に居住用不動産の販売・仲介事業、新築戸建分譲、マンション開発事業を展開してきました。創業者である荒井正昭氏の手腕が発揮され、上場を果たした今、2015年9月期の売上高は前年比60%増の1,793億円です。オープンハウスグループ内で用地仕入から設計、建築、販売までを行い、一貫した製販一体型体制を構築しています。

 オープンハウスの事業エリアを見ると、千代田区を除く23区及び武蔵野市、川崎市、横浜市に集中しており、首都圏の中でも特に都心の中心部で展開していることがわかります(図-1)。



#土地の形状を有効活用し、低価格で快適な居住空間を実現

 オープンハウスが提供する物件の特徴は、これまで居住用に不向きであった狭小地や、公道に狭い間口で接した特殊な路地状敷地(旗竿地)を安く取得し、メゾネットタイプ や重層長屋タイプの住宅を建て、面積あたりの戸数と居住面積を確保していることです(図-2)。これによって、都心にもかかわらず周辺相場に比べ破格の価格で住宅が持てるということが注目を集めて同社の業績は急成長しました。

 例えば図-2左では、従来の一戸建ての敷地面積を分割してメゾネットタイプとして複数の住宅を建てています。二階建て、三階建てと居住空間を垂直方向に取ることで、太陽光も自然に取り込めますから、限られたスペースでも快適な居住空間を実現することができます。

図-2右のような路地状敷地(旗竿地)などの変形地では、一般的に日当たりや、防災上のリスク、プライバシーなどの観点から住宅を建てることが敬遠されるため、地価水準が低くなります。また、そもそも建築基準法により公道と2m以上接した接道が確保できない場合は住宅を建てることはできません。そこで重層長屋タイプの集合住宅を建て、居住環境を画一化します。各住戸から直接公道へ出入りできるようにすることで、地価水準の低い変形地に複数の住戸を確保し、割安な物件を販売しています。



#割安感ある価格帯で顧客ニーズを満たす

 [図-3/東京都区部新築マンション平均価格の比較]をご覧ください。東京23区における新築マンションの平均価格を見ると、2011年は5,339万円でしたが、都心回帰の流れを受け、2015年には6,732万円まで高騰しています。それに比べ、オープンハウスの戸建平均価格は4,332万円ですから、かなりの割安感があるといえます。敷地面積が少ない代わりに価格を抑え、顧客ターゲットの中心となる30代の初めて家を購入するサラリーマン層に、購入しやすい価格帯で提供しています。このように、職住近接地域にマイホームを持ち、「狭いながらも楽しく快適な我が家で暮らす」という顧客のニーズを満たしているのです。



#好立地の格安物件が注目され、主力事業が成長

 次に、[図-4/オープンハウスの業績推移]を見てみましょう。都心部の好立地の物件が格安で購入できるとあって、業績は急成長しています。2015年9月期の売上高は1,793億円で前年の約1.6倍、経営利益は203億円で前年の約1.6倍、純利益は126億円で前年度の約1.5倍を達成しており、非常に好調です。

 事業内訳を見てみると、主力となる戸建販売は前年比約1.4倍の915億円、マンション販売は前年比約0.8倍の200億円と下がったものの、戸建・マンションを合わせた住宅販売事業が同社の主力事業として成長を牽引しています。また、主力の住宅販売以外にも収益源の多様化を進めています。その一つが不動産流動化事業であり、前年比約2.5倍の423億円を計上しています。次にまだ規模は小さいですが、不動産の仲介や金融事業は前年比約1.2倍の41億円、そして、2014年11月に住宅メーカーのアサカワホームを買収したことで、新たに住宅建設事業の売上が213億円計上されました。本業である住宅販売と新規事業の展開によって業績は躍進しています(図-5)。



◆事業拡大に向けた新たな取り組みとビジネスモデルがはらむリスク

#収益物件の転売で不動産流動化事業を強化

 オープンハウスは新たな収益事業拡大の一環として、不動産流動化事業を強化しています。これは、マンションやオフィスビルなどの収益物件を自社で購入し、リフォームやリノベーションで資産価値を高め、投資家に転売するビジネスです。古いマンションやオフィスなどの不動産を流動化させ、安定的な家賃収入を得ながら売却時の差益を得て収益を最大化します。REIT で扱うような高価格帯の物件ではなく、小規模のマンションやオフィスビルを中心に、個人投資家の需要が見込める物件を扱います。多くの物件は1年以内の短期間で売却し、相場変動といった不動産マーケットから受けるリスクを回避しています。



#アサカワホームの買収による製販一体の強化と事業エリア拡大

 さらに、東京西部を地盤とし関東全域で戸建を中心とした建築請負、設計・施工等を行ってきたアサカワホームを買収することで、事業エリアの拡大と製販一体体制の強化を図っています。当面は、多摩地区中央線沿線への自社営業センターの出店加速と、施工能力の補完及び深耕効果が期待できます。さらに、アカサワホームの建設・施工能力を活用し、東京23区における供給戸数の押し上げが図れます。さらに将来的なシナジー効果として、首都圏全域への事業拡大が見込めるでしょう。さらに、アサカワホームには中規模マンションの開発実績もありますので、マンション開発における協業や共同購買、商品開発などによる建設コストダウンも見込めます(図-6)。



#崩壊のリスクをはらむオープンハウスのビジネスモデル

 こうした収益事業を強化するオープンハウスですが、そもそものビジネスモデルが崩壊する危険性もはらんでいます。まず、このビジネスモデルは容易に模倣ができるため、今後の同業他社の参入が懸念されます。狭小地、変形地にメゾネットタイプの居住空間や重層長屋タイプの物件を建てることは、住宅建設においてそんなに難しいものではないので、今後は優位性を打ち出すのが難しいといえるでしょう。また、対象物件となる都心の狭小地、変形地も徐々に減少していきますので、土地の枯渇も懸念されます。

 さらに、世田谷区で取りざたされている重層長屋に対する規制強化の問題などもあります。そもそも、東京都建築安全条例では路地状敷地にマンションなどの共同住宅を建設することを禁じています。共同住宅とは、エントランスや階段・廊下、エレベーターなど、「共用部を有する」集合住宅です。オープンハウスが提供する「重層長屋」も集合住宅なのですが、「共用部を有さず」各住戸から直接公道へ出ることが可能なため、集合住宅ではあっても共同住宅ではないという扱いです。そのため、路地状敷地においても建設が可能となり、重層長屋が急増した世田谷区では周辺住民とのトラブルに発展したことから、重層長屋の建設に対して規制を強化することになりました。現在のオープンハウスのビジネスモデルは、こうしたリスクも含んでいるのです(図-7)。



◆リスクを軽減し事業拡大を目指す二つの戦略案

#空き家を活用した民泊ビジネスへの参入や事業エリア拡大を目指す

 ビジネスモデルの崩壊リスクは突然訪れるものではないと思いますが、従来の対象物件から少し視点を変えて、空き家に目を向けると良いと思います。

 [図-8/全国及び東京都の空き家数推移]を見ると、全国の空き家の割合は年々増加し、2013年時点で820万戸の空き家が全国に存在しています。東京の空き家の数は82万戸ですから、全国の空き家の10%を占めていることになります。つまり、この豊富なストックを活用した空き家活用ビジネスへの参入が考えられるでしょう。具体的には、空き家を活用した民泊ビジネスへの参入などが挙げられます。オープンハウスが空き家物件を仲介し、Airbnbのような民泊を扱う企業への登録や、規制緩和した大田区などで実際に民泊ビジネスを手がけるのも良いでしょう。その際、オープンハウスは鍵の受け渡しや清掃、安全管理などを代行し、民泊でありがちなトラブル対応などにも対処することで、物件オーナーから手数料を徴収します。

また、オープンハウスは事業エリアが都心に偏り過ぎていますので、これまで培ったノウハウを大阪、名古屋、福岡といった地方大都市の中心部に展開すると良いと思います。狭小地や変形地は各地にあるでしょうから、「東京に、家を持とう。」というコンセプトはそのままに、地域を変えて展開するのです。地方大都市の中心部において、職住近接で周辺相場より割安な物件を提供することができればビジネスは広がると思われます。

 今後は、現在のビジネスモデルに加えて、空き家を活用した民泊ビジネスへの参入、首都圏で得た狭小・変形地活用ノウハウの他県展開といった戦略によって、ビジネスモデル崩壊リスクを軽減し、さらなる規模拡大を狙うことができるのではないでしょうか(図-9)。

●まとめ/オープンハウスの戦略案

戦略案1

全国820万戸の空き家、特に東京に集中している82万戸の空き家の豊富なストックを活用し、民泊ビジネスに参入する。

戦略案2

狭小・変形地活用のビジネスモデルを、大阪、名古屋、福岡など、地方大都市に展開し、事業エリアを拡大する。

(RTOCS®2016/1/31放送より編集・収録)

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●本書籍は以下より購入いただけます。

もしもあなたが「最高責任者」ならばどうするか?特別号【60ケース収録】

※9月30日まで¥1,080

大前研一のケーススタディ Vol.19

もしも、あなたが「マツダの社長」「オープンハウス社長」ならばどうするか?


●RTOCS®バックナンバー

http://www.bbt757.com/pr/rtocs/

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<本ケースの引用元URL>

■株式会社オープンハウス

http://openhouse-group.com/

■株式会社オープンハウス(会社情報)

http://openhouse-group.com/company/index.html

■株式会社オープンハウス(投資家向け情報)

http://openhouse-group.com/ir/

■国土交通省 土地総合情報ライブラリー 『不動産市場動向マンスリーレポート』

http://tochi.mlit.go.jp/?post_type=secondpage&p=13047

■総務省 『住宅・土地統計調査』

http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/tyousake.htm#1