今回のリアルタイムケース
Question:
あなたが「ニトリホールディングス社長」ならば最高益を更新し続けている今
どのように新たな一歩を踏み出すか?
今回のケースは、縮小する国内市場の中で増収増益を続けるニトリホールディングスの今後についてです。
# 今後のニトリホールディングスにつきつけられる課題とは何でしょうか?
# マーケットが縮小するなか、強化するべきポイントは何でしょうか?
# 企業情報
以下からはBBT大学学長・大前研一による「課題と戦略」案が続きます。経営に正解はありません。読み進める前に、あなたが経営者であったならどうするか、一度考えてみてください。
BBT-Analyze:大前研一はこう考える
〜もしも私がニトリホールディングスの社長だったら〜
※本解説は2015/9/6 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。
●大前の考える今回のケースにおける課題とは
国内の家具専門小売業界で、売上規模と店舗網で競合に圧倒的な差をつけるニトリホールディングス。「製造物流小売モデル」による高度なマーチャンダイジングと徹底的なコスト管理で28期連続の増収増益を続けてきた。しかし、国内の新築着工件数減少に伴い、家具小売市場規模は長期的な衰退傾向にある。好調を維持するニトリが今後も成長していくためには、家具・インテリアだけにとどまらない新たな事業拡大戦略を打ち出すことが課題となっている。
==
◆躍進するニトリホールディングス
#圧倒的な売上高と店舗網
ニトリホールディングス(以下、ニトリ)の売上高は、2015年2月の決算時点で4,000億円を超え、増収増益を続けています。国内の家具専門小売業界においては2位以下と大きな差をつけ、業界第1位の突出した実績を築いてきました。2位は外資系で世界最大の家具小売であるイケアの日本法人が売上高772億円、3位は高級輸入家具に強みを持ち、現在、経営方針の転換を図っている大塚家具で555億円となっています。国内店舗数を見てみますと、イケアが8店舗、大塚家具が16店舗という状況に対し、ニトリは346店と、圧倒的な店舗数を展開しています。(図-1)。
#製造小売モデルの2社が業界を牽引
業種を生活雑貨まで広げて見てみますと、「無印良品」ブランドを展開する良品計画が好調です。2015年2月の決算では2,600億円を超え、ニトリに次ぐ業界第2位の売上高となっています(図-2)。ニトリと良品計画の2社は、自社で商品の企画から製造、販売まで行っています。このSPA と呼ばれる製造小売モデルは非常に収益性が高く、国内アパレル業界ではユニクロのファーストリテイリングが代表的です。
国内家具・生活雑貨小売業の営業利益率を比較すると、ニトリの営業利益率は15%を超えており、商品を仕入れて販売する通常の小売モデルに比べ極めて高い利益率となっています(図-3)。例えば、都市型ホームセンターである東急ハンズは認知度が高く人気もありますが、営業利益率を見ると0.9%しか出ていません。輸入家具大手の大塚家具は、2014年12月の決算時点で赤字に転落しています。国内の家具専門小売業者は小規模なところが多かったのですが、ニトリは製造小売モデルを構築し、高い収益性を実現する会社へと成長しました。
◆製造小売モデルによるコスト管理で、長期的な増収増益を実現
#市場の縮小に反した増収増益
ニトリの業績推移を見ると、売上高が継続的に上昇していることがわかります。28期連続の増収増益で、経常利益は2014年度時点では700億円近くまでになりました(図-4)。
一方で、国内の家具市場は縮小傾向が続いています。日本では婚姻件数の減少などが影響し、新築の住宅着工戸数は90年代から長期にわたり減少傾向です。それに伴い、かつて6兆円あった家具市場規模は、2014年度には3.3兆円まで落ちてしまいました。ニトリはその状況のなかで売上高を伸ばし続け、4,000億円を超える大きな存在となっています(図-5)。
#徹底的なコスト管理による高い利益率
先ほども述べたように、ニトリの高い利益率を支えているのは、商品企画から製造、物流、販売を自社で行うSPAモデルです。ニトリ製品は、インドネシアやベトナムの子会社工場で製造を行っています。また、タイ、マレーシア、中国、インドなどの海外子会社が輸入代行を行い、これらは一度中国にある2か所の物流センターに集められます。そこから国内の物流センターに分散させた上で、各店舗へ配送されます。
ニトリのように、バリューチェーンの全ての段階を自社で行うことはSPAモデルのなかでも特異です。例えば、代表的なSPA企業であるファーストリテイリングは自社企画製品を直営店で販売していますが、製造と物流は外部委託です。他の多くのSPA企業でも、バリューチェーンの一部が外部委託になっていることがほとんどです。ニトリ流の「製造物流小売モデル」では自社で全てのバリューチェーンを掌握しているため、全ての段階で徹底的なコスト管理を行うことが可能となります。したがって、安価な商品を提供しながらも高い利益率を実現できるのです(図-6)。
◆ニトリの強みを活かした新たな取り組み
#飽和する国内市場における成長戦略
国内家具小売市場が低迷するなか、今後もニトリが成長を続けていくための戦略軸を考えてみましょう。まず、ニトリモデルの強みである「製造物流小売モデル」を活かすことが必須です。その上で、飽和する国内市場における成長戦略として「商品単価・客単価の向上」「販売エリアの拡大」「事業分野の拡大」の三つの軸に沿って具体的に考えていきたいと思います(図-7)。
一つ目の「商品単価・客単価の向上」案については、中~高価格帯家具を強化し顧客層の拡大を図ります。そして、富裕層の取り込みを図るため、インテリアのトータルコーディネートサービスの展開を強化します。
次に「販売エリアの拡大」案については、やはり海外展開が欠かせないでしょう。同じSPAモデルであるイケアが世界展開を拡大させているように、欧米先進国市場や、新興国市場に目を向けていかなければなりません。
最後に「事業分野の拡大」案については、住生活分野内で家具以外の領域にニトリモデルを横展開することです。スマートホームや水回り、内装、外装、生活家電などの分野が挙げられます。さらに領域を広げ、住生活分野外にニトリモデルを展開することも考えられます。しかし本業から大きく外れる分野に進出するにはリスクが大きく、なにより相乗効果の期待できる周辺分野から徐々に攻略することを考えると優先度は低いでしょう。
#アパレルブランドの戦略を踏襲し、高級ブランド要素の取り入れを
まず、一つ目に挙げた「中~高価格帯家具の展開」についてですが、低価格帯の商品を量産することに注力してきたニトリにとって、いかに格調の高いデザインを取り入れ、富裕層にアピールできるかが課題となります。
ここでアパレル業界に目を向けると、ファストファッションで知られるZARAを展開するINDITEXや、H&MなどのSPAブランドは、高級ブランドのデザインを模倣し、いち早く市場に投入することで、ハイセンスな顧客層の取り込みに成功しています。したがって、同様の手法をニトリも取り入れることで、中・高価格帯のデザイン家具やインテリアの強化を図り、顧客層の拡大につなげることができるでしょう(図-8)。
#高級ブランド化、トータルコーディネートサービスによる付加価値
二つ目には、同じく富裕層向けのアプローチとして、コーディネートサービスの強化を考えます。「ニトリモデル+1」として、バリューチェーンをさらに川下展開し、より顧客に近い位置でサービスの強化を図ります。そのために、プロのコーディネーターを採用し、10年、15年先を考えた家具コーディネートを提案します。自社製品だけでなく、他社の製品や輸入家具も自由に組み合わせた提案を提供することで、富裕層の取り込みを図ります(図-9)。
#海外展開で先行するMUJIブランドを取り込む
三つ目に挙げた海外展開については、良品計画との統合案を提案します。良品計画は海外の店舗数が300以上あり、海外売上比率も30%とニトリの一歩先を行く企業です。したがって、良品計画を取り込むことで海外拠点もかなり強化できます。同じ製造小売モデルで、家具に強いニトリと生活雑貨と海外に強い良品計画はお互いに補完性が高いといえるでしょう。ニトリとしては統合という形をとって生活雑貨分野と海外を同時に強化していくという戦略モデルが考えられます(図-10)。
ただ、お互い独自路線でやってきたという意識はあると思いますので、受け入れがたい戦略かもしれません。しかし良品計画の持つブランドイメージが非常によいことや、海外だけでなくネット販売でもMUJIブランドは確立されていることから、ニトリとしては選択肢の一つとして悪くない戦略だと私は思います。
#シャープ本社とともにエンジニアを採用、生活家電を展開
最近、シャープがニトリに本社ビルを売却するというニュースが取り上げられました 。ここをニトリの店舗にする計画だそうです。経営再建中のシャープはさらに3,500人規模の人員削減を進めています。そこで、シャープの本社買収と一緒にシャープのエンジニアも採用し、家電メーカーとして参入してはどうでしょうか。家電業界においては企画やデザインだけを行い、生産設備を持たないファブレス家電メーカー が世界中に増えています。そこで、経験豊富なシャープのエンジニアを採用し、インテリアにフィットするプライベートブランド(PB)生活家電を展開することができれば、ニトリにとって新しい強みになるのではないかと思います(図-11)。
#「高級分野強化」、「川下強化」、「海外強化」、「家電参入」で成長を図る
以上のように、商品単価・客単価の向上については、デザインを強化し中・高価格帯の商品を投入していくことや、トータルコーディネートなどの提案型サービスによる富裕層の取り込みを図る。販売エリアの拡大については、良品計画との統合による海外展開の強化を図る。事業分野の拡大については、シャープのエンジニア採用により、ファブレス家電メーカーとして生活家電に参入するといった戦略で、さらなる成長を目指していく必要があるのではないでしょうか。ここまで成功していると、あまり戦略に手を加えたくないかもしれませんが、国内マーケットは飽和・縮小傾向にあります。そのため新たな成長戦略を取り入れていくことは必要になってくると思います(図-12)。
●まとめ/ニトリホールディングスの戦略案
戦略案1
INDITEX、H&Mモデルを踏襲し、高級ブランドのデザインを取り入れた中~高価格帯の家具を展開する。
戦略案2
「製造・物流・小売」の強みにコーディネート提案力を加え、富裕層セグメントを開拓。自社製品や輸入家具を含めたトータルコーディネートサービスを全店舗で展開する。
戦略案3
良品計画(無印良品)との統合を検討し、海外展開の強化及び製品ポートフォリオの補完・強化を狙う。
戦略案4
シャープ本社ビルの買収とともに、シャープのエンジニアも採用し、ファブレス家電メーカーとしてPB家電を展開する。
(RTOCS® 2015/9/6放送より編集・収録)
※引用元のURLは末尾にあります。
==
●本書籍は以下より購入いただけます。
BBTリアルタイム・オンライン・ケーススタディ Vol.13
もしも、あなたが「ニトリホールディングス社長」「トヨタ紡織の社長」ならばどうするか?
●最新刊(2017年5月26日発売) ※2017年7月11日現在
大前研一のケーススタディVol.30
大前研一と考える“「マツキヨ」「ドンキ」事例で見る小売業の差別化戦略”
●RTOCSバックナンバー
http://www.bbt757.com/pr/rtocs/
==
※本書収録の情報について
■本書はBBT大学総合研究所が学術研究及びクラスディスカッションを目的に作成しているものであり、当該企業のいかなる経営判断に対しても一切関与しておりません。■当該企業に関する情報は一般公開情報、報道等に基づいており、非公開情報・内部情報等は一切使用しておりません。■図表及び本文中に記載されているデータはBBT大学総合研究所が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、当総研がその正確性・完全性を保証するものではありません。■BBT大学総合研究所として、本書の情報を利用されたことにより生じるいかなる損害についても責任を負うものではありません。
==
<本ケースの引用元URL>
■株式会社ニトリ
■ニトリホールディングス IR情報
■ニトリホールディングス 第43回定時株主総会資料
http://www.nitorihd.co.jp/ir/shareholder_board/pdf/no43/explanation.pdf
■株式会社アイク