年明けから著名人謝罪会見のオンパレードとなった2016年ですが、テレビやラジオ、新聞までさまざまなマスコミから謝罪の「評価」が行なわれました。しかし単なる謝罪ではなく、コミュニケーションの一つとして謝罪を戦略的にとらえるなら、世間の判断とは違った評価が見えてきます。
「戦略」を名乗る以上、そこには常識や倫理の正邪を超え、冷徹に達成したい目的意識がなければなりません。現代人は批判を恐れます。もちろん炎上事件のような、業務に支障をきたす騒ぎになれば、それはビジネスのリスクですから回避するのは当然です。しかし一方、いわれのない批判、火のないところに煙を立たせることが出来るのも、現在のネット環境の特徴です。
インターネットが大きな影響力をおよぼす現在のコミュニケーションにおいて、起こってしまった危機にどう対処すべきか、戦略コミュニケーションとして考えます。
1.「必ずミスは起こるもの」というリスク管理の原則
芸能人や政治家など有名人は、有名であるということが仕事の源泉になり、逆にリスクの源泉にもなります。スキャンダルを本人以外が意図的に起こすことも当然可能で、「絶対にスキャンダルを起こさない」ことを目指すのは、リスク管理上間違いです。リスク管理、リスクマネジメント、リスクコントロールと呼ばれるものは、「ミスやうっかりがあってはならない」という精神論ではなく、「ミスやうっかりは『必ずあるもの』」という現実の上に構築されます。大企業や公務員といった巨大組織での不祥事では、必ず「二度と起こさない」と反省の弁が聞かれますが、それはただの根性論にすぎません。完全に100%ミスを防ぐことは不可能です。
ゆえに、本当のリスク管理とは「ミスを起こさない」ことではなく、「ミスが起きてもダメージを抑えられる」ことなのです。精神論をリスク管理に持ち込むことはリスクを増大させることはあっても、リスク削減には寄与しません。ここを間違っている大組織は、特に日本において多いと言わざるを得ません。
2.「ゲスの極み乙女」の川谷さんと戦略コミュニケーション
スキャンダルとそれに伴う謝罪会見ラッシュだった2016年、その主役の一人といえるほどの知名度(悪名?)が広がった代表の一人と、間違いなくいえるのはバンド・ゲスの極み乙女の川谷絵音さんでしょう。紅白歌合戦出場歌手で武道館コンサートまで開く、大メジャーな存在ではありますが、現在の音楽業界のインパクトは、私のように特段興味も持たない人間にはなかなか伝わりません。正直スキャンダルが起きるまで、名前だけは聞いたことがあったものの、その存在や音楽は全く知りませんでした。
恐らく「ゲスの極み乙女」(以下「ゲス」と略)のビジネスターゲットは中年男性ではないと考えられますので、私が知らなくともゲス及び川谷さんの価値は何も毀損されていません。しかし2016年に入ってからのスキャンダル噴出で、その知名度は音楽に無関心だった層中心に爆発的に広がりました。
広がったと言っても、それは悪名。批判的意見以外の評価は全く聞かない川谷さんですが、それでも「勝利」なのでしょうか。本稿は人としての倫理や音楽家としての能力、人格や人徳を何一つ含めず、戦略コミュニケーションの視点で、ビジネスにおけるバリューのみを語ります。
3.スキャンダル後の影響(この先、毒吐きコーナーから有料となります)