米大手航空会社ユナイテッド航空で起きた「乗客引きずり出し事件」。その乗客が流血しながらつまみ出される映像とともに、どうしてユナイテッドのような大手航空会社でこのような蛮行があったのか、さらに社員向けに宛てた同社CEOムニョス氏のレターが批判を呼んでいます。・・・
1.お客を引きずり出す航空会社の流血戦
ショッキングな映像は大きなインパクトを持たらし、世界的な超大手航空会社ユナイテッド航空が、よりによって乗客をつまみ出した事件は大きな注目となりました。「お客様は神様ではない、お客様はお客様」を提唱する私としては、第一報を知った時、てっきり単に乱暴者の酔っ払いが暴れてつまみ出されただけの事件かと勝手に想像したところ、実態は逆に航空会社が乱暴に乗客を引きずり出すという事件だったのです。
勝手にオーバーブッキングして満席の機内で、料金を払って搭乗した乗客に、同社スタッフの移動のために乗り換えを募ったものの誰も応じず、結果として強制指名で今回の被害者の方を降ろしたということです。当然その方も用があって降りる訳にはいかないことから抵抗したものの、最後は力でねじ伏せられ連行される模様が映像となって映し出されました。
ちょっと日本では考えられないことですが、アメリカでも考えにくいことだと思います。この件でテレビ局から取材を受けた際にお話ししたのですが、訴訟社会のアメリカで、罪もない客を暴力で引きずり出すなど考えられないと思うのです。ちなみにこの乗客はアジア系の人で、これまたアメリカでは禁忌の人種問題に派生している状況です。
“political correctness”つまり、人種や宗教、性別といった違いによる差別を禁じるアメリカのスタンダードをインテリは皆心得ています。しかし実際に差別が全く消えているかといえば、それは世界中でやはり存在していることは間違いありません。今回の事件はこのタブーにも抵触していまいました。
2.従業員への手紙にあった「原因」
ムニョスCEOは、事件について同社社員に対して「Dear Team,」で始まる説明を送りました。内容はCNBCなどのサイトで公開されており、私もそれを読んでみました。CNBCのサイトに掲載されている文面を読むと、ムニョス氏のメッセージ自体は大きな問題となる単語は見当たらないのですが、付属する「Summary of Flight 3411」という顛末説明の中に、「その乗客が乱暴でけんか腰(He ・・・ became more and more disruptive and belligerent.)」という表現があります。
また「適正な手続きに(同社社員は)従った(Our employees followed established procedures for dealing with situations like this.)」という言葉がメッセージには入っていました。
ダメですね。
謝罪に関していつも言っていますが、「自己正当化」は謝罪ではありません。ベッキーさんは事件最初の会見(というか、一方的通達だったが)で「誤解を招くような大変、軽率な行為だった」と言い訳し、大炎上してしまいました。後日この「誤解」がウソだったとわかり、さらに炎上に大量の火薬が追加されたのです。
バレるようなウソは論外ですが、仮にそれが真実で正当だとしても、謝罪に言い訳は禁忌なのです。
3.発言の代償
ちなみにムニョスCEO、良いのか悪いのかわからないタイミングで先月、PRウイーク誌のコミュニケーター・オブ・ザ・イヤー“PRWeek U.S.’s Communicator of the Year for 2017”に選ばれたばかりです。コミュニケーションの達人と業界誌が認めるような人がなんでこんなことをやらかしたのでしょうか。
またCNBCはじめ、マスコミはユナイテッド航空の危機管理能力への疑問や、この事件が与えた損失を10億ドル(1,100億円)以上という試算を伝えています。たかだか4人分のスタッフ移動への対応なら、一人1機ずつ特別チャーター機を用意した方が圧倒的に安くついたことになります。
被害者となった乗客を乱暴者であるかのような表現をしたことは言語道断です。しかもそうした表現を社内に向けメール発信すれば、それはまず間違いなく流出するリスクがあります。同社のような巨大企業で、社内メールであっても完全管理下におけることなどあり得ません。こうした情報流出リスクを考えない情報発信もCEOの能力への疑義となっているのでしょう。
4.社員への通知の是非
では今回の事件で、そもそも社員向け説明メールが悪かったのでしょうか?「危機対応は全社で」が大原則です。炎上を巻き起こす組織というのはまず間違いなく風通しが悪く、臭いものにフタ体質です。トラブルやミスに「あってはならないもの」という精神論で対処しようとします。
「トラブルやミスは『絶対に』あるもの」なのです。精神論でしか危機に対応できない組織は組織ではありません。竹槍で戦略爆撃機と戦うことは不可能です。
危機対応の視点から、社員への事情説明はむしろ薦められます。ただし、当然のことながら危機時には情報が錯綜し、まだよく全体像がわかりません。また情報が不足したり間違っている可能性も高く、真実を確かめるにはどうしても時間が必要です。つまり危機発生時の事情説明では、まだ正確な情報がそろっていないのが普通なのです。
ではそんな不正確な情報を流す必要はないのではないでしょうか。そうです、「不正確」な情報は不要です。危機時の情報シェアは正確な情報ではありません。「危機発生」の事実告知です。組織にとっての危機が起きていることを発信するのが最大の目的です。
危機が起こっているのですから、社内全社を挙げて危機に備えなければなりません。その呼びかけこそ、危機発生第一報の目的です。それこそ不用意に不正確な情報で行動したり、間違った情報が流布するのを防ぐためにも、勝手な行動や情報発信を禁ずることが何より大切です。
5.やらかしたことは何?
巨大企業・ユナイテッド航空対個人客という圧倒的な差のある対立で、個人を巨大企業が攻撃すれば、ことの良し悪しにかかわらずイメージにおいて巨大企業側は不利になります。「日本なら「お客様は神様」と勘違いしている馬鹿者が騒ぎ出します。・・・・・ここから先は有料になりますが、特段超絶なノウハウがある訳ではないこと、先にお断りします。毒吐きコーナー読みたい方はぜひご一読いただければ幸いです。(作者・増沢)