劇場版『機動戦士ガンダム』Last Shootingの輝くまで 第7回

第7回 どうまとめた? 劇場版『機動戦士ガンダムⅡ 哀 戦士編』(その2)

 引き続き劇場版2作目『機動戦士ガンダムⅡ 哀 戦士編』のまとめ方について述べていこう。

(5)ランバ・ラル部隊の白兵戦

 第20話を中心にまとめている。この回はTV版でもセイラとランバ・ラル、その幼少時や前後のアムロなど重要な部分に安彦良和が作画監督修正を入れている(ノンクレジット)。その結果、新作ともスムーズにつながっている。アムロが兵士と直接対決する場面でブライトが敵兵の頭部に直接銃を突きつけて射殺するなど、TVでは放送コード上難しい戦場の過酷さを示す表現が追加されているのも、劇場版用新作の特徴だ。

(6)オデッサ作戦開始

 第25話のオデッサ作戦開始から逆順の編集で、第24話のガンダムパワーアップ話に続いていく。TVではカメラがホワイトベース部隊を主役としてとらえていたが、映画では「あくまでも大部隊の脇役」とする、方針変更によるものだ。

 ここでは劇場用の新メカ、コア・ブースターが新作なのはもちろん、セイラとマチルダ中心に作画が刷新されたことで、印象がだいぶ変わっている。第24話は修正による安彦良和作画監督回のため、活かされたカットも多い。黒い三連星の襲撃は「オデッサ作戦」の中のごく一部と位置づけられ、マチルダの死の瞬間をアムロが幻視するなど、ニュータイプ描写も前倒しで登場。セイラの援護もあって三連星は生き残ることなく同時に敗退、テンポよく次のドラマへ続いていく。

(7)ハモンの急襲

 マチルダの死に呆然とするアムロ。新作に第24話の放射能洗浄室の回想が入り、さらにハモンの接近を予知するという驚きのマッシュアップ的な編集である。そして一気に第21話のハモンのマゼラ・トップ特攻シーンへと移行する。時系列的にはTV版に比して入り組んだ構成になっているが、フィルムの流れとイベントの重みを考えての措置である。

 リュウの決死の突入で阻止されるところは同じだが、その瞬間にニュータイプのスパークが走り、マチルダの顔がそこにインサートされるなど、劇場版で初めて登場するビジュアルが衝撃的だ。

(8)オデッサ作戦終結

 エルラン中将の裏切り、水爆ミサイル発射などを描いたTV版の第25話は、ほぼ使われていない。鉱山を放棄するマ・クベの捨てゼリフ、ハヤトとアムロの衝突、荒野に散乱した戦禍の爪あとなどを新作したうえで、第24話のマチルダ哀悼シーンをオデッサ作戦全体への哀悼として使い、アムロの内心の絶叫を前半の締めくくりとしている。

 第16~25話の中では第22話(安彦良和作画監督回)と第23話がほとんど使われていない。しかし本作の予告編のみ22話から一部戦闘シーンが使われているので、編集時に外されたのかもしれない。

(9)ベルファスト基地の攻防

 ベルファスト基地へホワイトベースが寄港し、映画は後半戦となる。第26話相当のレビル将軍から全容の説明、復活したシャアがゴッグを送りこむ等のイベントと、カイがホワイトベースから降りてしまう第27話のシークエンスをシャッフルしながら、ひとつの流れにまとめている。ゴッグは上陸前にコア・ブースターに破壊され、第26話の地上戦、海中戦はほぼカット。26話は19話に続く、安彦良和第一原画回なので少々残念である。

 代わりに第27話のカラハがズゴックで急襲する地上戦シークエンスを中心としている。ここではミハルの密航を際だたせるため、ガンダムが修理中でなかなか出撃できないというサスペンスを強化し、戦闘自体も簡素化してストーリー展開を優先している。

(10)ミハル、大西洋に散る

 レビルの命令どおり南米に向かうホワイトベース。第28話をベースに密航したミハルとカイの一部が新作に置き換えられている。この回にもTV版ですでに安彦良和の作画修正(ノンクレジット)が多く入っているので、ミハル散華を代表とするTVの安彦カットの大半が活かされている。映画全体でガンダム出撃場面を減らし、ドラマ部を際だたせつつテンポアップするため、グラブロはガンダムとは戦わず、コア・ブースターに撃破されてしまう。慚愧の念に囚われるカイは完全新作で、ミハルの幻想ともども映画の宣伝用ビジュアルにも使われていた。

(11)南米ジャブローへの到達

 ついに地球降下初期からの目的地であった南米・地球連邦軍本部ジャブローに到達したホワイトベース。しかし、シャアの潜水艦マッドアングラー隊が密かに追尾していた。第28話と第29話は安彦良和作画監督回が連続しているため、モルフォ蝶など南米の美しい自然ビジュアルは、TVシリーズのまま引き継がれている。身体検査もレビル将軍に明確に「ニュータイプの検査」と言われてはいるが、お役所仕事的で真偽が定かでないとされているのがユーモラスだ。

(12)シャアの潜入作戦

 第28話のゾッグによるジャブローの位置特定の結果、第29話のシャア専用ズゴックとアッガイ部隊が潜入に成功するという具合に2つのエピソードをリミックスし、ジオン軍のジャブロー攻防戦がボリュームあって激しく展開するという構成をとっている。カツ、レツ、キッカの活躍で爆弾を取り外したことをきっかけに、ガウ攻撃空母からミサイルが一斉射撃されるあたりで、本作の主題歌である井上大輔の『哀 戦士』の激しいリズムがインサートされ始め、興奮を喚起する。

(13)ジオン軍の降下部隊

 シャアとセイラの再会(第29話)を経て、攻防戦は総力戦に近くなっていく。ジオン降下部隊は第28話の映像を新作で強化している。特に「降りられるのかよ!」というジオン兵の絶叫が『哀 戦士』の歌唱に重なって強い印象を残すが、実はTV版第28話ではシャア専用ズゴックの降下シーンに相当する。劇場版ではこのときシャアは地底にいるための調整だったが、主題歌のおかげで歴史に残るカットとなった。このブロックではジャイアント・バズを持つグフなど珍しい装備も見ることができるが、これは現存する原画から、ドムから描き変えたものだと確認されている。地表にいるGM(ジム)の原画もガンダムに変更されているが、カットのつながりによるものと思われる。

(13)シャアとアムロの再戦

 アッガイ部隊の壊滅を見たシャア(第29話)は地底で猛攻を開始。ガンダムの生産タイプGM(ジム)を目がけて必殺のクローを放つ(第28話)と、逆順につないでシャア専用ズゴックの戦闘力と、赤いMSを発見したアムロの衝撃を強化している。宿命のライバル、シャアとアムロ。二人の激戦は第28話を中心に第29話を交え、ニュータイプのスパークや地底洞窟を破壊するカットなどを新作で補強している。岩石がガンダムの頭部を直撃するユーモラスな描写も追加されていることもあって、かつての印象が刷新されている。

(14)エンディングは宇宙(そら)へ……

 第29話の子どもたちの決着に連邦軍上層部から「ホワイトベースを囮部隊とする」との決定が重なる。悲喜こもごもの中、エンディング曲(インストゥルメンタル)がスタート。これはスコアリング(映像に音楽を合わせる手法)で作曲されていて、次回の音楽方針を先取りしたブリッジにもなっている。

 第30話の飛翔するフラミンゴは、当時新人原画マンだった板野一郎入魂の作画をそのまま使用。大自然の中、ジャブローから宇宙へ発進するホワイトベース。そしてザンジバルに乗ったシャアの追撃と、クレジット部分の時間も無駄にせず、物語が続いていく。兄シャアのことで憂鬱なセイラ、新たに参加したスレッガー中尉と新作を交えながら、宇宙空間にララァの呼び声が重なり、第3部への期待を盛りあげつつ映画は終わる。(文中:一部敬称略)

【2007年9月3日脱稿・2017年6月15日加筆】初出:劇場版『機動戦士ガンダム』公式サイト(サンライズ)