アフターコロナの商機をつかむ!~変革の時代に立ち向かう挑戦者たちSP/カインズ・エフピコ/読んで分かる「カンブリア宮殿」

売れ筋が大きく変化?~王者カインズの戦略

経済に大きなダメージを与えたコロナショックが、消費の現場に変化を起こしている。

大人気のホームセンター埼玉・新座市のカインズ新座店。店には多くの客が詰めかけ、日常を取り戻したかに見えるが、コロナ前と比べて売れ筋商品が大きく変わったという。

例えば、自宅で料理することが増え、燻製用調理器具の売り上げが3倍に増えたという。意外なところでは砂。遊びに行けない子供のために、ベランダなどに砂場を作る人が増加。売り上げが1.2倍になったという。ほかにも、子供に勉強を教えるためのホワイトボードが売り上げ2倍になるなど、コロナ前と比べて、売れ筋商品がガラリと変わったのだ。

全国218店舗。カインズは人気のDIY商品はもちろん、ワインに神棚まで。商品アイテム10万点を超える大人気のホームセンターだ。

客を魅了するのは圧倒的な品揃えと安さ。例えばフライパンだけでもおよそ100種類が揃う。セラミック製から人気のストーンマーブルまで。しかも値段は498円から。およそ50種類が揃うのが釘。98円で50本だ。

品揃えと安さを武器に売り上げは今や4400億円。今年、売り上げナンバーワンのホームセンターに登りつめた。

数ある商品の中でも特に人気なのが、洗濯物の取り込みを劇的に早くする「取り込みやすいハンガー」(2980円)。ポイントははさみの先端部分についたローラー。洗濯物をしっかり挟んでいるが、片手で引っ張るだけで簡単に外れる。ローラーが回るから、引っ張っても生地を傷めない。もう一つはごろ寝用のマットにもなる「ロングフロアクッション」(3460円)。多い月には4万個も売れたという。

カインズ会長の土屋裕雅(53)は、「掃除・洗濯・料理は、ほぼ毎日のことなので、そこがちょっと改善するだけでも楽になって楽しくなる。そういう商品を作り出したい」と言う。カインズが業界トップとなった原動力は、安いのに便利な独自商品にある。時代ごとに変わっていく客のニーズを捉えた独自商品はいまや1万3000点に上る。

しかも品質には徹底的にこだわっている。通常は外部に委託する商品の耐久テストを社内で行うための、専門の部署まで作った。レンジの扉を延々と開け閉めするテストはJIS規格の2.5倍の1万3000回。フライパンの耐久テストでは醤油や砂糖などをあえて焦がして、焦げ付きのチェックも行っているのだ。

品質の基準がない項目でも、カインズは独自にテストを行った上で販売している。

「焦げ付き5回、空焚き50回。商品になるための登竜門です」(品質保証部・根岸浩美)



買い物の常識が変わる~密接を解消する新サービス

カンブリア宮殿にカインズが登場したのは2014年。驚きのアイデア商品に村上も小池も圧倒された。そのカインズは今、アフターコロナに向けた新商品の開発を急ピッチで進めている。

商品の最終確認が行われていたのは、くさびをはめて組み立てる棚「くさびラックセット」(598円~)。ステイホームで部屋の模様替えをする人が増えたため、手軽に作れる棚を開発した。飾る物や置く場所によって自由に形が変えられる。

簡単に貼って剥がせる「貼ってはがせるフリース壁紙」(2980円)も。「リモートワークの背景をオシャレにしたい」という声を受けて開発した。さらには手が触れる所に貼る「抗ウイルス抗菌シート」(980円)まで。こうした「アフターコロナ」向けの商品開発を通常の3倍のスピードで進めているという。

「緊急事態だからこそ我々に頼ってきてくれているということをひしひしと感じたので、いち早くお客に届けたいです」(ライフスタイル事業部・井田明)

その一方で、カインズは、客の買い物の仕方まで改革しようとしている。

「より安全で安心な買い物を提供する。それと同時に、お客と今までにない繋がりを作っていく」(高家正行社長)

お客との繋がりを持つサービス。それが今や130万人が利用する売り場案内サービスだ。広くて商品数が多いカインズでは、欲しい商品の場所まで従業員が案内することも多かった。しかし今、なるべく人との接触は避けたい。そんな客の不安を解消する仕組みだ。

店に入るとまずスマホのカインズのアプリで買いたい商品を検索。「売り場を探す」というボタンを押すと、店内の見取り図が表示され、欲しい商品がどこにあるかが分かる。

さらに店での滞在時間を減らすサービスもある。オレンジのロッカーにスマホをかざすと、ロッカーの鍵が開く。ネット注文した商品を早ければ3時間後に受け取れる取り置きサービスだ。夏にはクレジット決済も可能になるので、レジも通らなくて済むようになる。

さらにカインズは思い切ったことを決断した。内定を取り消された人や職を失った人、およそ3000人の雇用だ。今回の事態を受けて急遽、募集を始めた。ただ商品を売るだけではない。地域の暮らしを守ることも企業の使命だと、土屋は考えている。

「コロナの影響によって閉めなくちゃいけない産業の方もいらっしゃると思います。我々のできる地域の貢献として、ぜひ一緒に働いていただきたい」(土屋)



客激減で売上高9割ダウン~飲食店が頼るお助け企業

コロナショックで、もう一つ大きく変わったのが、客が激減した飲食店が続々とテイクアウトを始めたこと。

淡路島直送の食材を使った料理で人気の居酒屋「淡路島と喰らえ」新宿西口店。コロナの影響で売り上げは去年より9割もダウンした。そんな現状を打開しようと、この店が4月から乗り出したのが、テイクアウトだ。始めるにあたって一番こだわったのは容器選びだったという。

「特に和食、器も込みでの見栄えもあるので、その中で一番イメージに近いものが探せました」(店長・渡辺将さん)

例えば、店の看板メニューでもある魚を一本丸ごと使った刺身盛り「名物一本魚」(2900円)用に選んだのは「舟盛り型」の容器。これなら食卓にそのまま出しても見栄えは十分。リピーターも増えているという。

「この一本魚の刺身がテイクアウトにできたのは、うちの店舗としては大きいですね。一つのうりなので。店の良さもわかっていただけると思う」(総料理長・五味祥夫さん)

淡路島名産の玉ねぎをふんだんに使った「淡路島カレー」の容器は、フライドオニオンのカリカリ感を保つため、ルーを別の容器に。しかも、横にしてもまったく漏れない。

こうした容器で悩める飲食業界を支える注目の企業が、食品トレーの王者エフピコだ。

東京・港区のスーパー「クイーンズ伊勢丹」白金高輪店を覗いてみると、寿司のトレーもカットフルーツの容器も全てエフピコ製。スーパーやデパートなどの小売店が使うトレーだけで1800億円を稼ぎ出す、知られざるガリバー企業なのだ。

最大の特徴は、料理を作る店側も買う客側も満足させる他にないトレーの開発にある。

例えばスーパーでお刺身を買って帰った際、ありがちなのがずれて片寄ってしまうこと。 しかし、エフピコのトレーなら揺らしても中身がずれない。その秘密は容器の底に。4つに仕切られていて、それぞれの四隅に出っ張りが付いている。この出っ張りがストッパーになるから、揺らしてもずれないのだ。

働く人にありがたいトレーもある。1回押すだけでピッタリ閉まる。だからテープで止める必要がなく、作業の負担が大幅に減る。

「作業の手間としてはすごく楽です。簡単に誰でもできる。それに尽きます」(惣菜チーフ・片岡結梨恵さん)

このテープ要らずのトレーを進化させたものも。コンビニなどの弁当が大盛り化しているのに対応した最新作だ。四隅に付いている凹凸がふたをするとパチッとはまる。これで従来の2倍の強度を実現した。

料理をおいしくするトレーも開発していた。その一つが底がギザギザになっているトレー。唐揚げを乗せてレンジで温めてみると、トレーの底の溝の部分に揚げ物から出た油がたまっていた。この容器なら表面がベチャベチャにならず、揚げ物がおいしく食べられる。



時代の変化をチャンスに~便利すぎる最新食品トレー

カンブリアがエフピコを取り上げたのは10年前。さまざまな舞台裏に密着し、知られざるトレーの世界を紹介した。世界に類を見ないほど進化した日本の食品トレー。その進化を牽引してきたのが創業者の小松安弘だった。

小松は食品トレーがまだ紙だった時代にエフピコを創業。日本の食品トレー業界を常にリードしてきた。その原動力は、小松のポリシーである「変化を見逃さない」ことにある。

小松は朝、車に乗った途端、電話をかける。「何か変わったことはないか?」と、出勤の間、ずっと社員に電話をかけ続ける。車を降り、自分の席に着いてもまだ終わらない。常に危機感を持って、小さな変化を見逃さないようにしているのだ。

「良いことは聞かなくてもいい。悪いことを言え、心配事を言ってこい、と。黙っていたら大きな問題になると言ってるんです」(小松)

変化を察知するため、とにかく現場に出る。「容器の使い方に変化がないか見ている」と言う。こうして常に時代に必要なものを読み取り、それに合った商品を生み出してきた。

例えば女性の社会進出がうたわれた1980年代。家事の負担を減らすため、スーパーが調理済みの総菜に力を入れ始めると、その変化を見逃さず、いち早くある商品を開発する。それがカラートレー。それまで白一色だったものをカラフルにすることで、食卓にそのまま出せると考えたのだ。

生魚の調理が苦手という女性が増えて、スーパーが切って盛り付けた刺身を売るようになると、小松は再び動く。より見栄えのする、華やかな和食器のようなトレーを開発した。

3年前に亡くなった小松の後を引き継いだのが、2代目の佐藤守正社長だ。佐藤もまた変化を読む小松イズムを受け継ぎ、アフターコロナに向けた仕掛けを作っていた。

「今回のコロナは、去年までは全く予想していなかったことですから、そうした変化に対して、何ができるのかを常に考えておく」(佐藤)

佐藤がコロナ前から仕掛けて、いま絶好調の分野が飲食店向けトレーの販売サイトだ。

始めたきっかけは去年の軽減税率の導入だった。テイクアウトが増えると見越して商品数を増やし、今やその数5800アイテムに。

最近売れているのが、見た目は高級感のある折り箱のようなデザインのトレー。最大の特徴は分解ができてること。しかも外枠はたためる。これならかなりコンパクトになり、置き場所に困っている小さな飲食店に好評を得ている。

また、最近開発されたばかりのラーメン用には、保温性の高い発泡素材が使われている。だからスープも冷めにくいし、麺はスープと別なので伸びにくい。テイクアウトでもできたての味が楽しめる容器だ。しかも個人飲食店向けに、小ロットからでも注文できるようにした。

新事業はコロナショックにより、月4000万円以上を売り上げるビジネスに成長した。

エフピコ営業部の楠本尚史と松下江里加が向かったのは、新型コロナをきっかけにテイクアウトを始めた居酒屋。そして、使っている容器について聞き込みを始めた。すると、今の容器だと、重ねて持ち帰る時に倒れないか心配だという。実際に使う中で見つかる改善点を次の商品に生かすため、小さな取引先にも足を運ぶ。

それから1ヵ月後。東京・新宿区のエフピコの本社を訪ねると、テイクアウト用にさらに改良した容器の試作品の最終確認が行われていた。

容器を重ねるとつながっている。その秘密は容器の底にある突起。これがふたにつけた溝とぴったりハマる。これなら持ち帰る時にも外れない。

お客の声を聞き逃さず、素早く形にする。これがエフピコの強さの秘密だ。



仕事を続ければチャンスも~危機に立ち向かう挑戦者

都会より感染者が少ない地方でも、新型コロナの影響は深刻だ。

岩手・二戸市で岩手名物の「南部せんべい」を作っている小松製菓。さまざまな味の南部せんべいを開発し、シェア5割を占めるトップメーカーだ。

ところが、倉庫を見せてもらうと山積みの段ボールが。「ゴールデンウイーク用に準備したのに出荷できなくなったんです」(会長・小松務)という。外出の自粛で観光客が激減。お土産用の出荷がストップしたため、売り上げが5割も落ち込んだ。工場のレーンも半分が停止となった。しかし、仕事を休むという決断はしなかった。

「社員はパートも含め、仕事がないと不安になるんです。不安を持たせないことが経営の一番のポイントだと思います」(小松)

営業担当は取引先のスーパーに行かせた。少しでも力になれればと無償で掃除をした。一方、手の空いた製造担当には新商品の開発を指示。するとこれが思いもよらない展開を生む。新商品はその名も「バリバリ元気」(230円)。免疫力を高めると言われる乳酸菌が1枚に100億個入っているという、日本初の健康志向の南部せんべいだ。 

コロナなんかに絶対負けない。こうした挑戦が全国各地、さまざまな場所で始まっている。



~村上龍の編集後記~

カインズでは、先代・土屋嘉雄氏が「ロープライス保証」など革新的な試みを行ったが「商工分離」と主張し、プライベートブランドには反対した。それを裕雅氏はあっさりと覆し、成功した。

エフピコの小松安弘氏は毎日、主だった部下に電話した。「変わったことはないか」と聞いた。危機は必ず小さな変化として現れる。金山への投資で大失敗したあと、世の中いいことなんか起こりはしないと危機感の塊となり、トレーが夢に出てくるまで、トレーのことを考えるようになった。

先回りして危機感を持つ、両社の共通点はそこにある。

<出演者略歴>

土屋裕雅(つちや・ひろまさ)1966年、群馬県生まれ。1990年、早稲田大学商学部卒業後、野村証券入社。1998年、カインズ入社。2002年、代表取締役社長就任。

2019年、代表取締役会長就任。

小松安弘(こまつ・やすひろ)1937年、岡山県生まれ。1960年、日本大学経済学部卒業。1962年、福山パール紙工(現エフピコ)創業。2009年、代表取締役会長兼最高経営責任者就任。2017年、死去。

(2020年7月9日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)