あなたの会社は大丈夫か?体操協会が試される真の組織防衛とハラスメント対応の実際

オリンピックでの活躍が期待される宮川選手へのパワハラ問題は、選手自身がコーチによるハラスメントを否定し、逆に懲罰に動いた体操協会を糾弾するという二転三転の様相を示しました。実はハラスメントの現場ではあり得る事態です。ハラスメント対応に失敗して組織崩壊に近い状況に陥った組織が今年は多々出ています。ご自分の組織は間違った対応をしていないでしょうか?

1.イケメン無罪は成り立たない

今年の春、反則タックル問題がクローズアップされて以来、危機対応や危機管理コミュニケーションの一環として、ハラスメントセミナーであちこちから呼ばれています。そんな中で良く聞かれる質問に「本人が(ハラスメントだと)とらえていない場合もハラスメントなのか?」というものがあります。

結論を申し上げれば、「本人の受け止め方」とハラスメントは直結しません。今回の体操の練習において体操協会は、コーチが他の選手や関係者のいる前で、宮川選手に暴力をふるったと認定しました。これが事実であれば、ハラスメントと断定するのが正しい判断です。宮川選手が言う「信頼関係があり、危険指導の中で激しく叱られただけ」という訴えは、ハラスメント否定にはなりません。つまり体操協会によるコーチへの懲罰も正しいことになります。もっともその懲罰の軽重について、永久追放が適切かどうかは協会の問題です。

「○○ちゃん、新しいヘアスタイル色っぽいね」などと、女性の容姿について職場で言及すればセクハラという認識はかなり広まっています。しかし一方、同じことを言っても、イケメンなら無罪、ブサイクなキモ親父なら有罪などと揶揄されますが、これは間違いです。男性であれ女性であれ、その容姿に関しては制服着用などの業務上必要でない限り、それを言った人がイケメンだろうと美人だろうと誰だろうと、「全員アウト」なのです。

2.体操協会強化本部長によるパワハラ

今回の事件は、単にコーチによるパワハラのように当初は伝わっていましたが、その宮川選手自身がわざわざ記者会見まで開いて意見表明したことで、様相が変わってきました。コーチへの懲罰が厳しすぎるという擁護と、それより体操協会の塚原千恵子強化本部長と、その夫である光男副会長からの脅しというハラスメントがあったことが告発されたのです。

宮川選手の会見後、記者会見を開いた体操協会は、上記で述べたようにコーチの行為は選手の意思に関係なくハラスメントであると認定したことを述べた一方、宮川選手のいう本部長と副会長によるハラスメントについては告発がないのでわからないと、対応を否定しました。

宮川選手は恐怖を感じるほどの塚原本部長夫妻の脅迫的言辞によって、塚原本部長自らが女子監督を務める朝日生命体操クラブへの移籍を強く勧めたことを告発しました。これが事実であれば重大なパワハラに該当します。「オレの言うことを聞かなければ評価を落とす」という脅迫を部下にする上司という、わかりやすいパワハラ・セクハラと全く同じ構図です。脅迫的な言葉を浴びた本人からの告発ですから、組織は当然このパワハラについては即時対応をしなければなりません。

ちなみに平成29年の改正育児・介護休業法及び改正男女雇用機会均等法は、マタハラを禁じるだけでなく、組織に対しその防止措置を義務付けるという、一歩進んだ対応を求めています。本件はマタハラではないものの、世間一般での潮流は、ハラスメントを禁止するだけでなく、根絶へさらに積極的に進めるようになっています。

3.組織が問われる責任と対応

今どき大企業やオリンピック日本代表を決めるような大きな組織であれば、ハラスメント通報など組織上の対応体制はあるはずです。しかし反則タックル事件では、人事担当常務理事自らが招いたハラスメントということで、「通報体制」があっても、それは全く機能しませんでした。

ハラスメントが起きやすい組織土壌では、名目上の理事とか取締役などが通報窓口に一本化されているため、通報先が問題を起こした時に全く機能しないのです。人事部門がやらかしたハラスメントを人事部門に通報などできる訳がありません。あるいは社長など経営トップを通報先にしてしまうと、社長に直接連絡ができるシステムでもない限り、確実に形骸化し機能しません。もちろん社長自身の起こしたハラスメントには何の対応もできません。

今回ここまで大ごとになった以上、体操協会は「(選手からの)通報がない」などの逃げは一切通用しません。同様にレジェンドである伊調選手がパワハラを訴えた際、ろくな調査もしない内にハラスメントの存在を否定するコメントを出してしまったレスリング協会の例があります。こうならないためには、即座に副会長と強化本部長の塚本夫妻への事情聴取を行うべきです。

対応に失敗して組織に甚大なダメージを負わせてしまったのが今年のスポーツ界です。ここで「選手からの告発待ち」のようなお役所対応ではなく、即座にハラスメントの芽を摘み取るべく動くことで、体操協会はレスリング協会やアマチュアボクシング協会のような、組織崩壊から身を守ることが出来るかも知れません。

組織を守るには、トカゲのしっぽ切りではなく、腐った頭切こそ欠かせないのです。