題名:どこまでも人を信じる主人公に重なる監督の姿
主人公クオンの髪型を初めて見たときには、激しい衝撃を受けた。迫害される特殊能力者集団のリーダーならやはりこの髪型なんだと、微笑しつつ納得する。『超人ロック』や『地球へ…』など懐かしい作品を連想したわけだが、リスペクトとかお約束とか、そんな生やさしいものを超えた、必中の「覚悟」のような感覚も同時に伝わってきた。
キャラクターデザインは川元利浩だが、髪型は原案・監督の飯田馬之介のチョイスだと言う。その飯田監督は2011年11月に亡くなり、本作が遺作となった。盟友もりたけし協力監督によって遺志が引き継がれ、精鋭集団ボンズが全6話を着実に完成させつつある。美麗なデザインと作画、変身ヒーローの爽快な肉弾アクションなど、本作には誰もが待ち望んだアニメの魅力が満載だ。だが物語が進むにつれ、飯田監督の遺した「命がけのメッセージ」の全容が明確化し、この作品だけの特別な感触が際立っていく。それは第三章「夢幻の連座」で、クオンと敵側のイプシロンの過去が描かれる展開を通じ、特に強く感じた。
クオンの過去パートは、やはり盟友の樋口真嗣が絵コンテを担当して凄絶な迫力が宿っている。クオンが仲間を信じ、仲間も応える構図は現実とも交錯しているわけだ。飯田馬之介監督と言えばOVA版『デビルマン』で、「続きが見たかったな」という渇望の一部も充たされる。
何よりも苦難と痛みを背負いながら困難に立ち向かい続け、同時に仲間には明るく優しく広い心で接する主人公クオンの姿勢が、飯田監督本人の生前の姿と次第に重なってきて、胸がしめつけられた。
飯田監督は軍事やSFや特撮・アニメに関して博識なアイデアマンで、豊かな映像の才能と繊細な感性をもちあわせていた。その明るい笑顔と性格は、いつも周囲をなごやかにし、誰に対しても励みになる声をまめにかけていた。私事で恐縮だが、筆者の家内が不調なときには療養情報とともに、熱い激励の言葉を送っていただいた。それがどれだけ我が家の支えになったことか。しかしその後のことを考えれば、他人のことなど心配している場合ではなかったはずなのに……。それなのに……。
自分がどんな苦況にいても、周囲を優先に考える飯田監督の姿勢、それがクオンには投影されていると思う。外見は本質ではない。もしクオンの滅私的な信念や理想を追う行動に対して「こんなヤツいないよ」と言われたら、「いや、現実にいる。だからこそ、こんな作品がつくれるんだ」と全力で言い返したい。
人と人との心が時間や空間を超えてつながり、有機的に何かを紡ぎ出してこそ、「永遠(とわ)」も「久遠(くおん)」もある。そんなメッセージは口にするとストレートすぎて恥ずかしいが、アニメなら大声で言える。ならば飯田馬之介監督の最後の叫びを、こちらも全力で受け止めたい。『トワノクオン』とはそんな風に思える、希有な作品である。
【2011年8月25日脱稿】初出:月刊ニュータイプ2011年10月号(KADOKAWA)