客よし、店よし、地方よし!アンテナショップ型居酒屋チェーン・ファンファンクション/読んで分かる「カンブリア宮殿」

無名な町や村が店名に~“地方のお宝発掘”酒場

夜の東京・日本橋。再開発が進む表通りから一本道を入ると、そこは飲食店が軒を連ねる隠れたグルメの激戦区。そんな中、ちょっと変わった居酒屋を見つけた。

店名は「佐賀県三瀬村(みつせむら)ふもと赤鶏」。「ふもと赤鶏」の焼き鳥は、きめ細かな肉質とうまみが濃いこの店の看板メニュー。「おまかせふもと赤鶏串盛り(7本)」は1080円。

この「ふもと赤鶏」を生み出したのが佐賀県の三瀬村。新鮮な肉が現地から直接届けられる。「この店に来て初めて三瀬村という名前を聞いて、こんなにおいしい料理が食べられるところだと初めて知りました」「ここで食べたものが本当にそこの町にあるのか、行ってみたくなります」という客の中には、スマホを取り出して場所を探り始める姿も。ここは無名な地方の村が、話題の中心となる居酒屋なのだ。

同じく、あまり耳にしない自治体を店名にしている店、「北海道八雲町(やくもちょう)」日本橋別館も大賑わい。自慢は大振りのホタテ。北海道の八雲町という町から新鮮なホタテが届けられる。

おすすめは、ホタテの卵巣にヒモ、貝柱と、3つの部位を盛り合わせた「手の掌ホタテ刺し~肝付き」(1058円)。店の昆布醤油も八雲町産だ。

炉端焼きも人気メニュー。丸々一本焼いているのは「八雲町産軟白ねぎ一本焼き」(529円)という八雲町の特産ネギ。「ハウス栽培している。直射日光を当てると辛くなるので黒いビニールで日光が当たらないように覆って育てている」という。さらに「ナガツカ一夜干し」(1382円)は、ナガツカという深海魚を串刺しにして丸焼きにしたものだ。

店内を見回すと、壁に貼ってあるのは、この店に魚を提供している八雲町の漁師たちの写真。そして店内には醤油やサケ節など、名産品の販売コーナーが。八雲町をPRする様々な仕掛けがある。ここは自治体公認のアンテナショップ型居酒屋という新しい形態の居酒屋なのだ。

このアンテナショップ型居酒屋を作ったのは日本橋にあるファンファンクション。2006年設立、社員70人の若い会社だ。

アンテナショップ型居酒屋という新しい形態を一から作ったのは社長の合掌智宏(39歳)。現在、ファンファンクションは、福井県美浜町(みはまちょう)や高知県の芸西村(げいせいむら)など、9つの自治体の公認を受け、日本橋を中心に16店舗を展開している。

全国の自治体が熱視線~地方創生のご当地酒場

「北海道八雲町を最初に知った時に、一番感動したことは、聞いたこともない町にすばらしい産品があることに感動して、その食材を使ったお店があると面白いと思って作りました」と言う合掌。自治体とはお互いに連携協力し合うという協定を結ぶ。ファンファンクションが店を使って自治体をPRする代わりに、自治体は窓口となって、町の自慢となる食材や生産者を紹介する、という取り決めだ。町は食材を通じてPRができるし、店にとっては、珍しい良いものが、手に入る。

協定を結んでいる北海道南部の八雲町は、人口およそ1万7000人の小さな町。ファンファンクションが八雲町から公認をもらって今年で8年目になる。合掌は機会があるごとにこの町を訪ねている。

「最高にいい仕組みだと思う。合掌社長の店が続いていくことで、八雲の食材の価値が上がっていく。かなり期待している」(岩村克詔町長)

そんな期待と実績もあり、ファンファンクションにはいい食材が優先的に提供されている。八雲町のホタテは、直送してもらうことで、築地を通すより3割ほど安く仕入れることができる。

さらに町のPRだから、東京にはない珍しい食材も紹介してもらえる。その一つがあの軟白ネギだ。八雲町の軟白ネギは北海道以外には流通していなかったという。特別にファンファンクションにだけ、卸したのだ。

「知名度を上げたい。軟白ネギは北海道内の消費だけで道外の消費はなかった。知ってもらうってことが第一」(佐々木農園の佐々木尚志さん)

手を組んで8年。その効果について岩村町長は「一番はふるさと納税。居酒屋に行く人は、食べておいしかったらふるさと納税を寄付しようかと思うから。えらい効果」と言う。

いま話題のふるさと納税。八雲町も海産物や畜産品など、様々な返礼品を用意しているが、わずか150万円だったふるさと納税の金額が、今や11億円を超えている。

ある日、日本橋にある八雲町の店にやってきたのは、その八雲町の漁師たち。持ってきたのは、この日の朝水揚げしたばかりのホタテだ。大事に育てたホタテをタダでふるまい、お客の評価を聞きたい。そんな機運も生まれた。

「おいしい」「甘い」というお客の評価に、「今日、お客を相手にうまいと聞いただけで、PRした甲斐があった。たくさんの人に知ってもらうことで結果が出てくると思う」(漁師の花田邦彦さん)

喜んでいるのは、生産者や自治体だけではない。ファンファンクションの売り上げも右肩上がりで、今や15億円に迫ろうとしている。

「我々が存在することで客からも生産者からもありがとうと言ってもらえる。これがスタッフのやる気になりさらにいいサービスを提供する源泉になる。三方良しです」(合掌)

ミシュランも太鼓判~ご当地酒場の誕生秘話

合掌は1977年、福井県に生まれた。専門学校を卒業後、実家の電気工事店や地元福井の飲食店で働いた。その後上京し2005年に独立、八重洲にホルモン焼きの店をオープンした。4年で3店舗を展開するなど商売は順調だったが、店にこれといった特徴はなく、内心不満をもっていた。

ちょうどそのころ転機が訪れた。きっかけはある食材との出会い。北海道八雲町に転勤になった幼馴染があるものを合掌の元に送ってくれたのだ。その味に衝撃を受けた。

「ホタテが本当においしく衝撃でしたね、当時。築地に行けば仕入れることができるだろうと築地の店を回ったが、ない。ないのは残念だったが、逆にチャンスだと思った」(合掌)

八雲町の食材を使い、なおかつ無名の町をPRする店ができたら、面白いんじゃないか。合掌はすぐに役場と連絡を取った。

現地に乗り込んだ合掌。そこには役場の職員、漁業や農業の生産者など、多くの関係者が待ち構えていた。だが、「八雲町のおいしい食材を提供し、町をPRする、八雲町公認の居酒屋をやりたいんです」という合掌に、生産者からは「八雲町公認って、どういうことなんだ?」「補助金をかすめ取ろうっていうんじゃないのか?」と、懐疑の声が上がった。

その時、1人の役場の職員が立ち上がった。「確かに、合掌さんがどんな人でどんな店をやりたいのかも、わからない。だけどいまのままで、東京で八雲町が話題になることは、絶対にありません。前向きに考えましょうよ」。

合掌に助け舟を出した八雲町の荻本和男さんは、「八雲はこんなにいいものがありながら名前が知られていない。絶好の機会だと思う生産者も何人かいたんです。ぜひそこに乗って、町のブランド化が図れればいいな、という思いを持ちながら」と語る。

その後交渉を重ね、合意を得た合掌は、2009年、初のアンテナ型居酒屋「北海道八雲町」を日本橋にオープンしたのだ。

合掌が作った中には居酒屋にもかかわらず「ミシュランガイド東京」に紹介される店も。ビブグルマン、5000円以下でも良質な料理を堪能できる店というカテゴリーだ。

「カキ酒場北海道厚岸(あっけし)」。ミシュランが注目したのが生ガキだ。水温の低い厚岸は、日本で唯一、1年中カキが出荷できる。季節を問わずに生で楽しめるのだ。

美味しいカキが獲れる厚岸町は、北海道の東部にある太平洋に面した人口1万人ほどの町だ。3月、東京の店のスタッフが厚岸にやってきた。

ファンファンクションでは、食材の知識を身につけさせるため、店舗スタッフに必ず現地で研修を受けさせている。さっそく船で海へ。スタッフが待ち構えていると長いカゴが現れた。このカゴの中で養殖されていたのは、厚岸特産のブランドガキ「マルえもん」。東京にいるだけではわからない生産現場に、みな興味津々。生産者の苦労を知り、美味しさを知る。こうして町の宣伝マンが少しずつ、増えていく。

2000万円まで独立支援~故郷を潤す草の根的経営

ファンファンクションは社員の独立を積極的に支援している。

日本橋にオープンした「長崎県五島列島小値賀町(おぢかちょう)」。小値賀町は17の島々からなる町で、そこで採れる魚がこの店のウリだ。中でも人気のメニューが、小値賀町自慢の魚介を贅沢に使った「海鮮ウニ黄金しゃぶしゃぶ」(1人前2138円~)。刺し身でウニを巻き、ウニをふんだんに使ったスープでしゃぶしゃぶする。

「小値賀だと180種類の魚が採れるので、いろいろな種類が来ます」と、オーナーの漆畑義章は言う。

2年前にオープンしたこの店は漆畑にとっては2軒目のオーナー店になる。1軒目は2012年、神田にオープンした「青森県むつ下北半島」。自分の故郷、青森のうまいものを知ってもらいたいと作ったのだ。

オープンに際して、「とうていお店を出す資金はなかったです。合掌社長の方から独立支援ということで設備資金を出していただいた」(漆畑)という。

ファンファンクションでは、勤続3年以上で優れた業績を上げた社員に、独立の支援を行っている。開業に必要な資金は最大2000万円まで会社が融資。社員はそれを5年で返済するシステムだ。

この制度でこれまでに4人が独立、5つの店を運営している。

新たに独立のチャンスをつかんだのが、山梨県出身の吉田光二。「佐賀県三瀬村ふもと赤鶏」八重洲店の統括店長だ。

山梨県北杜市に地元で人気の農場がある。その中村農場直売所に、吉田が合掌を連れてやってきた。名物は「親子丼 地鶏スープ付」(1185円)。これを合掌に食べさせるために来たのだ。この鳥をメインに、地元山梨の食材を使った店を開きたいと、吉田は考えている。

この農場の一押しが独自に作った「甲斐路軍鶏」だ。代表の中村努さんを合掌に引き合わせる吉田。ここは生産から加工・販売まで一手に行っているため、衛生管理も行き届いているうえ、他ではなかなか扱っていない希少な部位も手に入る。

「これだけこだわっている鶏だったら、作れるね、これメインで」(合掌)

吉田にはもう一つ、合掌に見せたいものがあった。それが南アルプス農園。育てているのはトマトだ。美味しさの秘密は水耕栽培。ミネラル豊富な南アルプスの地下水を使っている。

合掌のOKが出れば独立する吉田。地元をPRする重責を担っていく。

「すごい収穫になりました。さらに頑張っていかなければという使命感みたいなものが湧いてきました」(吉田)

地産他消から地産地消へ~採れたて野菜の惣菜屋

茨城県つくば市にある人気の野菜直売所、「みずほの村市場」。ここの自慢は「朝採れ野菜」。地元の農家が毎朝持ち込んでくるから鮮度バツグン。近県からも客が買いに来るほどの人気ぶりだ。

その一角で合掌は2016年10月、新たな店を始めた。それがお総菜の店。サラダやピクルス、ゴボウのキンピラなど、みずほの村市場の極上野菜をふんだんに使ったお惣菜がおよそ10種類。大量の試食を用意して客にアピールする。

なぜ東京ではなく、地方で総菜店を始めたのか。

「いままで我々がやってきたのは、地域の食材を東京でブランディングすること。いわば、地産他消。ここは地産地消なんです。地元の野菜をさらに美味しくして地元で消費し、地元だけでなく他からも人を呼ぶ戦略なんです」(合掌)

合掌は、こうした総菜店を全国各地の道の駅や直売所に開きたいと、考えている。地方を元気にしていくファンファンクションの新たな試みだ。

~村上龍の編集後記~

外食は、多様性と新しさを求められるようになった。目先の変わったもの、激安、すべて飽きられる。

合掌さんは、北海道・八雲の食材に感動し、ブランドを追うのではなく、自らブランドを作ろうと決めた。

それは、むずかしい。自分の感覚、つまり、これまで培われた何かを、信じていなければならない。

自らの五感と、そして直感。幼いころから外食が多く、おいしいものを食べてきたと聞いて、納得した。

感覚は、学ぶのではなく、磨くものだ。自分が選んだおいしさが共感を生む、

ファンファンクションは外食業界の先頭に、立っている。

<出演者略歴>

合掌智宏(がっしょう・ともひろ)1977年、福井県生まれ。1996年、京都科学技術専門学校卒業後、電気系建設会社入社。2001年、ホルモン酒場合掌東京総本店オープン。2006年、ファンファンクション設立。