ヒット商品の鍵を握るのはネーミングです。
ポイントは「なるべく短く作ること」と「形容詞や一般名詞を使わないこと」です。
短く作ったほうがいいのは、口コミがしやすいからです。長いと、覚えられませんし、覚えられなければ、口コミで人に伝わっていきません。
今、赤城乳業で、柱となっているのは次の5つの商品群です。
• 『ガリガリ君』
• 『ガツン、とみかん』
• 『旨ミルク』
• 『ドルチェTime』
• _____他社とのコラボ商品
5番目は別として、どれも商品名が短い。
『ガリガリ君』は5文字(6音)、『ガツン、とみかん』は、「、」を除けば7文字です。私が初期に開発した『BLACK』で5文字でした。
商品のネーミングは、経験上、7文字以内がベストだと思っています。
「形容詞や一般名詞を使わない」ほうがいい理由は、まねをされないためです。商標登録が基本的にできません。
私が入社当時に開発した『BLACK』というアイスも形容詞でした。『スーパーソフト』は、なおさらです。
『BLACK』を出してすぐに、他社から似た名前の商品が販売された苦い経験があります。
とは言っても、かなり適当に名前を付けることもあります。何を隠そう、『ガリガリ君』のネーミングを考えた時もそうでした。
当時の井上秀樹専務からは、「ネーミングは斬新に」というオーダーが来ていました。『ガリガリ君』の場合、かき氷から商品開発が始まっています。カップからスプーンで削る時、「ガリガリ」という音がしました。だから、みんなで考えて、『ガリガリ』という商品名にしよう、とほぼ決まりかけていました。
ところが、発売直前になり、「あれ、何かおかしくない? いいんだけど、ちょっと変じゃない?」という声が出て、井上専務のところに相談に行きました。すると、
「〝君〞をつければ、楽しくなるんじゃないか」
と案が出され、『ガリガリ君』になりました。
「ガリガリ」では、単なる修飾語で、なんだかよくわかりません。
ですが、人の名前のように固有名詞にした瞬間から個性が生まれ、愛着も湧きやすくな
り、覚えてもらえるようになったのだと思います。
「あの『ガリガリ』、おいしかったね」よりも「あの『ガリガリ君』、おいしかったね」
と言ったほうが、断然クチコミに乗りやすいのです。
もし、「ガリガリ」という修飾語のままでしたら、ここまでヒットはしなかったでしょう。
商品開発部で決めたネーミングでも、「なんか、変」「なんか、違和感がある」「でも、どうすればいいかわからない」と感じた時には、いくら時間がなくても「まっ、いいか」とそのままにしないことです。
納得いくまで話し合ったり、ほかの部署の人に相談したり、意見を聞いたりしたほうが、結局はうまくいきます。
食べ物やモノに人の名前を付けると、たちまち命を持つのをよく感じます。
2010年、本庄早稲田駅から車で15分ほどのところに、赤城乳業の「本庄千本さくら『5S』工場」という、新工場を作りました。
一般の方々が見学もできるようになっています。
この工場では、アイスを作る機械に「あいちゃん」「スザンヌ」「イチロー」「りょうくん」などの名前を付けています。
これも、赤城乳業流の〝遊び心〞ですが、名前を付けたことで、機械に愛着が湧きます。「1号機の動きが悪い」というよりも、「あいちゃんが、今日はご機嫌ななめだ」と言ったほうが、工場の中の雰囲気がソフトになります。
機械の名前は、みんなが聞きなれていて、呼びやすいものにしています。
「どこかで聞いたことがある」「名前を聞くだけで、なんとなく、イメージが湧きやすい」ほうが、愛着も湧きやすいからです。
ネーミングは、商品に魂を吹き込むのと同じです。どんなにいい商品であっても、名前次第でヒットしない場合もありますので、妥協せずに考えたいものです。