新型コロナでフル稼働 “消毒”で世界を救え!~ヤシノミ洗剤の会社が大活躍の秘密/サラヤ/読んで分かる「カンブリア宮殿」

需要爆発!消毒用アルコール~「手荒れなし」を現場に届けろ

新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本中あらゆる場所で使われるようになったアルコール消毒液。今やスーパーや飲食店はもちろん、飛行機の中まで徹底的に消毒するようになり、8月の生産量は前年の月平均に比べると7倍にまで膨れ上がった。

そんな爆発的な需要を支えるサラヤの工場が三重・伊賀市の山奥にある。深夜になっても、おびただしい数のスタッフが働いている。緊急を要する医療機関向けのものから一般向けのハンドジェルまで、24時間フル稼働で消毒液を生産しているのだ。

「本来は2交代ですが、3交代にするために250人から350人に増員しました。まだまだ供給が足りないので、かなりの量が必要な状況です」(山田幸雄工場長)

工場を支えているのは、コロナで苦境に立った旅行業や飲食業の人たち。「大阪で飲食関係の事業をしています。社員とスタッフを連れてきた。サラヤさんに需要があるので切り替えた」と言う人もいた。

サラヤで最大の知名度を誇る商品は、食器用洗剤のロングセラー「ヤシノミ洗剤」だ。ヤシの実から取った植物由来の洗浄成分が手にも環境にもやさしい。サラヤはそんな自然派の商品にこだわってきた。そしてもう一つの顔が、日本屈指の手指アルコール消毒液のメーカー。特に病院向けでは国内トップシェアを誇っている。

大量に使われるプロの現場で圧倒的な支持を得ているのには理由がある。

東京・墨田区の「両国・なかよし保育園」ではサラヤの消毒液を毎月60本も使っているが、ヘビーユーザーの保育士たちにとって、最も気になるのが手肌へのダメージだ。効果の強い酸性の消毒液ほど、何度も使うと手荒れしてしまうのが悩み。ところが、サラヤの消毒液を1日20回以上も使っているという保育士の1人は「手が荒れることもしみることもない、安心して使っています」と言う。

サラヤは独自に保湿成分を配合することで、強い消毒効果を持ちながらも、手荒れしにくい高品質な消毒液を作り出している。「アルコールが飛んだ後でも保湿成分が手の中に残って手荒れを防止することができる。ウイルスに強く手荒れしないのが特徴」だという。その消毒液は、どこよりも優れた性能にこだわることで圧倒的な支持を得ているのだ。

また、サラヤの社内には、感染対策のエキスパート「食品衛生インストラクター」が100人以上もいる。

この日、東京・目黒区のスーパー「東急ストア」中目黒本店にやってきたのは、インストラクター歴8年の山本愛実。「衛生点検で入らせていただきます」と言って入ったのは、総菜などを作っている調理場だ。ここではサラヤのアルコール消毒液で調理器具を消毒しているが、山本はその様子を食い入るように観察し始めた。

そして扉の掃除の仕方を見るや、取っ手の表側しか拭いていないことを指摘。人が触る取っ手は、裏側こそウイルスが付きやすいという。インストラクターの役目は、現場で正しい消毒が行われているか確認し、食中毒やウイルス感染の発生を防ぐことだ。

さらに山本は売り場では別の指摘を。棚を拭く動作が問題だという。実は布巾を往復させてしまうと、ウイルスや菌がかえって拡散してしまう恐れがある。同じところを拭かないように、同一方向にずらしながら拭く方が正しいという。

今や新型コロナ対策が死活問題になっている食品業界では、サラヤ独自の衛生点検が人気となっている。

「単に商品を提供していただくだけでなく、より良い使い方をアドバイスしていただけるので、非常に助かっています」(「東急ストア」鈴木克哉物流部長)



創業以来、手洗いに執念~「ヤシノミ洗剤」企業の格闘

手の消毒の高度なノウハウを武器にするサラヤは創業以来、手洗いに執念を燃やしてきた。誰もが知る緑色の薬用石けん液「シャボネット」を世に送り出したのがサラヤなら、アフリカ・ウガンダの田舎町で活躍するのもサラヤのスタッフ。衛生環境の悪いアフリカで、ユニセフとともに「100万人の手洗いプロジェクト」に取り組んでいるのだ。

大阪市にあるサラヤの本社。社長の更家悠介は、感染が急拡大し始めた2月、いち早く消毒液の増産を決断し、陣頭指揮をとり続けてきた。逼迫する医療現場に消毒液を切らさないため声を荒げることもあった。

サラヤはこれまでもさまざまな感染症が流行するたびに、全国各地を回り、手の消毒の重要性を訴えてきた。

「やはり正しい使い方、考え方の教育は非常に大事です。物だけ売っているのでは商売はできないと思います」(更家)

更家の特命を受けて大阪大学の研究所にやってきたのは、サラヤのウイルス研究チームのリーダー、微生物研究センター長の原田裕だ。研究室に入る前には、厳重な装備に身を包んだ。

「ここは病原体を実際に取り扱える部屋でして、新型コロナウイルスそのものに対する効果を実際に確認します」(原田)

原田は、サラヤの消毒液が新型コロナウイルスにどこまで効果があるのか、ここで実験させてもらっている。使っているのは本物の新型コロナの病原体だ。実験結果から、これまで消毒液に使ってこなかった新たな成分がウイルスを不活化させることを突き止めた。

「このウイルス不活化効果は今まで知られていなかった、こういった成分を組み合わせることで、より有効な新しい消毒液を開発できると思います」(原田)



鮮度保つ新技術、糖類ゼロのレストラン~攻めの経営に転じた理由

大阪市の「麦蔵」は魚料理のおいしい店。気仙沼でとれた脂がたっぷり乗った「鯖の棒鮨し」に日本海産の「タラの酒蒸し」。誰もが魚の鮮度に感嘆の声を上げる。だが、これらの魚は実は冷凍だ。一部の魚で扱い始めた冷凍。この冷凍方法をサラヤが生み出した。料理長の赤木利光さんは「他の冷凍とは全然違います。鮮魚そのままみたいでビックリです」と、感嘆する。

大阪市の仲卸「九里」にあった冷凍マシンがサラヤの「ラピッドフリーザー」。「マイナス30度のアルコールの液体がこの中でずっと循環しています」(九里貴彦社長)という。中の液体はマイナス30℃にしても凍らないサラヤ得意のアルコール。これに魚を浸せば、あっという間に冷凍することができるのだ。

通常の冷凍は細胞が壊れ、解凍すると魚のうまみがにじみ出てしまうのだが、「ラピッドフリーザー」は急速に凍らせることで細胞を壊さないため、うまみがしっかり保たれるのだ。

この仲卸では、緊急事態宣言中の5月ごろ、飲食店に売ることができなくなった大量の魚を「ラピッドフリーザー」で保存したため、廃棄せずに済んだという。

「緊急事態宣言が出た時に仕入れた高級魚のノドグロは冷凍して、年末の鍋のシーズンに販売しようと思っています」(九里社長)

一方、2年前にサラヤがオープンさせた東京・渋谷区のレストラン「神宮前 らかん・果」は、コロナ太りにもってこいと客が急増している。

出すのは砂糖を一切使っていないメニューだけ。たとえば「豚の角煮」は「通常は100グラムあたり糖質が20~30グラム。それを10分の1ぐらいに落としています」(西牧諒店長)。5品もついたコース料理「ロカボコース」(5500円)は、全て食べてもコンビニのおにぎり1個分の糖質しかないという。

北山和美料理長は「全て『ラカント』を使って作っています」と言う。砂糖なしでもおいしい秘密は、サラヤが開発したカロリーも糖類もゼロという甘味料「ラカント」にあった。「ラカント」は、漢方にも使われる中国原産の「羅漢果」という果実からつくる自然由来の甘味料。サラヤは「ラカント」を売り込むため、レストランまで作った。

さらにサラヤには、コロナ禍の家庭での新たなニーズをつかんだヒット商品も。それが「ヤシノミ洗たく洗剤」だ。その特徴は「無香料無着色でにおいがきつく残らない」こと。においのしない原料だけを配合した自然由来の無香料の洗剤だ。今、この新開発のヤシノミ洗剤が、長時間口元にあてるマスクの洗濯に大人気なのだ。

他にないさまざまな商品に挑み攻めまくるサラヤ。実はそんな攻めの姿勢のきっかけは、6年前に出演したカンブリア宮殿での、村上龍の「サラヤにもっと儲けてほしい。サラヤのような企業文化や理念を持つことが経済的な利益に結びつくことを示してほしい」という言葉にあるという。 

実際、今サラヤではさまざまな挑戦が実を結び始めている。長年、手洗い文化の普及に頑張ってきたアフリカでは、コロナでアルコール消毒液の需要が急増。サラヤの商品が引っ張りだことなっている。現地では、今や消毒液のことを「サラヤ」と呼ぶのだという。

アフリカでの事業もようやく黒字化。攻め続けたサラヤの年商は、この6年で実に1.5倍にまで増えた。



世界初の“食べられる”洗剤~社会問題に挑むモノづくり

大阪・柏原市にあるサラヤのバイオケミカル研究所。長年、サラヤの他にない商品を生み出してきた研究者たちの一大拠点だ。

そんな中で、前代未聞の洗剤を開発したというのが所長の平田善彦だ。最大のポイントは油を一瞬ではじく洗浄成分「ソホロ」。食べても害がないという。

「ほのかにフルーティーな感じ。酵母が作り出す物質です」(平田)

洗浄成分ソホロが食べられるほど安全な理由は、天然酵母が生み出したものだから。サラヤはそれを使った洗剤で世界的な危機に挑んでいた。

「ソホロ」を使って開発した商品が「ハッピーエレファント」というブランド。使えば使うほど、「ゾウがハッピーになる」洗剤だという。

東南アジアのボルネオ島。ここでサラヤが長年力を入れてきたのが、乱開発のため森を追われたゾウなどを守る活動だ。自然由来の洗剤の原料に使われるパームヤシの実の採取の陰で、動物が苦しんでいるのを知り、16年前、支援に乗り出した。「ハッピーエレファント」などの商品を買えば、その売り上げの1%がボルネオの環境保護に使われる仕組みだ。



日本に手洗いを広めたアイデアマン~感染リスク減らすマシンも

環境問題への独自の視点をサラヤに根付かせたのは、更家の父で創業者の更家章太だった。丸いボトルに入った緑色の手洗い石けんのアイデアも章太が考えたものだ。

1952年、大阪で健康食品の会社を創業した章太がある日、大手紡績メーカーへ営業に行くと、応対してくれたその会社の産業医から、深刻そうにある悩みを打ち明けられた。

「頭を抱えているのは赤痢です。手洗いでちゃんと消毒できる商品、ありません?」

その頃、感染症の赤痢が大流行し、日本中で多くの死者が出ていた。

学生時代に応用化学を学んでいた章太は、殺菌力のある石けんの開発に乗り出す。試行錯誤の末に生み出したのが、手洗いと同時に消毒もできる緑色の石けん液だった。

「液体石けんを容器に入れて、押すと出るというのもイノベーション。それまでは固形石けんが多く、誰もやっていなかった」(更家)

特に章太が工夫したのが、下から石けん液を手に取る仕組み。常に出口に液が残るため、大勢の人が触っても殺菌された状態が保たれるのだ。

「父はものづくりが大好きで、みんなを部屋に呼んで、ああでもない、こうでもないとやっていました」(更家)

章太が次に挑んだのが、高度経済成長と共に深刻になっていた大気汚染。営業で工場を回っていると、喉の不調を訴える作業員から、簡単にうがいができる商品を求める声を聞いた。1966年に発売したのが、世界初のうがい薬が噴射される自動うがい器だ。うがい器は、楽しくうがいができると子供にも評判となり、日本中の学校へも広まった。

その後もサラヤは、石油系洗剤などによる水質汚染が問題となれば自然由来の「ヤシノミ洗剤」を開発するなど、時代時代の環境問題に挑む商品を次々に生み出していった。

章太は長年の経営の極意を次のように語っている。

「やはり公共のためになるものじゃないと、自分の利益だけではいいものはできない」

今、新型コロナに最も敏感になっているのが、感染すると重症化しやすい高齢者の施設だ。そこで引っ張りだこになっているのが、手をかざすとセンサーが反応し、どこにも触れずに消毒液が噴射できるノータッチ式の自動消毒器だ。

このアイデアも更家章太が考え出したもの。少しでも感染リスクを減らそうと40年近く前に製品化した。さまざまな方式で試行錯誤を続けてきた成果だ。

人々を思う信念は今も生き続けている。



~村上龍の編集後記~

「もっと儲けてください、更家さんにそう言った。サラヤが利益を上げれば、多くの企業や個人への何よりの啓蒙となる」前回の編集後記だ。サラヤは売り上げを1.5倍に増やした。私のリクエストも多少影響したのかも知れないが、ビジネスが時代状況を見事に捉え続けたのだと思う。

国連の「持続可能な開発目標」を重視した経営の先駆者であり、新型コロナにおいては、マスクやハンドソープやアルコール除菌スプレーの製造販売など、渦中にいた。熊野川の清流がビジネスのベースにある。清流は途絶えず、とうとうと流れ続ける。

<出演者略歴>

更家悠介(さらや・ゆうすけ)1951年、三重県生まれ。1974年、大阪大学工学部卒業。1976年、サラヤ入社、取締役工場長就任。1998年、社長就任。

(2020年10月22日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)