劇場版『機動戦士ガンダム』Last Shootingの輝くまで 第5回

第5回 どうまとめた? 劇場版『機動戦士ガンダムⅠ』(その2)

 引き続き劇場版1作目『機動戦士ガンダムⅠ』のまとめ方について述べていこう。

(6)ガンダム空中戦

 第9話からの「ブライトとのいさかい」の後、アムロは意を決して出撃する。彼のアイデアによる空中戦敢行が、映画中盤を盛りあげるクライマックスに構成されているのだ。武市昌久の完全新曲によるBGMが高揚感を盛りあげる。シンセサイザープログラマーはYMO4人目のメンバーと言われた松武秀樹だ。

 ここではホワイトベースの進路に合わせて背景が第9話の廃虚から北米の荒野へ変更されている。ハイパー・バズーカとビーム・ライフルの手持ち武器の描き換えや、バルカンも交えて空中戦を縦横に繰り広げるガンダムなど、一見TV版と同じに見えつつ細かい改訂がほどこされた新作の多いパートである。

(7)ガルマ専用ドップ

 ホワイトベースから予備のビーム・ライフルが射出されてガンダムが空中キャッチするシーンなどで、スラスター噴射による機動性能描写が増強されている。これは幼少のころから宇宙旅行に関心の高かった富野由悠季監督のこだわりだ。

 新作の多いパートの中でも、特にガルマ専用ドップは第2原画の段階でマーキングや計器類などの描きこみが強化されて目を引く。シャアがコムサイで出るシーンが新作で追加され、ガルマのドップの後退シーンの直後、投下されたシャア専用ザクがガンダムと交戦する。ここには第7話からのカットが使われている。

 マチルダ補給部隊とガンダムが遭遇するシーンなどに細かい新作が入った後、ジオン軍キャルフォルニアベースの夕景をゆったり見せてワンクッションおき、映画的な緩急をつけている。第6話のシャアがシャワーを浴びるところにガルマが無断入室するという女性ファンを騒がせたカットは、ここにインサートされている。

(8)イセリナとの恋、ガルマ死す

 ジオン軍が占拠したニューヤーク市で行われた舞踏会のシーン、ドーム球場へ逃げこんだホワイトベースなどは第10話から、ほぼTVシリーズのまま。イセリナが不安な予兆で空を見上げるなど、一部に映画的な余韻のあるニュアンスが補強されている。

 ガルマ自らが陣頭指揮をとって出撃したガウ攻撃空母は、ほとんどが新作。セルの止め引き中心で表現されていたものが、作画での回避や回頭、着弾などになって迫力が増している。ガンダムが囮になってガウを誘導するシークエンスでは、作戦を見破るシャアのザクが新作されている。

 誘い出されたガウが背後から射撃される一連の場面では、フィルムの流れ上の方向性を整えるために画面の左右を裏焼きしている。手持ち武器の左右が入れ替わってしまうが、方向性にこだわる富野監督ならではの演出だ。

 ガルマのガウを見送るシャアのザク、散華する瞬間に見るイセリナの幻影などは、新作で印象が補強されている。

(9)ザビ家参集

 ガルマの訃報はイセリナを泣かせるが、第11話の復讐戦は割愛。同話からは死を悼むザビ家一族の参集シーンが使われている。

(10)アムロの帰郷

 第13話「再会、母よ」に相当するシーンを前倒しで組み込み、流れを変えている。劇場公開時はアムロの母親を倍賞千恵子がやると話題になったブロックだ。ホワイトベースが見た目の航路を変えたため、停泊場所が新作で変更されている。

 第13話のドラマ部分はほとんどそのまま組みこまれているが、初の空中換装を行ったTVシリーズのガンダム戦闘シーンは割愛。コア・ファイターによる基地襲撃に新作で置き換えられ、再び補給に来たマチルダ部隊が被害にあってミデア輸送機が大破するというシークエンスが新作で追加されている。劇場版全体でガンダムの登場回数を減らす工夫がなされている。

 なお、母親のカマリア・レイという固有名詞は劇場版でつけられたもの。他にも家宅侵入する兵士A、B、Cを「エド、ビル、シコ」とするなど、全体で固有名を増強している。

(11)マチルダ部隊の再補給

 第14話から補給シーンのみを抜粋。キャラクターの一部はニュアンスを合わせるために修正され、マチルダのセリフが改訂されて「ニュータイプ」という単語が前倒しで語られている。これはTVシリーズでの「ニュータイプ話」が唐突すぎるという当時多かった批判へのケアで、劇場版全体を通じて「ニュータイプ」を語り直すという姿勢の表明でもある。

 マチルダをあこがれの女性として追うアムロ、それに溝を感じるフラウ・ボゥといったシーンは新作に置き換えられている。この三部作全体から『Zガンダム』までつながる流れを考えると、「幼なじみとの別離」が不可避であると予感させる意味深な場面になっている。

(12)ランバ・ラルの討伐部隊

 ガルマの国葬準備、戦艦ザンジバルによるランバ・ラル隊の降下、アムロの精神疲労などは第12話から。アムロの作画の一部が修正され、落ちこんだ原因もイセリナから受けた非難の言葉ではなく、母親との齟齬によるトラウマに変わっている。

 ランバ・ラルの乗る新型MSグフとの交戦は第12話のもの。一部に新作が追加され、立体感あるアクションを行っている。撤退するザンジバルの照明効果も透過光表現を多用した新作になっている。

(13)ギレン・ザビの演説

 ガルマの国葬は大半が新作に置き換えられた。特に熱弁をふるうギレン・ザビの演技が細やかになっている。敵が個人ではなく国家と認識するアムロの表情、垂直離床し、雲間を抜けて飛翔するホワイトベース、雲海に落ちる影が「十字架」に見えるなど、新作の積みかさねで映画のクロージング感を出している。

(14)エンディング

 谷村新司作詞・作曲、やしきたかじん歌唱の「砂の十字架」が本編を締めくくる。地球の全景に太陽光が漏れ、宇宙空間にザクの残骸が流れるなど、雰囲気重視の新作エンディングとなっている。(文中:一部敬称略)

【2007年8月7日脱稿・2017年6月15日加筆】初出:劇場版『機動戦士ガンダム』公式サイト(サンライズ)