王者セブンを追撃!ファミマ大改革の全貌/読んで分かる「カンブリア宮殿」

ファミマが大変身!?~攻めている商品が続々

東京・新宿の路地裏にある知る人ぞ知るスイーツの名店「ケンズカフェ東京」。商品は「ガトーショコラ」(3000円)たった一種類。しかも長いときは予約1ヵ月待ちだという。世界最高峰のチョコレートメーカーが、この店のために特別に調合したチョコを使用。1日限定300個の究極の逸品だ。「食べログ」の人気チョコレート店のランキングで5年連続首位になるなど、数々の賞を総なめにしてきた。

そんな究極の「ガトーショコラ」を生み出した氏家健治シェフが、その技でよりお手頃価格の商品を開発した。ファミリーマートとコラボして生まれた「ショコラタルト」(165円税別)。カカオ80%のチョコを使った大人の味わいだ。

「濃厚、ビターでありながらも軽やかな食感。旨味。すべてを感じられるように設計しています」(氏家さん)

ファミマはスイーツに定評がある。最近人気が高いのが「ダブルクリームサンド」(135円)。ふわふわ食感の生地にカスタードとホイップ、2種類のクリームをサンドした。

男性陣に人気が高いのが「窯出しとろけるプリン」(128円)。毎月100万個を売るヒット商品だ。

一方、東京・品川区ではコンビニ「サンクス」品川シーサイド店がファミリーマートに生まれ変わっていた。1ヵ月の改装を経てリニューアルオープン。オーナーの荻野年一さんによれば、転換したことで売り上げは20%アップしたという。

去年9月、ファミリーマートとサークルK・サンクスが経営統合。全国5000店のサークルKとサンクスが猛スピードでファミリーマートに転換しているのだ。サークルK・サンクスとのブランド統合によって、店舗数は1万7921店(2017年8月末)と、業界3位から2位に。数の上では首位セブンイレブンを視界に捉えた。

2006年の発売以来、累計10億個を売り上げるファミマの看板商品、フライドチキンの「ファミチキ」。この「ファミチキ」で、最近ファミマが変わってきたという声もある。 

6月から流れているCMでは「ファミチキ先輩」という情熱キャラの店員が主人公になっている。「ファミチキ先輩」のポスターのモデルを務めているのが社長の澤田貴司(60)だ。「ファミチキ先輩とかやっていますが、これは小出し。もっと行きますよ、がつんがつん。大改革します」と言う。

就任して一年。澤田が率いるのは年間売上高3兆円、国内スタッフ20万人のマンモス企業だ。攻めに出た澤田は、まずはあのライザップと商品でコラボ。スイーツばかりか、パスタやラーメンまで糖質を減らし、健康志向に応えた。

さらにレジ横でも攻める。「ファミ横商店街」と名付け、売れ筋の「ファミチキ」や、サークルK・サンクスのヒット商品だった「焼きとり」などをずらりと並べ、客の目を引くしつらえに。その結果、レジ横の売り上げは20%アップした。





ユニクロからファミマへ~熱血社長の大改革

従来のファミマのイメージを覆す澤田は異色の経歴を持つ。1981年、上智大学理工学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。イトーヨーカ堂担当となり、鈴木敏文氏(当時社長)とともに、アメリカのセブンイレブン再建を手掛けた。そのとき流通業に魅せられた澤田は、1997年、39歳で伊藤忠商事を退社する。

「セブン‐イレブンみたいなことを将来的にやってみたい。で、僕は日本の流通業のトップになりたいとはっきり見えた。僕はそこに人生をかけよう、と」(澤田)

流通業を学ぼうと飛び込んだのがファーストリテイリング。ほどなく副社長に抜擢されると、フリースブームの立役者となった。柳井正氏からは次の社長に請われていた。ところが当時44歳の澤田はその要請を受けずに独立。その後、2005年に企業の経営支援をする会社「リヴァンプ」を立ち上げ、「ロッテリア」の再建や、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」を日本に上陸させて話題を呼んだ。

こうした手腕が買われ、去年、経営統合後の新生ファミリーマートを託された。ファミマの親会社で、澤田の古巣でもある伊藤忠商事からの熱烈なオファーだった。

「まだまだセブンとは格差があるが、キャッチアップしていきたい。澤田社長が応えられる」(上田準二前ファミリーマート会長)

「セブン‐イレブンに追いつき、追い越せ」というミッションを背負った澤田には、就任以来、心がけていることがある。とにかく現場の声を聞こうと、全国1万8000の加盟店を回ることに決めたのだ。この一年で、およそ300店に足を運んだ。

地方の加盟店にとって、本部の社長は遠い存在。だが澤田は、店まで出向いて、一人一人の手を握る。澤田が特に気にかけているのは、サークルK・サンクスから転換した店だ。  

宮城県の宮城松島あたご店も6月に転換したばかり。「転換して頂いてありがとうございます。いかがですか、転換後?」と訊ねる澤田に、オーナーからは「ビックリの売上です。ファミチキも売れています。“先輩”のおかげだと思います」という答えが返ってきた。

だが、続けて「おいしいお弁当をお願いします」という言葉も。「まずいですか?」と聞く澤田に、「もっとおいしいものを作れる気がします」。

改革は、まだ始まったばかりだ。

「売り上げがすごく伸びたとおっしゃって頂けてすごくうれしい。ただ、『もっとおいしいお弁当を』とご指摘頂いたので、しっかりやらないといけないですね」(澤田)

社運をかけた中華まん、開発の舞台裏

セブン追撃のカギはなんといっても商品力。埼玉県上里町の「ジョイアス・フーズ」では、3枚の生地が1枚になって麺が作られていた。

「三層麺です。外は弾力があって中はしっかりした層の麺になるので、より食感がよいものをお客様に提供できる」(ファミリーマート調理麺担当・山田忍)

ファミマの自信作、三層麺を使ったラーメン。チルドという冷蔵タイプにしたことで味が良くなり、一日10万食を売り上げる大ヒット商品となった。そこに今年はこれでもかとチャーシューを載せた「チャーシュー麺」(期間限定・598円)を投入した。

ファミマは今、食品に力を入れている。各店の1日の平均売上高、いわゆる日販は52万2000円と業界3位。1位セブン(65万7000円)との差は歴然としている。そこでこの秋冬シーズン、勝負をかけた商品を投入することになった。

 記者会見の席で「中華まんについては大刷新といって問題ない。正直言ってコンビニレベルではなく中華街レベル」(ファストフーズ部部長・島田奈奈)と、自信満々に発表したのは中華まん。一年かけてバージョンアップしたのだ。

中華まんシェアトップの井村屋と共同開発。「約20億円投資しました。ファミマさんとともに社運をかけています」(井村屋開発部・花井雅紀さん)と、新商品のために、井村屋は三重県津市の工場に巨大なラインを新設した。その新しい製造ラインでは、ソーセージのような具が包まれて、丸められ、頭がキュッとひねられていく。今回の改良でこだわったのは、肉の量を増やした具の存在感と、もっちりした食感の皮。目指すは中華街レベルの肉まんだ。

満を持してリニューアル第2弾が始まった。主役は「肉まん」に次ぐ人気ナンバー2の「ピザまん」。そのプレミアムバージョンを作ろうというのだ。

井村屋の開発担当者、開発部の小林伸也さんが試作品を持ってきた。生地に全粒粉を加え、チーズは贅沢に4種類も。さらにこれまでにない具材感を出そうと、ベーコンを初めて入れた。だが、試食した食一筋11年、ファミマのファストフーズ部・木内智朗マネージャーは「スモークが弱い。たっぷりベーコンで攻めてないと厳しいな」。もっとプレミアム感を出してほしい。小林さんに厳しい宿題が課された。

「正直、自分でも作っていて、お客さんへの驚きがない。表現ができていない」(小林さん)

三重の工場に戻った小林さんはプレミアムピザまんの改良に取りかかった。ベーコンを炒め始めた小林さん。地元のイタリア料理店で、ベーコンのうまみを引き出す方法を伝授してもらったからだ。

コストはかかるが、ひと手間かけることにしたのだ。炒めて出た油も重要。これをトマトソースに加えることで、ベーコンのスモーク感を生かせるのだ。

東京からファミマの木内がやってきた。小林さんの改良にめどがついたのだ。

「すごいね、これ。ベーコンの感じがすごくよく出ている。本当に頑張って頂いて、ベーコンの香りを最大限引き出して頂きました」(木内)

こうして自信作が出来上がった。3日後、東京・池袋のサンシャイン60にあるファミリーマート本社。社長の澤田による最終チェックだ。

「もっとでかいともっといいね。『ワオ!』というくらいでかいとインパクトがある。サイズは1.2倍で、値段は1.5倍。俺の中では計算がしっくりいかない」(澤田)

澤田が指摘したのは、通常品(130円)との価格の差だった。

「お客さんは68円の違いを認めないと思うよ。値段を上げるって、ものすごく重要なこと。堂々と上げられるものを作らないといけない」と、まさかのダメ出し。

「厳しいご指摘ですね。68円の価格差お客様が見て分かる、食べて分かる設計にしなさいというご指示。そこを変えようと思います」(木内)

さらなる試行錯誤の末、「ベーコンたっぷり ファミマプレミアムピザまん」が誕生した。

人に寄り添う~働き方改革&進化系コンビニ

ファミマの本社では、澤田が社長になってから毎週行われる会議がある。店舗の業務を改革するための会議だ。

 この日、議題に上がったのはマニュアルの厚さ。約1000ページあるというマニュアルに、「毎回聞いてぶちきれそうなんだけど、誰が読むんだよ」と澤田。「目標100ページくらいにしてくれない? 店舗はシンプルにしてくれない?」と言う。

澤田が店舗の負担の軽減に熱心なのには理由がある。実は澤田、社長就任を前におよそ3週間、実際に店舗で働いた。そのとき、店舗スタッフの業務がいかに大変かを身をもって知ったのだという。

「これは絶対、俺には無理だな、と。もっともっと簡単にして、今日入った人ができるようにオペレーションをしてあげないといけない」(澤田)

そこで始まったファミマの働き方改革。スタッフにとって最も大変で、かつ気を遣うのが食品の撤去作業。1日6回、消費期限の2時間前に撤去するのが決まりだ。以前は一つ一つ消費期限の欄を見て逆算していたので、確認に時間がかかった。ところが今は右上に新たな表示を加え、一目でわかるようにした。これだけで作業時間はほぼ半減したという。

宅配便の受付も改善した。以前はレジの手順が複雑で時間がかかるため、お客からのクレームが多かった。でも今は、新人のバイトでもまごつかないよう、画面の案内を分かりやすくした。その結果、待たせる時間が減り、クレームも減ったという。

しかし、澤田を悩ませていたのはもっと根本的な問題だった。澤田が真剣に見つめていたのは全国の加盟店から取ったアンケート。回答を寄せたのは5217人。この規模の調査はファミマでは前例がない。そこからは加盟店の悲鳴が聞こえてきた。全国のファミマの実に8割の店が、人手不足に苦しんでいることが判明したのだ。

人手不足解消を担う澤田の直轄部隊、改革推進室室長の植野大輔。東京・練馬区の練馬上石神井四丁目店を調査で訪れると、「おかげさまで、人員について困ったことが一度もないです」という意外な答えが返ってきた。その秘密を八木泰樹店長に聞くと「最短は週1回2時間から、というシフトもあります」と言う。

 通常の募集広告は、勤務時間として9時~17時などと書いてあることが多い。「時間応相談」とあっても、これでは9時から5時まで働かなければいけないと思ってしまう。しかしこの店では「2時間でもOK」と明示した。すると近所の主婦が気軽に応募してくるようになった。2児の母・齋藤めぐみさん(45)は、週3回、午前中だけ働いている。

「子供も学校が近いので、何かあってもここは来やすい場所なので。熱が出て学校から電話がかかってきても、『すみません』と抜けて行けます」と言う。さらに先日、中学生の息子さんが同店で職業体験。一緒に働くことで親子の絆も深まったという。

ファミマはさいたま市であるイベントを仕掛けた。壇上の澤田の前には、女性ばかり90人。さいたま市に暮らす主婦たちだ。

澤田は今後2年で主婦10万人を採用する計画をぶち上げた。働きたい気持ちはあるが、家事や子育てなどの制約を抱える主婦たち。質問にベテランスタッフたちが直接答えることで不安を取り除き、ファミマで働く気になってもらいたいと、初めて開催した。

スタジオで「コンビニはアナログ。人に寄り添う。地域の人たちに尽くす存在になっていく」と語っていた澤田。

たとえば東京・大田区のファミリーマート+カラオケDAM蒲田南口駅前店ではファミマとカラオケ店が合体、地域のオアシスになっている。一方、大阪府吹田市には商店街の活性化に役立つファミマもあった。吹田栄通り商店会店では、2階のイートインのスペースを、地域の様々な活動に使ってもらおうと無料で貸し出している(予約制)。子供向けの「お笑い教室」や「青春クラブ」「がんサポート」「婚活親の会」などというのもある。

「皆さんにどんどん来ていただいて、商店街も良かったしファミマも良かった。お互いに繁栄して、頑張って吹田の街を賑やかにしていきたい」(栄通り商店会・阪田孝次郎会長)

~村上龍の編集後記~

コンビニは、すでに社会インフラになっている。

澤田さんを迎え、3強と相対したことになるが、共通認識があった。「市場はまだ、飽和状態ではない」。3社とも、そう確信している。

巨大市場だが、商圏、店舗ごとの、細やかで、多様性のある努力・工夫の積み重ねが、競争を制する。1%が好みの店を変えるだけで、約1000億円が動く。端から眺めると実に興味深いが、経営陣、現場、ともに大変だろう。

澤田さんは「熱血漢」と評されることが多いが、冷静でロジカルな人物だった。

果たして、業界地図は塗り替えられるのだろうか。

<出演者略歴>

澤田貴司(さわだ・たかし)1957年、石川県生まれ。上智大学理工学部卒業後、伊藤忠商事入社。1997年、ファーストリテイリングに入社し、翌年、取締役副社長就任。2005年、リヴァンプ設立。2016年、ファミリーマート代表取締役社長就任。